ヒップホップ・カルチャーを担う女性たち「Akira Fukuoka」

「1%」立ち上げのきっかけ

ー2018年に1%を立ち上げたいきさつは?

福岡 その頃はエイベックスと仕事させてもらったりもしてたんですけど、『高校生ラップ選手権』とかもあって、若いラッパーたちが盛り上がってきてたんですよね。それで若いラッパーたちと何か新しいことをやりたいなと思ってたんですよ。それでレコード会社の上司に相談したらやってみなよって言ってくれて。

ーその時に契約したいと思った若いアーティストはいたんですか?

福岡 新しいラッパーをYouTubeとかで検索したりもしたんですけど、若いからそもそもMVを出してるラッパーとかがまだ少なくてよくわからなくて。その頃、韓国で『SHOW ME THE MONEY』っていうラッパーのオーディション番組が流行ってたのを見て、オーディション番組をやれば向こうから応募してきてくれるのではないかと思いついたんです(笑)。あと当時は『フリースタイルダンジョン』がすごく流行ってた時期だったんですけど、世間ではラッパー=フリースタイルみないな認識になっていて、それでRYUZOくんに「フリースタイルじゃなくてラップの楽曲で勝負する番組があったらいいよね」みたいな話をしてたんですよ。ヒップホップ版の『ASAYAN』みたいな。そしたらRYUZOくんが藤田さん(株式会社サイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋)に相談してみようってなって。藤田さんもやりましょうと言ってくれて。それで『ラップスタア誕生』という番組が生まれるんですよ。最初は500人くらい応募が来て、応募動画のなかにWILYWNKAがいたんですよね。当時の『ラップスタア誕生』は、最初は1ヴァースの動画で応募してもらって、審査を通るとサビまでの動画を作ることができる流れなんですけど、1ヴァースの時点ですごくカッコよくて。サビの入った動画を見た後に連絡を取って、「一緒に音楽を作りませんか?」という話をしたんです。最初、向こうはR-RATEDに入れさせられると思ったみたいで、それを恐る恐る言ってきたんですよ(笑)。それで新しいレーベルを作るからという話をしたら「僕はHIDAさんに今までお世話になってるんで。お話はうれしいですけど、HIDAさんに話を通してもらえないですか」って言ってきたんですね。しっかりしてるなと思って。それで、私とRYUZOくんでHIDAさんのところに話をしに行ったら、HIDAさんが「是非お願いします」って言ってくれて。それで第1弾アーティストとして契約することになった感じです。



ーアキラさんが仕事上で大切にしているモットーはありますか?

福岡 んー……直感を信じることですかね。これまでもほぼ直感でやってきてるので。今の時代は特に、いろんな情報が入ってくるし、いろんな人がいろんなことを言ってるじゃないですか。でも、ああだこうだ考えて、理論的にこれだっていうのは私はあまりないんですよ。直感で「いいな」というのしかないですね。ただ、自分ではなぜそう思うのかがわからなくて。でもたぶん最初に話した、アメリカで子供の頃から見てきたものというのが大きい気がしますね。売れる前のロックスターたちを見てきて、いいなと思った人が売れていくというのを何回も見てきたのは大きい気がします。

ーアメリカでの音楽の成功パターンを見て、日本でもヒップホップがアメリカのように大きくなるとも思いましたよね。

福岡 もちろん私はそう思ってたし、今の若い子もそう思ってるはずだから、あまり否定的なことは言いたくないんですけど。日本の音楽業界やメジャーのレコード会社のコンプライアンスは、ヒップホップと相性が悪かったところがありますよね。それはTVのスポンサーとか企業とのタイアップにしてもそうで。いまだにタトゥーが好まれないとかイメージを悪く持たれていたりとか。分かる気持ちももちろんあるんですけど(笑)。アメリカの場合だと、例えば、パブリック・エネミーが出てきたときの論争があって。私は小学生だったのであまりわからなかったんですけど、子供たちに悪影響を与えるというので、PTAみたいな人たちがパブリック・エネミーのカセットテープを燃やしてるのがニュースになってたんです。でもその後、全米レコード協会が指定している「ペアレンタル・アドバイザリー」というシールを貼って、「未成年にはふさわしくないですよ」という体にして販売してたんですよ。抜け穴が用意されてたんですよね。もはやそのロゴがカッコいいみたいになってわざとジャケットのデザインとして使う人もいますよね。ラジオやテレビ放送では規制対象となる言葉を排除した「ラジオ・バージョン」が用意されていてそれを流したり。iTunesとかApple MusicなどでもExplicit Content (露骨な表現)を意味する“E”が付いてる曲やクリーンバージョンのアルバムがあったりしますよね。

でも日本って、ダメなものはやっぱりダメというところがあるし、誰かがそれを変えようっていうのも難しいことが多いのかなと。日本のメジャーから発売される曲ってレコ倫(レコード制作基準倫理委員会)が必ず歌詞のチェックをするんですよね。“ビッチ”とか使っていると「女性軽視です」と言われてしまったり、“ゲットー”に対しては「ゲットーとは第二次世界大戦中にナチスドイツが……」みたいに指摘されたりもしました。そういう意味で使っているわけではないと説明できれば取り下げてくれるんですけど、何カ所も赤ペン入れて返ってきたりしました(笑)。レコ倫の勉強会に参加したときには自分が担当した曲の歌詞が題材として出てきたりして(笑)。でも今はインディペンデントでも活躍できる時代だし、以前より良い状況になってきているのは感じますね。

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