J-POPの歴史「1994年と95年、アーティストと時代の転機になった90年代半ば」

1994年にスペースシャトル・コロンビア号に乗船した向井千秋(Space Frontiers / 特派員/Getty Images)

音楽評論家・田家秀樹が毎月一つのテーマを設定し毎週放送してきた「J-POP LEGEND FORUM」が10年目を迎えた2023年4月、「J-POP LEGEND CAFE」として生まれ変わりリスタート。1カ月1特集という従来のスタイルに捕らわれず、自由な特集形式で表舞台だけでなく舞台裏や市井の存在までさまざまな日本の音楽界の伝説的な存在に迫る。

2023年5月の特集は「田家秀樹的 90年代ノート」。「J-POP LEGEND FORUM」時代に放送した「60年代ノート」「70年代ノート」「80年代ノート」の続編として、ミリオンセラーが日常となった空前のヒット曲の時代「黄金の10年」を振り返る。PART3は、1994年、1995年のヒット曲9曲をピックアップする。



FM COCOLO「J-POP LEGEND CAFE」マスター田家秀樹です。今流れているのは、桑田佳祐さんの「月」。1994年9月に発売になった2枚目のソロアルバム『孤独の太陽』の中の曲ですね。サザンオールスターズとは違う桑田さんが、この1曲にも感じられるんではないでしょうか?

アルバム『孤独の太陽』は桑田さんの2枚目で、アルバムチャート1位だったんですね。サザンオールスターズではここまで歌えないだろうなと思う憂いに満ちたシリアスな内容のアルバムでした。光と影でいうと影に焦点に当たっている、そんなアルバムですね。

この年の忘れられないインタビューの一つが、『孤独の太陽』のときの桑田さんの話ですね。彼は「音楽を議論してほしい」って言ってたんです。「自分たちは学生の頃に中古盤屋で買ってきた1枚のアナログ盤を巡って、これはどういうことを歌っているんだろうかとか、これはどうやって演奏してるんだろうかとか、朝まで議論したことがあるんだよ。今は音楽がそういう語られ方をしてないんじゃないかな。俺のこのアルバムは議論をしてほしいんだ」って言ってたのがとっても印象的でした。

そのとき彼はもう一つ言っていたんですね。音楽シーンのドーナッツ化。音楽シーンのパイはどんどん広がってるんだけど、中心がどんどん空っぽになっていっているんじゃないか。芯がないんじゃないかって言ってたんですね。肥大化する音楽業界、これでいいんだろうかっていう姿勢が表れてるインタビューだったと思います。『孤独の太陽』の後に『祭りのあと』ってシングルが出て、カップリングの「すべての歌に懺悔しな!!」が強烈でしたね。高級外車にふんぞり返ってる音楽業界に対しての強烈な皮肉の歌でありました。

巨大化するドーナツの未だにちゃんと芯になってると思えるような曲を、今週もお届けできたらと思っております。94年の年間チャート1位の曲。6月発売、Mr.Children「innocent world」。

Rolling Stone Japan 編集部

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