Borisと明日の叙景が語る、連帯関係と届けること、Merzbowとの交流

アートワーク、「届ける」ということ

ーここで、「音楽そのもの」以外ということと話を絡めて、アートワークなどについても伺いたいと思います。明日の叙景については、この間のアルバムでアートワーク的なところが特に印象に残った人も多いと思うんですね。ああいう方向性を選んだきっかけやマインドセットはどういうものだったのか、ということを改めてお聞きしてもよろしいでしょうか。

等力 マインドセット的には、やりたいことをやろうという気持ちがメインで。好きなイラストレーターさんの名前を並べて話し合ったとき、この人(陽子)がいいんじゃない、という感じで。直感というか、本能で惹かれる部分でそうしたのもありましたね。

Atsuo 一番タブーで、一番ベタでもあるところなわけでしょ。

等力 そうですね。でもどうなんだろう。自分をメタ認知するのは難しい。

布 少なくとも最初の候補としては、日本画の人も挙がりましたし、写実画の人も挙がったり、ポリゴンとか、3Dと実写を合わせたアーティストさんもいたり。いろいろ挙げて、自分たちの中でこの「夏」って季節感もいいよねって言ったり、自分たちはどういう子供時代を過ごしたり、J-POPやゲーム、アニメに触れてきたか、というのを確認し合ったりもしました。

等力 僕らは『アイランド』を作るとき、アートワークをわりと早めに決めたんですよ。その前に、まず布さんが曲のテーマを決めるから、それにあたってみんなの音楽原体験を集めるみたいなことをやって。みんなで「なんで音楽やってるのか」とか「今までやって良かったと思うこと」「嫌だったこと」とかを書き出していって、その中で結構みんな心を開いていって。その上で、じゃあやりますか。みたいな経緯はありました。

布 そうやって集約されて、まずは一旦、自分たちの好きなことを余すことなく表現しようということになりました。あと、もう一つ言うんだったら、これ等力がよく言うんですけど、メタルとかハードコアのシビアな感じとかシリアスな雰囲気からちょっと脱却したいなって。それだけじゃないんだよ、というのを示したのが、『アイランド』のアートワークに繋がったんだと思います。



Atsuo Deafheavenも、「メタルはピンクのアルバム出さなきゃダメ」と言ってて。

布 なるほど。だから『Sunbather』(2013年)がああなった(笑)。



ーそのルーツにBorisの『Pink』もありそうですね(笑)。



Atsuo そうそう。

Takeshi ちょうどその頃、アメリカ一緒に回ってたんだよね。そういう話を彼らとしてて。

Atsuo メタルのそういうセオリーみたいなのをどう超えるべきか、みたいな話をして。

Takeshi 音楽的には俺らとは一見共通点ないんだけど、新しい見せ方だったり、価値観をどういうふうに更新していくかという点で、シンパシーを感じるところがあったなと思います。

布 Deafheavenは、デモ(2010年)も、1stの『Roads to Judah』(2011年)も、けっこうポストロックとか、アーティスティックなエクストリーム・ミュージックの文脈からはそこまで外れてはいないんですよ。『Sunbather』からなんですよね。

等力 そういえば、『アイランド』のアートワーク決めるとき、Borisのアートワーク並べたよね。

一同 (笑)

等力 ロゴをどうするか問題。アートワークごとにロゴを変えてるバンドというテーマで、BorisとVoivodを並べたんですよ。新ロゴも含めてどうしようか考えて。毎回同じロゴを使うのもけっこう難しい気がしていて。

Atsuo あの雨宮慶太みたいなのは。

ーここもまた世代の差が(笑)。

等力 筆字のやつですか。あれはまだ1stの頃の。

布 あれはまだ、あまり深く考えてない頃のやつですね。かっこいいなと思いあのようにしました。

等力 アートワーク作る際、あれは使えないねってなったときに…

布 毎回そうなってましたね。アートワークとバンドロゴがどうしても合わないという点は毎回課題でした。

等力 アートワークごとにロゴを変えてるバンドってなんだろう?ってなったときに、BorisとVoivodが挙がったっていう。

ーなるほど。ちなみにBorisも『Pink』あたりから、音のヘヴィさには一見結びつかないようなアートワークが多くなってきたじゃないですか。あれは、どういった考えから導き出されたものなんでしょうか。

Atsuo ボーカルにしてもドラムにしても、アートワークにしても、「人に届く」というのがすごい重要なんですね。叫び一つとってみても、キャッチーな叫びとそうでないのがある。なので、すごい感覚的なことかな。届けたいと思うものなので。

ー『Pink』(2006年リリース、Pitchforkの年間ベスト9位に選出された)の話でいうと、あの頃はどういった層に届けたいと考えられていましたか。

Atsuo うーん……、届けたい層のイメージというのは、あまりしないのかも。

Takeshi ただ、色に関しては、一番わけのわからない色ってピンクだよね、という話はしてたよね。白でもなくて、黒でもなくて。

Atsuo セクシーで、毒気もあって。軽薄で。

Takeshi 白とか黒、特に黒だったりすると、やっぱり訴求するところが限られる。なんとなくイメージあるじゃないですか。

ーはい。黒白だったらDischarge系のハードコアとかですね。

Takeshi うん。で、ピンクって本当に訳がわからない。

Atsuo 「届けたいな」って思いが基本的に強くあって、それが手段とか方法論とか、最終的な音の表情とかビジュアルだったりに繋がる感じですね。

Takeshi 外からの捉え方が一番わけわからない色。猥雑だったり、「なんかポップになっちゃって」と考える人もいるだろうし。「なんか仕掛けてきたな」という受けとめ方もあるだろうし。そうやっていろんなところに届けばいいかなって。

布 それをフックとしていろんなところに届くということでしょうか?予想の範囲内に留まるものだとそのままスルーされてしまうけど、意識をこっちにグッと引き寄せるようなもの方がよいといいますか。

Atsuo よく言うのは、身内に笑われるくらいのことやりたいね、という。身内がドン引きするくらい。

等力 それはそう思います(笑)

Takeshi それぐらいが、たぶん外に出たときにちょうど良いんだよね。

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