ハリー・スタイルズが「21世紀最初のロックスター」になった15の理由

ハリー・スタイルズ

あなたはハリー・スタイルズというアーティストをどのように捉えているだろうか? ワン・ダイレクション出身の元アイドル? テイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュと並ぶ世界屈指のポップスター?――いまや彼はその両方であると同時に、名実ともに世界最大の“ロックスター”でもある。なぜそのように言えるのか? 3月24日、25日に有明アリーナにて開催される5年ぶりの来日公演を前に、その理由を紐解いてみよう。

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1.
「元アイドル」の枠を超えた
『Harry’s House』の記録的成功

常にポップミュージックの最前線で活躍してきたハリー・スタイルズだが、2022年5月リリースの最新アルバム『Harry’s House』は、彼の輝かしいキャリアにおいても群を抜いた成功を収めた。

Harry Styles – Harry’s House


同作のアメリカにおける初週売上は52万1500ユニット。これはテイラー・スウィフト『Midnights』に次ぐ、2022年の初週売上2位という大記録だ。当然ながら、同年にリリースされたドレイクやケンドリック・ラマーやザ・ウィークエンドのアルバムさえも、この記録には及ばない。

『Harry’s House』からの先行カットだった「As It Was」の記録はさらに驚くべきものだ。全米チャートで通算15週の1位を奪取したこの曲は、リル・ナズ・X、マライア・キャリー&ボーイズⅡメン、ルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキーに続いて、史上4位の全米1位最長記録を達成している。ホイットニー・ヒューストン「I Will Always Love You」やエルトン・ジョン「Candle In The Wind」といった歴史的な大ヒット曲でも、スタイルズが打ち立てた記録には届かないのだ。

「2022年、ハリー・スタイルズは世界のいたる場所に存在していた」とRolling Stoneが評したように、いまや彼は老若男女に愛されるお茶の間レベルの大スターだ。現在の彼を「所詮アイドル上がり、“本物”のアーティストとは呼べない」と意固地になって批判し続けるのは、固定観念に捉われた頭の固いリスナーか、ノエル・ギャラガーくらいだろう。ソロデビューの時点で既にアイドルからの脱皮を始めていたスタイルズだが、『Harry’s House』がこれまで以上に幅広い年齢/性別/国籍/人種/音楽的テイストの人たちに届いたことによって、彼は2020年代を象徴するアイコンの一人にまで上り詰めた。

 
2.
「ロックの神の復活」と評された
コーチェラでの完璧なステージ

『Harry’s House』がリリースされる直前の2022年4月、ハリー・スタイルズは世界屈指の影響力を誇る音楽フェス、コーチェラで初日のヘッドライナーを務めている。各所から絶賛が寄せられたそのステージは、イギリスの有力紙The Guardianをして「ロックの神の復活(Rock God Reborn)」と言わしめるほど鮮烈なものだった。The Guardian は以下のように評している。

「ロックは死んだと言われているが、実際はスパンコールがあしらわれたキャットスーツを着て、コーチェラ初日のヘッドライナーを飾ったのだ。その名もハリー・スタイルズ。少なくとも、彼はみんなにそう考えてもらいたいと思っていたはずだ」

イギリスの音楽メディアNMEからは「熟練のショーマンシップを発揮し、これまででもっともロックの神の地位に近い強烈なパフォーマンスを見せた」との絶賛も寄せられた見事なパフォーマンスは、以下の映像で確認することが出来る。

Harry Styles - As It Was (Live From Coachella)




3.
「2010年代のロック」を誰よりも
鮮やかに提示したソロデビュー曲

ハリー・スタイルズのソロデビュー曲は、デヴィッド・ボウイやクイーンを彷彿とさせる「Sign of The Times」。この曲がリリースされた2017年はラップとポップが全盛の時代であり、ロックやインディロックは求心力を失いつつあった。そんなタイミングで、元アイドルのスタイルズが正統派のロックバラッドでデビューしたことは、ひとつの事件だったと言っていい。

