田家:自分がやってることがどういう形で進んでるかわからない状況っていうのは想像つかないですね。
板屋:僕もうまく言えないですね、あの状況。
田家:運を天に任せるしかないみたいな。
板屋:この曲を編集してるときに思ったのは、浜田さん帽子を渚園で2回客席に投げるんですよ。「愛のかけひき」の麦わら帽子。
田家:今だったら浜田さん客席に何か物を投げるなんて絶対しないですけれど、あの二つの帽子は今どうなっているんでしょうね。キャップと麦わら帽子。持ってる人絶対いますよね。宝物ですね。撮れなかったかもしれないもう1曲っていうのは?
板屋:これは、あえてですけど映画の中でわかりやすくしてるんですよ。「僕と彼女と週末に」っていう長い曲なんですけど。これで絶対に撮っておきたかったのは、巨大な後のイントレが割れて奥にオブジェが出る。あそこも撮れるように全部のカメラを計算してるんですけど、長い曲じゃないですか。フィルムも11分しか回らないので途中でガンガン落ちてって。見ていただくとわかりますけど、後半のものすごくいいギターソロのところで1台しかカメラがないみたいな。その後どんどんカメラ復帰していくんですけど、これもピンチでしたね。やっぱりごまかしたくないじゃないですか。だから、当時回っているその絵を使おうと。
田家:確かに全体像が写ってるシーンはワンカットだけですもんね。
板屋:どっか違うような絵を持ってきたりしたくなかったんで、本当にあのときのあの状態をそのまま再現しようということです。
田家:綱渡りの記録でもありますね。そういうフィルムで撮った映像が映画館公開で耐えるものになったっていうのが最初に話を聞いたときの驚きでしたね。16ミリで撮ったものが、今の映画館の大スクリーンで耐える映像になってるんだろうかと思った。
板屋:まずは、16ミリのネガフィルムがきちんと保管されていたっていうのが大きいんですけれども、撮影から30年ぐらいたったフィルムじゃないですか。ということは、そのまま映像にすることはできなくて、やっぱりクリーニングしなきゃいけない。パリパリって剥がれたりしないように。これを大阪の「イマジカ」にお願いして、大体2カ月クリーニングにかかりまして。当時はワイドスクリーンではないんですよ。テレビも4対3のスタンダード。で、どういうふうにしたかというと、4Kスキャンをしたんですね。フィルムっていうのは1秒24コマで回るんです。ということは1秒の新しい映像を再現するためには24回スキャンしていくんですよ。それが13カメ分あって、何ロールもあるわけじゃないですか。これの作業だけに、また1年以上かかりまして。
田家:それを手作業でやるわけですか。
板屋:手作業ですね。これが1年以上かかったんですけど、問題なのはフィルムですから、音が入ってないんですよ。で、僕のスタッフの久保田君が当時のマルチテープから音を仮にミックスしてもらって今度は目で合わせていくんです。この曲を歌っているかなみたいな。照明の変わりで、これはこのシーンだなみたいな。これにまた2カ月。そこからやっとオフラインに入るんですね。
田家:スキャンがなかったら、こういう映像を映画館で見ることができなかった。フィルムならではという曲をご紹介しようと思います。