betcover!!がついに明かす飛躍の理由、驚異の創作術、海外からの眼差し

音響ハウスでの挑戦、ジャック・ブレルに憧れて

―『卵』は『時間』の延長線上にあるアルバムで、音像も近いといえば近い。その一方で、『時間』では『中学生』の頃にも通じるギミック的な音作りも見受けられたのに対し、『卵』はもっとオーセンティックな作風をめざしている、というのが自分の解釈でした。

柳瀬:そうですね。一発の衝撃よりも、ずっと聴けるものの方がいいなって。シンプルでオーセンティックというか、単純な音楽のなかにも表現の幅はたくさんある。特にダイナミクスとオーケストレーション。僕はクラシック音楽も好きなんですけど、音の積み方というか。今はそっちのほうが大事ですね。



―となると、演奏と録音がすごく大事になってきますね。

柳瀬:そうなんですよ。今はダイナミクスを生み出すために頑張っているところです。ドラムの音のニュアンスとか、もしくは歌い方にしても。(突き詰めると)ロックミュージック的な話ではなくなってくるけど、そういうのこそ音楽的なんじゃないかって思うので。

―『卵』のプレスリリースで「音響ハウス(1974年に設立された銀座の老舗スタジオ)で一発録り」というのが強調されていましたが、ここまでの話とも繋がってきそうですね。

柳瀬:『時間』の頃は新しいメンバーが入ってすぐだったから、プレイの釣り合いも取れてなかったところを、音響面を工夫することでフォローしていたんです。でも今回は、ライブの回数も積み重ねてきたので、各々のプレイで聴かせることに挑戦しようと。

音響ハウスはエンジニアの池田(洋)さんが薦めてくれて。ネバヤン(never young beach)で以前使ったのがよかったみたいです。ブースがとても広くて、本当に響きが良かった。今回ドラムの音は、ほとんど上に立てるマイクで録りました。アンビ(エンス)のマイクを2本立てたら、空間でドラムが鳴っているダイナミクスが録れると思って。1曲目の「母船」以外は、ほぼこの録り方。大きいスタジオじゃないとできないやり方でしたね。演奏のニュアンスが露骨に伝わるぶん、難しさもありましたけど。

音響ハウスのInstagramに「ヴィンテージ機材を始め様々な持ち込み機材、いろいろな実験・試行錯誤があり、和気藹々としながらもクリエイティブな現場になりました」と書いてありましたが、そうだったんですか?

柳瀬:めっちゃ持ち込みました。全然使わなかったけど、持ってるやつを全部かき集めましたね。ほかにも、幼稚園のブラスバンド用のおもちゃみたいなドラムを使ったりしながら試行錯誤したりとか。音響ハウスは3日間しか使えなかったので、1日目はほぼ音作りをして、2日目でほとんど録り終えました。大体の曲は2テイク以内。一発録りする場合、3回目とかになるとヌルくなっちゃうから。


Photo by Riku Hoshika

―そもそも一発録りにこだわる理由は?

柳瀬:一番は経済的な余裕がなかったからですが、そういう経済的事情を発生させるために、音響ハウスを選んだっていうのもあります。

―逃げ場をなくしたかった?

柳瀬:はい。今回は「できることを減らす」っていうのもテーマで。池田さんのスタジオを使えば、プラグインも揃ってるし何でもできるけど、何でもできる時代だからこそ、あえて不自由な環境で作る方が面白そうだと思って。できることを制限して、その中で何ができるか。昔はそうだったわけじゃないですか。それがカッコ良さにも繋がっていたわけで。

―betcover!!の曲は変拍子も多いから一発録りは大変そうだけど、そこは根性?

柳瀬:根性ですね。未だにめっちゃミスりますよ。7拍子のところとか、ライブでいつも誰かしらミスってる(笑)。僕は吹奏楽部上がりなんですけど、吹奏楽とかクラシック、映画音楽の曲だと6/8(拍子)から7/8、4/4にいって5/8みたいなのが普通に出てきますから。ただ、プログレとかマスロックみたいな意識は全然なくて、僕としては普通にやりたいんですよ。「変拍子かっこいい」とは思われたくないんですよね。昔から変拍子を使ってますけど、クレイジーとか中2病マインドでやってるわけじゃない。今回も7拍子を使った曲がありますけど、いかに7拍子感をなくせるかに労力を費やしました。「これは7拍子じゃない!」と思い込んで……。

―「気づくな!」と。

柳瀬:でもバレちゃう(笑)。なるべくバレないようにやってます。

―そういう意味では、先ほど「映画監督になりたかった」という発言もあったし「映画音楽が好き」というのは以前にも聞いてましたが、『卵』はそちら側により近づいたような印象も受けます。

柳瀬:そうですね、近づけていたらいいなって。映画音楽もいろいろあって、僕が一番影響を受けているのはピエロ・ピッチオーニ、ピエロ・ウミリアーニ、あとはセルジュ・ゲンスブール。大野雄二も大好きで、最近は『犬神家の一族』をまた観返して、サントラをずっと聴いています。僕にとって映画音楽の道標ですね。バンドミュージックで、たまに歌も入るけど、どうしてこんなにも情景的なんだろうって。「映画的」っていうよりは「情景描写的」という方が近いですね。いかにその情景を浮かばせる音楽が作れるか。





―うんうん。

柳瀬:そういえば最近、フランスのメディアによるインタビューに答えたんですけど、「ジャック・ブレルのフィーリングを感じた」と言ってもらえて、本当に嬉しかったです。彼を初めて知った時は鳥肌が立ちましたね。ジャック・ブレルみたいなアーティストを探してきたけど、ずっと見つけられなかったので。汗をかきながらガッドギターを鳴らし、歌はポエトリーに近いんだけどメロディの強さがあって、しかも詩人でもある。まさに僕の求めていた存在でした。

彼のことはコメディ映画(2007年のフランス映画『TAXi④』)で知りました。ベルギー人に対しての拷問で、ジャック・ブレルのレコードを早回しでかけるっていう内容。ジャック・ブレルはベルギーの人だから、「これはベルギーに対する冒涜だ!」みたいなシーンがあって(笑)。それを2〜3年くらい前に観たのがきっかけですね。そういう出会いもあったから、僕は演劇的なものに惹かれるというか。ポップミュージックというよりも、表現としての音楽をバンドミュージックで突き詰めていきたい。それが目標ですね。


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