音楽評論家の田中宗一郎は、この曲を「2017年のベストロックソング」だとして、Spotifyのポッドキャスト番組POP LIFE: The Podcastで以下のように話している。

「2017年頃のインディロックは、UKでもUSでもアンダーグラウンドで良質なものが生まれていましたが、良くも悪くもポップを志向しておらず、少し難しい時代に差し掛かっていました。そんな状況下でリリースされたのが、ハリー・スタイルズの『Sign of The Times』。ラップやR&Bが全盛の時代にもかかわらず、そこに最適化することなく、ほぼ横揺れしないシンプルな8ビートを用いたロックバラッドで。『あっ、これでよかったんだ! ここに正解があったんだ!』って目から鱗でした。それくらいロックのフォルムと歴史を大きく捉えている楽曲だと感じたんですよね。もともとインディロックをやっていた人たちが『これが今のサウンドだ』っていうものを作れなくなったのを尻目に、その外部にいたはずのハリー・スタイルズが誰よりも説得力がある曲を作ってしまった。あれは鮮烈でしたね」

#330 ハリー・スタイルズの何がどうすごいのか?


なお、「Sign of The Times」のミュージックビデオは、現在までにYouTubeで10億再生を突破している。

Harry Styles - Sign of the Times (Official Video)

 

4.
スタイルズが好むピンクは
ロックンロールを象徴する色

ハリー・スタイルズのデビューアルバム『Harry Styles』は、もともと『Pink』というワーキングタイトルだったという。確かにアルバムのジャケット写真ではスタイルズがピンク色の浴槽に浸かっているように見えるし、当時の彼はピンク色のスーツを好んで着用していた。だが、なぜ当時の彼はピンクをキーカラーのように使っていたのか。

2017年のRolling Stoneのカバーストーリーによると、ザ・クラッシュのベーシスト、ポール・シムノンが「ピンクが唯一、本物のロックンロールのカラーだ」と言ったことが由来だという。ソロでロック色を強く打ち出していくにあたり、スタイルズはシムノンの言葉を参照してヴィジュアル面でもロックンロールであろうとしていた。


5.
スタイルズがセクシュアリティの型に
はめられることを拒む理由

ハリー・スタイルズと言えば、そのジェンダーレスなファッションでも知られている。ときにはパールのネックレスを身に着け、ピンクのネイルをして、女性もののドレスを着る。2020年にはVOUGE誌で単独表紙を飾った初の男性となったが、そのときも彼はグッチのドレスを身にまとっていた。

そもそもスタイルズは、ワン・ダイレクション時代から一貫して自らのセクシュアリティが型にはめられることを拒んできた。2014年に1Dのリアムと一緒にトーク番組に出演した際、司会者から恋人の条件を訊かれてリアムが「女性であること」と答えたことを受け、スタイルズは「それってそんなに重要じゃないよ」と発言している。初のソロツアーでは、ブラックライヴズマターと書かれた旗と一緒に、最前列のファンから拝借したレインボーフラッグも振っている。

こうしたスタイルズの行動は、ときに「クィアベイティング」(訳注:セクシュアリティの曖昧さをほのめかして世間の注目を集める手法)と批判されることもある。だが、そういった自分の行動について、スタイルズは2019年のRolling Stoneのカバーストーリーで、このように説明している。

「たとえそれが何であれ、自分がなりたい姿で、自分らしく感じてほしいんだ」「もしかしたらコンサートで、独りじゃないんだと感じられる瞬間があるかもしれない。僕も白人男性として、自分がコンサートに来ている大勢の人々と同じ経験をしているわけじゃないってことは意識している。君たちの気持ちがわかるなんて言えないよ、だってわからないもの。だから『気持ちはわかる』と言うつもりはない。ただみんなに、自分も仲間として見てもらっているんだ、と感じてもらいたいんだ」

また、ソロコンサートを始めたばかりの頃、ストックホルム公演でこのようにも発言していた。

「君が黒人だろうと、白人だろうと、ゲイでも、ストレートでも、トランスジェンダーでも――君が誰であっても、どういう人間になりたがっていようとも、僕は応援する。君たち一人ひとりを愛しているよ」

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