100 gecs「ベッドルームでレコーディング」気質の2人が語る、ゴミ箱と音楽の話

100 gecs(Photo by Masato Yokoyama)

フジロック3日目、WHITE STAGEに出演した100 gecs(ワン・ハンドレッド・ゲックス)。ディラン・ブラディとローラ・レスの2人組は、ハイパーポップの寵児として2019年にアンダーグラウンドから一気にメインストリームに浮上。フジロックでは究極のDIYスタイルを体現するかのごとく、バックヤードレスリング感あふれる生身のパフォーマンス(ステージ上にあるのはゴミ箱とローラのスニーカーのみ)で、ポップ・パンク、エレクトロニック・ミュージック、ニューメタルなどを炸裂させていたのだった。

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ーフジロックのステージはどうでしたか?

ローラ:初めての場所でパフォーマンスをする時は、いつもオーディエンスがどんな反応をするかを気にしてる。うまくいった時の喜びは格別ね。ファンのみんなはサイコーだった!

ディラン:たくさんの人で賑わってた。

ローラ:ほんとに、山と木々に囲まれた会場の美しさにも圧倒された。

ーステージ上のゴミ箱の上に置いてあった機器が気になったんですが。

ディラン:あれはいわゆるキーボードだね。MIDIコントローラーで、バックステージのPCからいろんなサンプルやサウンドを出せるんだ。

ーああいうスタイルでライブをやるのは前からですか?

ディラン:最初のツアーではちゃんとしたテーブルでやってたけど、それ以降はゴミ箱を使ってる。いろんな種類があるよ。ヨーロッパでは旧ソビエトのゴミ箱を使った。あれは気に入ってた。サイズがデカくて…… 他には、めちゃくちゃ小さいゴミ箱もあった。こんなふうに…… (動きを再現)スパイナル・タップの「Stonehenge」みたいだな。



ローラ:その時に見つけたものを使ってる。ツアーに連れて行くゴミ箱もあるけど。オーストラリアのツアーでは持っていったはず、そうだったよね?

ディラン:ああ、そうだった。

ローラ:荷物としてゴミ箱を持ち歩いてる時、周りの反応を見るのってほんとに飽きない(笑)。それはゴミ箱だけじゃなくて、彼のデカい帽子も。バスドラムのケースに帽子を入れて運んでるんだけど、警備員にいつも止められるからーー。

ディラン:「これは何だ?」ってね。

ローラ:ただの帽子なのに(笑)。

ー(笑)帽子とゴミ箱とPCとキーボードがあれば、フェスでもクラブでも友達の家でも、どこでもライブができますね。

ローラ:LEDスクリーンなんかを持ち歩くよりは、よっぽど手軽だしね(笑)。

ーあと、出音がすごくいいなと思いました。音質というか、サウンドにはこだわりがあるのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?

ディラン:ああ。これまではかなりシンプルな方法で作ってたけど、今は全部のエレメントを別々に扱ってるから、どんな会場にも合わせて調整できるようになったんだ。

ローラ:ライブから多くのことを学んだしね。150公演くらいやったと思う。猛スピードで成長していきたくて。

ディラン:あと、僕らのエンジニアも優秀だ。

ー音へのこだわりっていう点だと、ニューアルバムの『10,000 gecs』には、フー・ファイターズの一員として今回フジロックにも出演しているジョシュ・フリースがドラムで参加してますよね。

ローラ:このアルバムを作っていた時、いろんなバンドの音楽を聴いていて。1stアルバム(『1000 gecs』)の制作時にはエレクトロニックを中心に聴いていたけど、今回はバンドサウンドを聴いていたから、そこから作曲やベース、ギターのパートについて考えて、ジョシュのような素晴らしいドラマーにお願いするってアイデアも生まれたの。



ーエレクトロニック・ミュージックからバンド・サウンドへと意識が向いたのは、どういったきっかけだったのでしょうか。

ディラン:いろんな音楽を聴いて、新しいフェーズに入ったっていうだけのことだよ。

ローラ:ええ。私たちは一音楽ファンであり熱狂的な音楽リスナーだから、こういったフェーズの変化はとても自然なこと。それに私は以前、ドラマーがいるバンドにいた。ずっと前のことだけど、そのバンドが嫌いでね(笑)。私はクリエイティブにおいて一切妥協したくない。ディランとうまくいってるのは、お互いが絶対に妥協しないから。私たちはいつも同じゴールに向かってる。バンドは好きだけど、そのバンドではうまくいかなかった。

ーディランもバンドをやっていたんですか?

ディラン:いや、僕はスタジオでバンドに関わっていたくらいでプレイはしたことがない。レコーディングを手伝ったりね。でもバンドミュージックはずっと聴いて育ってきてる、今もずっと。

ローラ:私たちはやっぱり「ベッドルームでレコーディング」気質だと思う。色々と試して、実験しながらできるしね。レコーディングなんかも、全部自分たちでやった方がよっぽど簡単だし。それがバンドと大きく違う点ね。

ディラン:『10,000 gecs』ではバンドっぽいアプローチをとったよ。ジョシュと一緒にハリウッドのデカいスタジオに行って、宅録っぽいサウンドを作ったんだ。

ローラ:ベッドルームっぽい感じ、ソフトウェア、ハードウェア……全部ごちゃ混ぜになってる。



ーアルバムで聴けるギターやベースは?

