SZA独占インタビュー 「理想的な女性」になることをやめた理由

SZA(Photo by Jacob Webster)

 
SZA(シザ)の2ndアルバム『SOS』が、全米アルバム・チャート5週連続1位を獲得。約5年半の時を経てリリースされた今作は、前作『Ctrl』を上回る反響を集めている。そんな彼女への独占取材が、米ローリングストーン誌のポッドキャスト「Rolling Stone Music Now」で実現。独特な歌い回しとハスキーな歌声、生々しく赤裸々な歌詞でSNS世代の声を代弁し続ける彼女は、約5年ぶりのアルバムをどのような想いで制作したのか? インタビューの模様をお届けする。

※本記事は昨年12月18日、米ローリングストーン誌にて初出



―SZAの『SOS』は注目すべきアルバムであり、各種ストリーミングで1位を獲得。SZAはこの時代においてジャンルの垣根を越えるアーティストと言えるでしょう。R&Bのアーティストとして認知されていますが、彼女はその範疇に止まりません。最新作では、初めてラップに挑戦し、内面を赤裸々に綴った歌詞が特徴的です。前作から5年経った今、彼女はオーディエンスからの反応に対して、とても怯えていたとのこと。インタビューの最初に、アルバムリリース当初、彼女の両親がサポートに来ていたことを語ってくれました。

SZA:(自宅に)実は両親が来てくれてるの。もしアルバム(『SOS』)の評判が悪かったとして、私がおかしくなってないか心配して。でも、良い意味で想定外だった! 今は一緒に出かけたりして、家族との時間を過ごしているわ。

―ええ、アルバムはかなり良い評判ですね。既に2000万人以上のオーディエンスがあなたのアルバムを聴いています。

SZA:でも、いまいちピンときてないの。


シングル「Kill Bill」は、SZAにとって最高位となる全米ビルボード・シングル・チャート初登場3位を記録

―2014年もしくは2015年だったと思うのですが、Afropunk Festivalに出演していた時から、ずっとあなたの曲を聴いていて……。

SZA:本当に? 嬉しい! そのフェスは私のお気に入りだったの。

―そのフェス以降、2014年くらいから熱心に聴いていましたが、『Ctrl』のリリースはとても話題になり、私も含めてオーディエンスは夢中になりました。そこから今回のアルバムリリースに至るまでは長い道のりだったようですが、いかがでしょうか。

SZA:ええ、その通り。自分でも行き先がわからなかった。その状況から抜け出せるかすら、確かではなかったの。今いるポジションを維持できるものなんてないと思った。私は周囲からの期待や、噂されることが苦手なの。誰も私に期待しなきゃいいのにって思ってるくらい。世間の評判が怖くて、いつも心のどこかにその不安が潜んでる。少なくとも、まだ私が精神的におかしくなっていないことに感謝すべきね。

―あなたが初めて歌うことを決心した時、何を求め、何を望み、どうなることを予想していましたか。

SZA:何か素敵で、面白いことが起こりそうって思ったの。ずっとサンティゴールドが好きなんだけど、彼女は自分の言葉を持っていて、全てがユニーク。当時は、黒人の女性がクリエイティブなフィールドにあまりいなかったから、とても苦労したと思う。彼女のことはずっと尊敬してる。あと、リトル・ドラゴンのユキミ・ナガノも。彼女のショーは魅せ方もとてもかっこよくて、今まで観てきた中で一番だって言える。彼女のショーを観たときに、パフォーマンスを通して楽しい時間を共有できたら、どんなに幸せだろうって思った。やりたいことをやって世界を旅することができたら幸せだろうなって。

商業的な人気がほしいとは一度も思ったことがない。自分らしくあり続ければ、正しい場所に導かれるって信じてる。一方で、私が周囲に期待されているものって何なのか、自分に問いかける瞬間が必ずある。ステレオタイプのイメージどおりに振る舞うべき?って、自問自答を繰り返してるの。




―特に、その問題に直面している若い黒人女性は多いと思います。『SOS』の音楽性について、伝統的なR&Bというよりは、抽象的な印象を受けました。服装や髪型といったビジュアル面でも、ステレオタイプに囚われない自由さを感じます。アルバムカバーで、あなたはホッケーのジャージを着ていますね。そういう大胆さに私たちは魅了されています。私の質問は、あなたは自分に対して、こうなりたいという理想像はあるのでしょうか。新しいアーキタイプをつくることは、あなたにとってチャレンジングなことでしょうか。

