田中宗一郎とChilli Beans.が語りつくす、「今」のレッド・ホット・チリ・ペッパーズが最高な理由

チリ・ペッパーズに惹かれる理由

田中:今のチリ・ペッパーズの話もそうですが、文化は社会や歴史と地続きなので、表現者が文化的、政治的に何に帰属しているかっていうのは、表現そのものに関わってくると思うんです。そういうことって、皆さんは音楽を作るときに考えたりしますか?

Maika:私たちが曲を作るときは、そのときの気持ちだったり、そのときの状況だったり、その瞬間の等身大を曲に落とし込むことが多いんです。だから、そのときに怒っていたら怒ってる曲ができるし、精神的に参っていたら「どうしよう?」みたいな曲ができるし。社会的な話というより、今自分がどうか、っていう曲が多いんじゃないかと思います。


Photo by Mitsuru Nishimura

Lily:ただ、自分の精神状態は社会と自然に繋がっているものだと思うので。だから、自分自身を表現することが、結果的に社会を表現しているっていう感覚になることも多いです。まだ自分が経験してきたことはものすごく少ないですし、社会のことなんてわからないことばかりなので、自分の実体験じゃないと表現に結びつかない。だから、自分の経験をどう表現するか、っていうことを考えています。

田中:自分個人のことを表現しているのに、そこに社会的なアングルが自然と入り込むという今のお話は、とても納得できます。60年代生まれの僕みたいな世代だと、高度経済成長期を経て、これから日本はひたすら豊かになっていきますと言われて子供時代を過ごし、80年代になるとバブルに突入しました。実際はバブル景気から弾き飛ばされた人たちもいたんですけど、全体としては豊かさが底上げされた。自分はそういう時代を経て、今の「失われた20年」を見ているわけです。でも皆さんは、生まれてからずっと「日本は右肩下がりになっていく」と言われ続けてきた世代ですよね? そういったことと自分たちの表現の間には、何かしらの関係があると思いますか?

Maika:めっちゃあると思います。先に対する不安は常にどこかにあるので。これからどうなっていくのかわからない不安定な時代に、「本当にそれでいいの?」とか、すごい言われましたし。けど、それでもバンドをやりたいと思ってやっているので。不安を抱えつつ、どうやって自分の気持ちを解決していくかっていうことは、自然と歌詞に反映されていると思います。不安だからこそこうしたいとか、不安だからこそこういう気持ちになっているんだとか、そういうのは自然に出てきますね。

田中:不安というのは、自分たちがサウンドやリリックを紡ぎ出す上で重要な要素のひとつですか?

Lily:常に不安なので(笑)

Maika:不安だからこそ、「うちらは最強!」っていう曲が書けたりとか、不安過ぎて落ちちゃう曲が書けたりとか。

Lily:結局、音楽しかできなくて音楽をやってるから、これでどうにかしないと、どうにもならない、っていう気持ちもありますし。

Moto:不安って怒りにも変わると思うんです。それもロックやソウル的なもののパワーに繋がってる気がします。

田中:Chilli Beans.の音楽の中に、怒りは100%の中でどれくらいあると思いますか? リリックの意味だけではなく、サウンドも含めて。

Maika:曲によってはずっと怒ってる曲もあるので。曲によるところもあるとは思いますけど。

Lily:でも結構あるんじゃないかな? その表現方法が違うだけで。自分が作るときは割と怒ってるかもしれないです。「School」も怒ってるし、「マイボーイ」も怒ってるし。90%くらい怒ってるかも。





Maika:確かに。めっちゃ怒ってるね。

田中:ちなみに、何に対して怒ってるんですか?

Lily:自分が生まれたときから存在する決まり事がいっぱいあって、それってどうしようもないから、そこで生きるしかないんですけど、「なんか違うよね」って感じるときに衝動的に作ることはあります。

Maika:あと、「それって誰が決めたの?」って理不尽なことにイライラしたときに作ったり。

Moto:上手くできない自分自身とか、自分の世界を壊そうとしているものに対して怒ったりとか。「School」は学校の決まり事とか、自分を縛ってくるものに対して、ちょっとかわいく表現してるけど、怒ってますね。

田中:そういうところは、3人がチリ・ペッパーズに惹かれる理由とリンクしているんですか?