ディラン:僕たち2人でプレイしたよ。

ローラ:私は13〜14歳の頃にギターから音楽を始めたの。演奏するチャンスがあるなら、私はいつでもウェルカム。今回のアルバムのギターパートはほとんどディランが演奏したんだけどね。

ディラン:僕はギターを始めたのが遅いから、まだまだビギナーだけど。



ー自分で弾いているのであれば、ステージ上でも弾きたくなりませんか?

ローラ:ライブにはいつも楽器は持ってきていて、ステージで演奏する曲が1〜2曲くらいあるの。私がギターでディランはキーボードとかをね。今回はギターセットを持ってこれなかっただけ。スピーカーシミュレーターとBOSSのMetal Zoneのようなギターペダルを使う。まあでも、いろんなことをやるより歌うだけの方がパフォーマンスに集中できると思う。もちろん、両方をうまくできればいいんだけど。

ディラン:僕たちの曲にはちゃんとしたボーカルが入ってない。だからギターとボーカルを一緒にやるのは、なんて言えばいいかなーー。

ローラ:めちゃくちゃになる。

ディラン:だから歌う時にはなにも考えない方がいいーー。

ローラ:ええ。ただシャウトできる(笑)。

ディラン:ああ、やってやるぞってね。

ローラ:同時にやるとなると、ちょっと混乱しそう。

ディラン:でも、アコースティックの曲は弾きながら歌ったりするけどね。

ローラ:ええ。ギターを演奏するのは好きだけど、ベストなショーをするってことが最優先。今の私たちにとって、歌に集中することが最大限のベストだとしたら、それを選ぶ。そういう理由かな。

ー歌詞について聞かせてください。前回のアルバム『1000 gecs』の歌詞では等身大のトピックを綴っていたように思いましたが、今回のアルバムはどんなことを歌っているのでしょう?

ディラン:基本的には変わってないよ。

ローラ:大抵どんなことでも歌詞に書いてる。その曲がどういう局面で生まれたかによる。だから、曲ごとにそのニュアンスは違うと思う。もちろん、テーマはあるけど、リスナーから想像する楽しみを奪いたくないから詳細は言わない(笑)。大まかに言えば、私たちは「プレッシャーと自由」について歌ってる。


Photo by Masato Yokoyama

ー歌詞のアイデアは日頃からメモを取っていたりする?

ローラ:そうね。

ディラン:やってるよ。

ローラ:彼がメモをしてることは知ってる、とくに話したことはなかったけど。何か思い浮かんだ時にはスマホのメモに書き留めていて、歌詞を考える時にアイデアを見返してる。音楽を考えている時に突然浮かぶことが多いけど……今までの経験とか記憶に残っている出来事が一つに集結して、音楽におさまっていくのって面白い。一つのイメージや言葉、それらがはまっていく感覚……「これを言うために、これが必要だった」みたいな。ピタッとはまった時の気分っていつも最高。

ー歌詞の部分で、好きなリリシストがいれば教えてください。

ローラ:アレックス・Gは大好き。

ディラン:カート・コバーンもだろ?

ローラ:他にもたくさんいる。特にこのアーティストっていうよりかは、好きなラインがたくさんあるっていう感じ。ブリンク182の「Dammit」とか。あの歌詞は大好き……歌詞はね(笑)。あと、ベアネイキッド・レディースの「One Week」。

ディラン:あれはいいよね。

ローラ:ええ。ファンっていうわけじゃないけど、歌詞は好き。

ーちなみに、今2人が音楽以外で一番関心のあることは何でしょうか。

ディラン:食べること。

ローラ:テーブルを作りたい! 物を作るのが好きなんだけど、ずっとテーブルと椅子を作りたくて。今関心があるのは、その作り方。なんでか分からないけどすっごく惹かれる(笑)。あとは、犬と遊ぶこと。

ー音楽はもちろん、コミュニケーション、ライスタイル、クリエイティブなど、いろんな面で欠かせないインターネットについては、あなたたちは普段どう見てるんですか?

ディラン:不可欠な存在。快楽をもたらし、苦痛をもたらす。

ローラ:それからインスピレーションも。たまにはいいけど、ずっといるのはよくない。ほどよい距離感が大事。

ディラン:そうだな……学ぶべきこともあれば、脳のスイッチを入れるきっかけになることもある。あと、避けるべきこともたくさん。でも、可愛いネコを見るのは好きだよ(笑)。




『10,000 gecs』
100 gecs
ワーナーミュージック・ジャパン
発売中
https://wmg.jp/100gecs/discography/27165/

Translated by Mariko Kawahara, Natsumi Ueda

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