Borisと明日の叙景が語る、連帯関係と届けること、Merzbowとの交流

スタッフの役割の大事さ、DIYと協働

ーという感じで、一通り話が出たようにも思います。何か付け加えておきたいことなどあれば……。

布 そうですね。平地が不安だった……。

一同 (爆笑)。

布 川を見るとそれだけで落ち着いたんですよね。川と山を見て、心も体もだいぶ回復していくという。日本食が恋しくなるみたいなことは私はなかったんですよ。ところがどっこい、川と山を見ただけで自分は大丈夫だって思えました。

Takeshi オーストリアからイタリアへの風景はヤバかったね。

等力 良かったですね。僕あのあたり好きでした。

布 そうですね。傾斜が。丘陵地帯になってから。

Takeshi ときどき山の頂上にすごい城があって。

布 そういうの良いですよね。

ーそんなに平地が続いてる感じですか。

布 東欧とかはだだっ広いですね。ポーランドあたりで平地が続いて、徐々に丘陵地帯になっていくっていう。

等力 ウクライナの近くって、本当にウクライナの国旗みたいだよね。黄色と青と。

Atsuo ちょうど春だったからね。菜の花があって。いや、本当に生きて帰れて良かった。

等力 はい。そうそう、話し忘れたこととして、ツアーマネージャーという仕事が存在するという話で。カルチャーとして、バンドもスタッフもファミリーになってというところで。そこが僕もすごく面白いと感じて。明日の叙景も、ツアーマネージャー兼ドライバーの人を現地の会社から一人雇って行ったんですけど、僕と同い年だったんですね。29か28で。彼(機材レンタル、ツアーマネジメント会社Nomads of Praqueのトム)がずっと音楽を流しながらドライブしてたんです。それがすごい良くて。

Takeshi なに流してたの?

等力 基本的には、ハードコアとメタル。コンヴァージ周辺の音とか、Toolやマストドン。それから、クラシックなスラッシュメタルやデスメタルも。それで、僕がずっと助手席に座ってて、流れてくる音に対して「これ、○○だよね」という話をずっとしてたのがすごい良くて。イギリスに入った時にUKグライム流し始めて「マジで!?これ聴くの」みたいなことも。それでブチ上がって、ブチ上がってたら事故ったんですけど。

一同 (爆笑)

Atsuo ドライバーのプレイリスト、めっちゃ重要。

等力 それで、2人で例えば「BrooklynVeganの2022年のBest Punk聴こうぜ」みたいに話して、実際に聴いてたら「全然面白くなくね?」とか。「これどうよ?」「あ、でもこれけっこう好きかな」みたいな。

Atsuo 海外で聴くとすごく良いものと、良くないものが出てきたりするよね。

等力 個人的に普段は「そんなでもないな」と思っていたハードコアが、ドライビングの時に聴いたら「これイケるぞ」となったこともありましたね。なので、他のメンバーはイヤホンして作業したりとかゲームしたりしてたんですけど、僕は基本的には彼が選んだ曲をずっと聴いていようと思って。実際聴いてました。

Atsuo 良いよね。うちもそうだもん。ツアマネ兼ドライバーの。なんか、壮大な風景のときにいきなりアンビエントにするとか。

一同 (笑)

Atsuo あっ、映画みたいになってる!という感じで。あれ、すごく面白いね。

Takeshi あれは、俺らに聴かせてるんじゃなくてドライバー自身の気分だから。そしてその気分が大事。

等力 なるほど今こういうの聴きたいんだ、みたいな。

ー(アンビエントなのは)時間の経過をなんとか誤魔化したいんだ、という感じですかね。

等力 そうですそうです。

Takeshi うちのツアマネ兼ドライバーは、パワーバイオレンスのバンドやってて、ドラマーだから、かけるプレイリストも結局“ドラムがいいバンド”で、しかもすごく幅広いジャンルでかけてるから面白くて。

等力 アレシュ(Borisのツアーマネージャー)は今まで回ったバンドがみんなレジェンドすぎて、僕がデスメタルのTシャツ着てると「ああ、あのバンドは」みたいな話になるんですけど、それが面白すぎて。

Takeshi 彼はなんでも知ってるからね。

等力 「このバンドのツアーは」みたいな。デスメタル・リアル話を聞けたのが個人的にアツかったですね。

Atsuo 演者だけじゃなくて、スタッフも重要人物がいるんだよね。

等力 そうなんですよね。いろんなところに。それで、明日の叙景は今回サポート2人を連れて行って(Gen(Graupel)とGabrielが参加)、僕らよりも若い世代なんですけど、彼らのほうが僕らよりもやんちゃというか、バンドマンぽくて。それで、彼らがいると良い意味でツアーっぽくなる、というのもありましたね。普段の明日の叙景じゃない感じで面白いな、みたいな。