SZA:そういう理想像は何もなかった。私が出てきた当初、(シンパシーを抱いたのは)たしかジェネイ・アイコ、ティナーシェ、FKAツイッグスくらいだった。でも彼女たちの肌の色は、私より明るくて、痩せていて、そのうちの一つすら私は持ち合わせていなかった。面白い音楽を作りたいっていう気持ちはあったけど、その気持ちだけじゃダメなんだって学んだわ。オーディエンスの反応も「あいつは誰だ」とか「どうしてここにいるんだ? ジェネイを連れてこい」っていう感じだった。私は彼女のオープニングを務めたことがあるんだけど、あれは本当に辛かったわ。きっと、みんなはCEOのパンチ(Punch)に色々言ってたと思う。

ただ私自身は、容姿に関して全く疑問を持ってなかった。200ポンド(約90キロ)の体重で、バギーな格好をして、創造性を持って表現することの何がいけないのって。外見で判断する人なんていないだろうって思ってたの。でも、現実は私の考えと違ったみたい。体重が減って、周囲の反応が驚くほど変わって、その重要性を思い知った。私の音楽は変わっていないのにね。容姿は商業的に受け入れられるための一つの要素なんだっていう現実を突きつけられた瞬間だった。今でも、どうあるべきか迷うことがある。きっと「露出」や「女性らしさ」を求めていて、私がその通りにすれば「そうそう、これだ」ってみんなが納得することは想像できるけど。ホッケーのジャージ姿の私や、バギーな格好でSNL(「サタデー・ナイト・ライブ」)に出演する私を見て、どう思われてるかは正直なところわからない。でも、「SZAはこうだ」っていうバイアスを持ってほしくないって思ってる。だって私はずっと自分らしくいたいし、音響的にも他の面においても、いつでも自由自在に変化し続けたいから。



―あなたは全てのアルバムで、それを実践していると思います。私にとって、あなたの音楽の魅力の一つでもあるのですが、人生において大きな不安を抱えているような表情を持つ一方で、驚くほど恐れを知らない強さも併せ持っている。この二項対立をどのように維持しているんでしょうか。

SZA:私にとって、アイディアはアイデンティティより強い力を持ってる。クリエイティビティは、ある事柄から「解放されたい」という気持ちがヒントになっていて、解放されるまでやり続ける――それは、アイデンティティとは関係ないと思っている。アートも、アイディアを生み出す原動力の一つ。頭に浮かんだイメージを気に入ったら、実行しないと気が済まないの。曲を作っている中で、私に対する期待やバイアスとの向き合い方はやっぱり難しい。R&Bのアーティストって思われてるかもしれないけど、伝統的なR&Bの文脈の曲を作るのは怖いの。今そういったサウンドを求められているかどうかわからないでしょ。ただ、私のやりたかったことが自然と形になった時には、そういった不安が払拭されるの。今までほとんど全ての曲は、この感覚を頼りに作ってきたわ。

―サンティゴールドの名前を挙げていましたが、何年か前に、彼女もカテゴライズされることに対する不信感や、肌の色で音楽のジャンルを定義し、枠に押し込めようとする風潮に囚われることなく、完全な自由を手に入れたいと話していたことを思い出しました。だから、あなたが彼女のことに触れる理由は納得できます。もう一つ聞きたいのは、歌詞について、自己表出とも、大胆で率直ともいえる歌詞から、あなたは全く恐れを知らないように感じるのですが、いかがでしょうか。

SZA:私は一つのことをずっと続けられないの。ADHDについても薬の服用はしてないから、生活にも支障をきたすことがあったりするんだけど。5年間アルバムの制作をしても退屈しないためには、まったく違うことをやって気分転換をしなきゃ続けられない。歌詞についても「このフレーズには飽きた」とか「これはさっき言ったし……」って思うことがよくある。だから、今までに言っていないこととか、一般的に秘密にしておきたいことを書いたりするの。BBL(ブラジリアンバットリフト手術)のこととか、元彼との色々とか……たとえ恥ずかしいことでも、気後れするようなことであったとしても、別に内緒にしておく理由はないでしょ。不思議だけど、自ら恥ずかしい話題を晒すことって唯一退屈しないの。

Translated by Natsumi Ueda

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