イヴ・トゥモア「フジロック降臨」が見逃せない理由 ロックスターとなった黒い異星人の歩み

イヴ・トゥモア(Photo by Jordan Hemingway)

 
〈Warp〉が誇る新時代のロックスター、イヴ・トゥモア(Yves Tumor)のフジロック出演が発表された。すでに最高傑作の呼び声高いニューアルバム『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』を携え、一体どんなステージを披露するのか。新進気鋭の批評家、伏見瞬が考察。

今、世界に必要なのは愛だ。
そしてイヴ・トゥモアの音楽は、つまるところまっすぐに貫かれた愛の音楽である。

FUJI ROCK FESTIVAL 2023への出演が決定したイヴ・トゥモア。2018年、2019年と来日があったが、今回がコロナ禍以降初のショーとなる。そして、明らかなグラムロック化を果たして以降初のステージであり、日本のフェスへの登場も初だ。

イヴ・トゥモアは常に、エクスペリメンタルな音楽家として紹介されてきた。しかし、イヴ・トゥモアのやっていることは実験ではない。「この人がいなければ、この人がいなくなれば、私の生に意味が見いだせなくなる」。切迫した思いを託した、徹底的に叙情的な愛の表現こそが、その音楽の核にある。


Photo by Jordan Hemingway

イヴ・トゥモアは、アメリカ合衆国・フロリダ州マイアミ生まれの電子音楽家/プロデューサー/パフォーマー、ショーン・ボウイのソロプロジェクト。テネシー州ノックスヴィルで育ち、17歳より音楽制作を始める。20歳でサンディエゴ、その後にロサンゼルスへ移る。2010年代初めにレコーディングを開始。2010年代初頭にTEAMS名義でヴェイパーウェイヴに連なるトロピカルなサンプリング・ミュージックを発表し、イヴ・トゥモア名義としては2015年の自主制作盤『When I Fails You』でデビュー。翌2016年に〈Pan〉からの『Serpent Music』は多くのメディアから高評価を獲得。2018年には〈Warp〉と契約し、『Safe In The Hands Of Love』で知名度を大きく広げた。2020年には4枚目のアルバム『Heaven To A Tortured Mind』をリリース。昨年にはEP『Asymptotical World』、そして今年3月17日に5枚目のフルアルバム「Praise a Lord Who Chews but Which Does Not Consume;(Or Simply Hot Between Words)」を発表した。

初期の作品には、何を考えているかわからない不気味さと、センチメンタルな感触が同居するアンビエント性が目立った。例えば『When I Fails You』収録の「Slow(Subvutis Version)」はカイリー・ミノーグ「Slow」を思い切りサンプリングした半ばリミックスと言っていい楽曲だが、ダンスビートを押し出してエロスを強調した原曲の雰囲気は一切残していない。ピアノのアルペジオのループに変調したカイリーの声が絡むノンビートの演出は、幽玄な気配であたりを包み込む。同時に、どこか寂しい郷愁が音の間を漂っている。



まず、変化を遂げたのは『Safe In The Hands Of Love』の時だ。ビートとノイズを強調し、ジャズやソウルからのサンプリングを駆使して、攻撃的かつ快楽的なサウンドを作り上げた。その折衷具合や音響に対するアプローチは2000年初頭のポストロック、例えばフォー・テットやトータスを思わせるものだった。しかし、当時のポストロックが純粋な音そのもののストイックな研磨を主張し、歌詞の意味性やヴィジュアル要素を排除しようとするムーブメントだったのに対し、イヴ・トゥモアはヴィジュアルへの意識も強かった。ショーン・ボウイが半裸の体を輝かせる「Licking An Orchid」のビデオは、イヴ・トゥモアがヴィジュアルと音双方を強く意識している作家であることをアピールした。



『Heaven To A Tortured Mind』ではバンド色をより強調し、グラムロックに急接近する。元々、ディーン・ブラントやアルカにも通ずるエキセントリシティを感じさせる作家であったし、生演奏と電子音を混ぜた折衷的なサウンドを生み出していたとはいえ、ここまでの大きな変貌には誰もが驚きを覚えた。騒がしいギターの渦と、電子処理の施された機械的なファンクのリズム。そして、渇きと同時にねちっこさを湛えるショーン・ボウイの声。その音楽は、70年代のデヴィッド・ボウイやロキシー・ミュージックの現代版を思わせる刺激的かつ虚無的な世界をイメージさせる。


 
 
 
 

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