ペイヴメントが語るバンドの軌跡とそれぞれの人生、ギャリー・ヤングの今、新作の可能性

 
5人が選ぶベストアルバム、1999年の解散を振り返る

―みなさんも参加して、ペイヴメントのアルバム・ランキングを語り合う動画を見かけました。その場では『Wowee Zowee』がベストに決まったみたいですが、それぞれ個人的に好きなアルバムはどれでしょう?



スティーヴ:『Brighten the Corners』かな。曲の繋がりやテンポが気に入っている。曲の長さがちょうどよくて、よくまとまったアルバムだと思う。録音もうまくいっているし、最後のアルバム(『Terror Twilight』)ほどきっちりしすぎていない。とても穏やかな気持ちで聴くことができるんだ。

ボブ:ミッチ・イースターは僕らのヒーローだった。

スティーヴ:ブライス・ゴギンもね。(同作の共同プロデューサーを務めた)素晴らしい2人と一緒に制作できた。



スコット:僕は『Terror Twilight』だな。

マーク:僕も『Terror Twilight』が好き。(筆者が持参した2022年のリイシュー版『Farewell Horizontal』を指差して)このパッケージが出たおかげで、全ての収録曲を聴き返すことができたし、リハーサル中に聴きながら参考にすることもあった。

マルクマス:おかしな曲ばかりだろ。

スコット:素晴らしいレコードだよ。

マーク:スティーヴンのデモ音源が気に入っている。このアルバムの収録曲を練習するときにもよく聴いていた。『Terror Twilight』の違う側面を見せてくれるんだ。そこからこのアルバムとの向き合い方も変わった。僕らにとってのベスト・リイシューだと思う。



マルクマス:『Slanted and Enchanted』だね。サウンドが異質なところが好きなんだ。取り止めがなく、自分が何をやっているのかはっきりしていない感じがあって、このアルバムをみんな気に入っていた。当時20代だった僕の人生の基盤にもなったし、これから先もそうだろう。このアルバムには感謝しかない。



ボブ:『Wowee Zowee』かな。素晴らしい曲がいくつも収録されている。

マルクマス:僕も好きだ。

ボブ:僕らにとって一番忙しい時期だった1994年の『Crooked Rain, Crooked Rain』のあと、今まで到達しなかったような場所に行けた。僕らにとってペイヴメントは、プロジェクトというより人生そのものなんだ。全ての曲をみんなで作り上げてきた。中には自己満足だっていう人もいるだろうけど、僕らはとにかく最高のレコードを作ろうとしてきたんだ。



マルクマス:なあ、あのアルバム(『Wowee Zowee』)のテープを誰か持ってないかな。まだリリースしていない別バージョンが入ってるんだ。2インチのテープで……。

スコット:マストなのか?

マルクマス:知らない? まだミックスされてないんだ、なあスティーヴ?

スティーヴ:ああ、2リールはある。でも5曲くらいしかないはず……。

マルクマス:「AT&T」の別バージョンもあって、出来はあまりよくないんだけど。(メロディを口ずさんで)“I’m the true blue〜♪”みたいな歌詞の曲もあったはず。リイシュー版(2006年の『Sordid Sentinels Edition』)ではミックスされていないから、どのデモにも入ってないんだ。

スコット:あんな大量にミックスしたじゃないか、違うミックスのことを言ってるのか?

マルクマス:ミックスはやってない、2インチのデータだけだよ。

マーク:すぐにこうやって話が別の方向に……。

ボブ:いつものことさ(笑)。

マルクマス:やっぱりよくないな、ミックスするのはやめよう。それは今出したくない。

スコット:わかった、別々にしよう。

ボブ:これはビッグニュースだね!

―リリースが楽しみです(笑)。私もマークさんと同様、『Terror Twilight』リイシュー版のデモ音源に驚かされました。いつもギターで曲作りしていたのかと思いきや、モーグ・シンセや打ち込みを使ったデモがたくさん収録されていたので。当時はどのように作曲していたのでしょう?


マルクマス:Rolandの8トラック・デジタル・レコーダーを持っていたんだ。当時にしては新しいやつだったかもしれない。友達がくれて、それでデモを作った。ジャジーなループなんかを作って、バンドに新しいフィーリングを持ち込もうとしたんだ。どうやって作ったかはっきりとは覚えてないけど、(昔と)大きな違いはなかったと思う。

そもそもバンドを始めた当初は、デモを作らないのが賢明だと思っていた。僕らは誰かの期待に応えるために音楽をやっていたわけじゃないし、特別なこだわりがあったわけでもないから「最初の音源」さえあればよかったんだ。『Slanted and Enchanted』と『Wowee Zowee』はそんな感じだった。スタジオに入る前に練習もリハーサルもしなかったんだ。レディオヘッドも同じ方法でやってたよ。『In Rainbows』の時、彼らはデモを作らずにレコーディングしていた。バンドというのはその方がうまくいく時もあるんだ。「Fight this Generation」には、まとまりがなく乱雑な感じがうまく滲み出てる。あれが1回しかやっていない良さだ。何度も演奏すると感覚が掴めてしまう。




―『Terror Twilight』から話を続けると、特にマルクマスさんは2000年代に入ってからも、実験精神を失うことなく安定したペースで制作を続けてきましたよね。例えばヨ・ラ・テンゴのように、ペイヴメントも一度も解散することなく活動を続けている未来はありえたと思いますか? それとも1999年の解散は必然だったのでしょうか?

ボブ:タフな質問だね。

マルクマス:必然だったということはない。でも僕らにとっては自然なことだった。バンドの歴史上には、たしかにずっと続けている人たちもいる。ヨ・ラ・テンゴ然り、U2然り(笑)。でも、充実した音楽活動を10年くらいやって解散するのはよくあることだと思うよ。しかも、ツアーでいろんな国を回ってインスピレーションを得ることも、長年続けていると精神的な面でも難しくなってくる。例えばレディオヘッドとかのマネージャーみたいに、根気強く励ましてくれたり、辛い時にマッサージしてくれるような人がいたら別かもしれないけど。

―(笑)

マルクマス:もしくは彼らのように、僕たちもそれぞれソロ活動を続けるという選択肢もあったかもしれない。他のバンドと比べるわけではなく一般論としてね……要するに、4、5枚のアルバムをリリースできたことで僕らは満たされたんだ。



ボブ:90年代のバンドは、99年までに解散してることが多い。

マルクマス:ああ、どのバンドもいずれは解散する。ビートルズさえもそうだ。ストーンズはいつまでも続くけど。

スコット:もし僕らが韓国で生まれていたら、30歳で兵役に行かなきゃいけなかった。

マルクマス:20歳じゃなくて30歳なのか?

スコット:そうじゃなかったかな(※)。妻と娘がK-POPファンで、彼女たちの好きなバンドのメンバーが兵役の影響で活動休止したんだ。

※通常は満20歳〜満28歳までに入隊、特定のポップスターらは満30歳まで延期できる

Translated by Emi AokiEmi, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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