SZA独占インタビュー 「理想的な女性」になることをやめた理由

 
5年かけて気づいたこと「私は私のままでいい」

―ビッグプロジェクトは完成までに何年もかかるものですが、映画監督のジェームズ・キャメロンが『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』について語っていたことを思い出しました。このアルバムもリリースまでに数年かかっていますが、時には何もうまくいかない、何も思いつかないといった状況に陥るときがあると思います。あなたにとって、そういった状況はありましたか。また、そこから脱出するプロセスはどういったものでしょうか。

SZA:ええ、何度も陥るわ、もう何もやりたくないって。実は先週までそうだった。私はレーベルに連絡したの。「無理にリリースせずに1月に延期したい。まだ出せない」って。でも延期はできないって言われたから、私も引き下がらずに文句を言ったりしてた。トラックリストを作成していた時も、つまらないし、最低っていう気持ちに何度も陥った。カバーの良いアイディアが思い浮かばなかったり、うまくいかない時は、カバーデザインは無しにした方がましだって思ったりもしてたの。酷い時は、投げやり状態――何もかも終わってほしい、私の実力なんてこんなもんだ。みんなが私の音楽を嫌いになっても仕方ない、もう音楽なんかやらないってね。よくエンジニアには「インドに行って、僧院に住んで、沈黙を貫いて過ごそう」って話してるの。冗談に聞こえるかもしれないけど、心の準備はいつもできてるのよ。でも同時に、色んな不安が渦巻いてくる。もし計画通りにいかなかったらどうしよう? これからどうやって生きていく? そんなことして何の意味がある? 全く不健康な思考のループだっていうことはわかってる。これは、セラピストと相談して対処しないといけないことの一つなの。

アルバムについて言えば、まだリリースから1週目でしょ、5年経たないと本当の良さはわからないわ。『Ctrl』の時もそうだった。リリース当時は全く評判にならなかったのに、最近になって評価されるようになったの。今回のアルバムがどう評価されるのかは、まだ何とも言えないけど、少なくとも現時点でうまくいってることは嬉しいわ。




―以前ジェイ・ヴェルサーチ(『SOS』のプロデューサー)と話した時、彼は世間の評価をチェックすることに反対していました。そのことについて彼と話したことがありますか。

SZA:ええ。SNSは一切見ないようにしてるし、評価もチェックもしないって彼と話したわ。だから知ってるのは、友達から聞いたことくらい…….あと、ファンページはチェックしてる。始めてからもう7年にもなるし、彼らのことは信頼してるの。世間の意見はどうかわからないけど、一番大事なことは、ベストを尽くしたって胸を張って言えることだと思ってる。世間の評判に真実はないでしょ? 他人が思い描く私と、本当の私は違うんだから。もしそう思えなくなったら、一旦活動をやめてもいい。彼らはそれも理解してくれている。私にとってのノイズを取り除いて、精神面での健康を気にしてくれているの。

―このアルバムを聴いていた時に、全ての曲はロマンスにおける経験とプロセスについてだと思ったのですが、あなたにとってロマンスが重要なキーワードになっていますか、それとも何か他のことがテーマになっているのでしょうか。

SZA:何曲かは、世間からの嘲笑やネットの中傷に対する批判がテーマになってるわ。対照的に、何も意味しない曲もあるし、祖母が私に言った言葉がテーマの曲もある。彼女の死を受け入れることとか、あとは元彼についてもね。このアルバムは、失恋がインスピレーションになっている部分もあるけど、それよりも「理想的な女性」になることをやめた影響の方が大きいと思う。私は長い間、本当の自分とは全く違う、理想的な女性になろうとしてた。もちろん、人には親切に振る舞ってきたけどね。今の自分を受け入れ、学んで、追い求める――新しい人生のチャプターに辿り着いて、理想を目指す必要はないって思えるようになったの。もし、誰かが私のことを「意地悪で気難しい人」と言ったとして、果たして、それが真実かどうかなんて誰にもわからないでしょ。そういった評判に反論できる精神の強さを身に付けた。例えば、私のことを今まで出会った人の中で一番良い人って評価する人がいる一方で、私のことを大嫌いって評価する人もいる。でも、みんな違う感じ方をするのが人間だし、それが自分らしさでもある。だから、誰かが定義した物差しで判断しないようにしたの。特に、インターネットにはそういった基準で評価された情報が溢れている。例えば、誰かが世界を変えるためにやっていることは、他の誰かにとって悲劇を生んでるかもしれないでしょ。そういう意識を持つべきだと思う。

母がセントルイスで育ったことについて話してくれたことがあるけど、彼女は「良い女性」でいなきゃいけなかった。それは肌の色による偏見で、周囲とトラブルを起こしたくなかったから。でも私は、それはおかしいって思う。彼女たちには、自由に生きる権利があるはずでしょ。それができないような社会なんて馬鹿げてるし、うんざりよ。私は私のままでいいし、みんなにもそうであってほしい。だってみんなはすでに素晴らしくて、理想なんて誰かが勝手に作り上げたものにすぎない。それぞれの個性を持って生きていくことに意味があるの。

Translated by Natsumi Ueda

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