明日の叙景

布 あの2人、すごいツアーに似合ってましたね。明日の叙景メンバーは淡々としてるので、ツアーライフしてる感があんまりないんですけど。

等力 あの2人が来るとなんか事件が起きる(笑)。

Takeshi なんかね、ちゃんとお椀を持ってきてたね。楽屋に来ると、ポットで味噌汁入れるためにお湯が沸くのを待ってて。あっ、お椀持ってきてるんだって(笑)。

Atsuo MUCHIOくん(Borisのサポートドラマー)も持ってきてなかった?

Takeshi 持ってきてたね。

Atsuo うちのドラマーは120食分の味噌汁を持ってきてましたね。でも意外と全部は消費しなかったって。食事がめっちゃ美味しいからねヨーロッパは。俺は4kg太りました。

布 あと、ずっと座ってるからむくんでくるというか、指輪外すのがしんどくなってくるんですね。日本ではすごいきれいに外せたのに。

Atsuo そこは過酷なツアーだったからね明日の叙景は。車にぎゅうぎゅうに詰め込まれて。

等力 いま話すとけっこう美談になるけど、わりとまあまあなこともありましたね。ずっと同じメンバーで一緒にいるし、メンバーできちんと英語話せるのが自分だけだったので、自分をハブに重要な連絡が行き交うのも辛かった。

Atsuo あれイヤだよね。

等力 なので、後半には「もうなんとかしてくれ」みたいになりましたね(笑)。その日の飯を決めるのも自分がみんなのオーダーを取らなければならなかったので。そのくらいは自分で頼んでくれよと。

布 僕は自分で行こうとするんですけど、「お前は動くな」と言われて(笑)。DeepL翻訳を起動してるよ!とは言ってるんですけど(笑)。

等力 でも、みんな英語の勉強始めたとは聞きますね。

Atsuo 偉い。俺たちは全く勉強しないままここまで来ちゃったから。ほんと適当英語喋ってたでしょ?

Takeshi でも現場では音楽の話しかしてないからね。通じる。

ー逆に、これくらいツアーしている人たちがそういうこと言ったら、勇気づけられる人も多いのではないかと(笑)。

Atsuo 行ける行ける。今はDeepL翻訳あるしさ。

布 そうですね。ただ、やっぱりリスニングがしんどいんで、等力いないと厳しいんだろうなというのはありました。

Atsuo 慣れ、慣れ。

Takeshi あと、相性もあって。うちのツアマネ兼ドライバーは、よく話しかけてくる。俺は助手席だったんだけど。ずっと話しかけてくれるから、もう会話せざるを得ない。練習になるっていうか。今こういうフレーズを言ってるんだ、というのもメモったりして。日々勉強です(笑)。

Atsuo どうにかなります。僕らが実証してますから。

ー実際、Borisが一番最初に海外ツアーに行った時は、言語的なことに対する心配はどうでした?

Atsuo 当時はね、電子辞書みたいなのを持参したりとか。まあ結局、使うタイミングはないんですけど。最初は、オーガナイズしてくれた人がずっとアテンドしてくれたんで、毎回「いま何言ってるの?」みたいに聞いてたのを思い返すと、あれ本当にイヤだったろうな、とは思いますね。自分でどうにかしろよ、みたいな。もうね、やっぱり慣れですよ。慣れ。そのうちどうにかなります。これからどんどん海外に行きづらくなるけど、日本の若いバンドとかミュージシャンは、タイミング合ったら頑張ってでも行ったほうが良いよ。

布 ただ、今の日本のバンドに対して思っちゃうのが、Bandcampに登録しているところが少ないということで。サブスクにも登録してなかったりとか、CDも(一般流通では)買える状態になっていない場合も多かったり。

Atsuo Bandcampやってないバンドって、どうやってやり取りしてるわけ(笑)?全然わかんない。

布 分からないですね。いろんなライブハウスのイベントを見て、あっ好きなバンド出るな、対バン3バンドいるけどどういうバンドかな、と思って調べるんですけど、YouTubeにお客さんが撮った動画しか上がっていなかったり。

