浜田省吾、5万5千人を集めた88年渚園野外イベントがいま映画化した奇跡の背景



田家:この表情のアップが、フィルムだなっていう質感でしたね。

板屋:そうですね。見ていただくとわかるんですけれども、通常はズームレンズをつけてるんですよ。ほとんどのカメラは。だけどあのときのあの曲のステージの上のカメラマンは、おそらく200ミリか400ミリだと思うんですけど、単玉って言って、あのサイズ以外撮れない。それでフォーカスを送って画面をキープしてる。あれはもうカメラマンの技量が際立ってますし、ビデオだとああいう質感というかツヤ感はやっぱり出ないと思いますね。それと同じような感じで、さっきお話しましたけど「僕と彼女と週末に」で浜田さんが途中モノローグが入るんですよね。あれも200ミリか400ミリですね、おそらく。なんですけど、他のカメラはもう全部暗くて見えてないんですよ。当然ファインダーには横顔もほぼ見えてないはずなんです。だから多分ですけど、サングラスのフレームのちょっとした光とか、マイクのちょっとした光を頼りにキープしてるんですよ。あそこの部分がなかったらきっと全く違ったか、もしくはなかったかもしれないですねこれ自体。

田家:カメラマンが何を撮ってるかっていうことは、司令室の板屋さんのところには何も情報がないわけでしょ。

板屋:ないです。どんな絵を撮ってくれてるかも確認はできないですから。

田家:「丘の上の愛」でステージ上の左右のカメラマンがああいう固定したカメラで、あれだけじっくり表情を追ってるってことも、当時はわかってないわけですよね。

板屋:それは前の晩とかリハのときには打ち合わせしますけど、回ってるかどうかとか、どんなふうに撮れてるかどうかはわからないんですよ。

田家:本当に一つ駄目だったらこの映画が成り立ってないっていうことの連続ですね。

板屋:2018年に『旅するソングライター』という映画が公開されてるんですね。

田家:2015年から16年のツアー。

板屋:その話が来たときに、僕は反対したんです。実はもうその時、渚園をやりたかったんですよ。それで僕のところに来たときが、ちょっとライトウェイトな仕事帰りに誰でも映画館で浜省のライブが楽しめるみたいな、そういうもので来たんです。なんですけど、僕はもう渚園が頭にあるし、その気軽感がちょっと受け入れられなくて、誰かお前はクビだって言ってくんないかなぐらいまで制作途中煮詰まったりもしたんです。でも、『旅するソングライター』が大成功したから渚園もやろうということになった。渚園が最初だったらここまでできてないですね。時間もお金もどんだけかかるのよって。だからそういう意味で言うと、やっぱり全てが何か繋がってるんだなって今は思います。

田家:そういう映画です。お聞きいただく最後の曲は、86年のアルバム『J.BOY』の中の「J.BOY」なんですが、映画の中で使われてる渚園ライブでお送りしようと思います。

J.BOY (Live from "A PLACE IN THE SUN at 渚園") / 浜田省吾

田家:驚いたのは音の良さ。当日、会場にいわゆる集音マイク的な、お客さんの声とかノイズを拾うマイク立ってたかなと思って。

板屋:立ってはいるんですけど、1988年ですから、3324というデジタルのマルチテープを使ってるんですけど24チャンネルしかないんです。今だったら100チャンネルとか、いっぱい使えますけど、プロトゥールズとかない時代で。例えばギターとかボーカルの回線もたくさん必要ですよね。10何本オーディエンスマイクを立てても、2チャンでしか収録できなくなるんですよ。現場でまとめちゃうってことですね。5万5000人の規模で、2チャンネルしかオーディエンスの音が拾えてない。ミキシングのエンジニアの方は苦労したと思いますし、この渚園は映画館で上映するっていうのが基本だったので、映画館用にダビングステージっていうミキシングのルームに入って、通常の販売用のビデオとかではなく映画館の設定ミックスをするんですよ。だから低音も出てるし。『旅するソングライター』のときに勉強した経験が今回はうまく生かされてて、そういう意味で言うとコンセンサスっていうかお互いが理解し合ってるので、音に関しては本当にいい音でできたなと思ってます。

田家:35年経って、こういう映像とこういう音で楽しむことができるなんて本当に夢にも思わなかった。そういう映画になりました。4月19日、TOHOシネマズ ららぽーと門真で先行有料上映会があって、板屋さんと、来週のゲスト岩熊信彦さん、トークコーナーに登場していただきます。僕が司会することになりました。その節はよろしくお願いします。

板屋:楽しみにしてます。ありがとうございました。

Rolling Stone Japan 編集部

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