等力 みんな、騙されたと思ってBandcampやってみてほしいですね。買うから。

Atsuo ほんとそう思う。Bandcampやったほうがいいよ。マジで。

等力 明日の叙景が海外で聴かれてるのも、BandcampとYouTubeがあるから。ただそれだけだと思います。

布 EPの頃もデモの頃も、全部上げてたからね。

等力 神経質な話になっちゃうかなって思って言おうか迷ってたんですけど、外国人に対する嫌悪とか差別感情とか、そういうのがある人ってやっぱり多いんだなと。

Atsuo コンプレックスかな。

布 あと、わからないのってやっぱり怖い。

Atsuo あとはもう、日本の教育とかそういう問題になってきちゃうから。あんな何年も授業やって英語喋れないとか。うちのツアマネはチェコ人なんですよ。でも、英語が喋れることで世界中で仕事ができる。英語を介するだけで、すごいいろんな人に繋がれるわけだから。

Takeshi 伝えようと思えばめちゃくちゃな英語でも通じることがあるし。こっちが逆に気にしすぎだよね。完璧に返そうという。

等力 そういうことをすごい感じるというか。Borisも明日の叙景も、「海外進出できる理由は」みたいなことをよく聞かれてると思うんですけど、根本的にはオープンでいられるかどうか、そこしかないかなという気持ちがありますね。『アイランド』の方向性も、自分たちのやりたいことをやっやっているだけで、日本で人気が出たのがむしろ意外ではありました。

Atsuo 海外で評価されてることって、日本でのプロモーションツールには全然ならないね。いや、話は尽きないね。

等力 打ち上げまだやってなかったですからね。

布 いや、面白かったです。Borisがどういうふうに活動してどうやって生計を立ててるかというのは、みんな聞きたくてうずうずしていたと思いますし。

Atsuo 究極のDIYですよ。僕らは事務所にもこれまで全然所属してないし。

Takeshi 永遠のアマチュアですから。

ーそういう部分を近くで直接見て受け継げるというのも大きいですよね。

等力 仕事観、変わりますよね。

Atsuo 僕らが作品数多いのは、最初の頃に灰野敬二さんやMerzbowと一緒にやって、月に一枚出せば一人暮らしていける、というのを側で見たから。

等力 はい。それは僕もBorisを見てて感じましたね。作品数の多さだ、みたいな。

Atsuo でも、バンドにすごいこだわりがあったから。ソロでの活動みたいなのはあまりしなかったし。それで今みたいな活動の仕方になりましたね。

Takeshi 逆に、一人じゃ何もできないからね。我々は。三人でやるからこそのことなので。それぞれ勝手にソロで、みたいなこともないよね。

等力 明日の叙景も同じ感じですね。

布 等力はソロいけるでしょ。

等力 やんないやんない。曲提供も3年前にやめたので。

ーやめたんですか。

等力 もう完全にやめました。全断りで。単純に、もう自分の作品を作らなきゃなって思ったんで。

Atsuo Borisも、等力くんに曲書いてもらおう。

等力 僕、スプリットもやりたくない派になってたんですけど、最近Borisがたくさん出してるのを見てたら、やってもいいのかもしれないという気はしてきました(笑)。

Atsuo お互いに曲提供してそれをやるというのが面白いかもしれないね。

ーこれからもいろいろな展開がありそうで楽しみですね。本日は本当にありがとうございました。

一同 ありがとうございました。

<INFORMATION>


Boris with Merzbow “Heavy Rock Breakfast -Extra-”
7月19日(水)東京・吉祥寺 CLUB SEATA
OPEN 18:30 / START 19:30 TICKETS ¥6,000 (税込/All Standing /1 ドリンク代別途必要)
<問>クリエイティブマン:03-3499-6669
<チケット発売プレイガイド>イープラス / チケットぴあ / ローソンチケット / ZAIKO ※チケットの購入には、Zaiko アカウントの登録(無料)が必要となります
※クリエイティブマンの公演ウェブサイトに掲載されている注意事項を必ずご確認いただいた上でチケット購入、来場ください。
※公演の延期、中止以外での払い戻しはいたしません。※未就学児(6 歳未満)のご入場はお断りいたします。
主催:VINYL JUNKIE RECORDINGS 協力:クリエイティブマンプロダクション
https://www.creativeman.co.jp/event/boris-with-merzbow/

明日の叙景 Solo Concert "Island in Full”

7月23日(日)大阪・南堀江SOCORE FACTORY
<問> 南堀江SOCORE FACTORY 06-6567-9852
2023 年8月27日(日)東京・代官山UNIT
<問>クリエイティブマン 03-3499-6669
https://www.creativeman.co.jp/event/asunojokei/

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