Maika:絶対していると思います。

Moto:レッチリは自由な感じがして、憧れるんですよね。

田中:チリ・ペッパーズは、いろんな目に見えない制約や制度から解放されたい、っていうフィーリングがすごく大きいですよね。じゃあ、乱暴な質問です。チリ・ペッパーズの音楽が醸し出すエモーションやフィーリングのどういった部分に3人は一番惹かれますか? 僕もね、自分なりの答えがあるんです。

Maika:うわー(笑)。

Moto:根源にあるのは怒りとか悲しみみたいな感情だと思います。でも、MVではそれをちょっと面白おかしく表現してるじゃないですか。「Dani California」のMVとか、いろんな人の真似をしたりして、ちょっと茶化した感じで表現してる。そういう風に自分たち自身をからかった表現の仕方は魅力的だなと感じます。

Lily:好きなことを純粋に楽しんでるところとか、歳を取ってもそんなの関係ないっていうスタンスとかに惹かれますね。尖ってるけど、リスナーに近い感じもして。聴くだけで「もうちょっと頑張れそう」って思えますし、フレーズひとつ取っても、「真似してみよう」とか、「こういう風になりたい」とか、そういう気持ちを掻き立ててくれるのも魅力だと感じてます。

Maika:私は生身な感じがすごく好きですね。

田中:すごくフランク、率直ですよね。

Maika:レッチリって今の自分が最低であることもそのまま歌にするし、自分が最低であることも全部分かった上で「これも自分だし」って受け止めているところがあって。自分は常にいい子でなくちゃいけないと思って生きてきたところがあるので、その感じが私には新鮮でしたし、すごく勇気をもらえる部分ですね。

田中:俺の答えもいいですか?(笑)。

Maika:めちゃくちゃ聞きたいです。

田中:彼らの中には、自分達がアフロ・アメリカンを虐げてきた白人社会の豊かさの中で過ごしてきたことに対する自責の念があると思うんです。アンソニーの自伝『スカー・ティッシュ』を読むと、彼自身のヘロイン中毒の問題とか、ちょっとしたセックス依存症の話が出てくるんですけど、それって明らかに自傷行為なんですよね。自分たちは恵まれているけど、観念的に苦しい。それを吐き出すことができる対象は、社会か、自分自身しかない。だから、社会に対する何かしらのメッセージを自分たちの音楽で広めるっていうことと、自分自身を傷つけるっていうことの両極が、チリ・ペッパーズのベースにはある。例えば、ブラックの人たちはドラッグディールで殺されることはあっても、ドラッグ中毒で死ぬことは少ないわけですよ。それって貧しさと豊かさの差だと思うんです。

ー確かに。

田中:その責任を彼らは感じるわけです。となると、そこから出てきた感傷性だし、どこに向けていいかわからない怒りがあるので自分を責める感覚も生じる。その感覚っていうのは、皆さんが言っている、自分自身の怒りは実は社会と地続きなんだっていう話と繋がってると思います。

ーそのような社会や歴史との何かしらの繋がりや、それに対する言及というのは、『Unlimited Love』や『Return of the Dream Canteen』にも見られるのでしょうか?

田中:ここ二作品のリリックにはすごく固有名詞が多い。なおかつ、いろんな曲からの引用がありますよね。そのことによって、歴史の連続性や、その中で培われた自分たち自身のアイデンティティを表現してるんだと思うんですよね。どういう時代のどういう社会や文化によって自分たちや自分たちの音楽が育まれてきたのか、これからどこへ行こうとしているのか。ただそれを学校の先生みたいに「歴史とはこういう流れです」って教えるのではなく、固有名詞や、サウンドの固有性を引用することで、さりげなく伝えるっていう。皆さんは、今回のアルバムのリリックで気になったところはありますか?

Maika:私たちも「人の名前がめっちゃ多いね」って話してたんです。「この人たち、誰なんだろう?」って。

Lily:「Eddie」とか、そうですよね。



田中:ヴァン・ヘイレンのギタリスト、エディ・ヴァン・ヘイレンのことですよね。

Lily:私は「Shoot Me A Smile」の歌詞がすごく好きでした。「どんなトレンドにも屈しない」「でも驚かせてやる いつだって」とか。



Maika:「Afterlife」の冒頭に、歌じゃなくて、喋ってるところがあるじゃないですか。「若者は歳を取る バッファロー・スプリングと共に」って。歳を取ることに対する恐怖は誰もが持ってると思うんですけど、あの年齢であんなにバキバキ元気にパフォーマンスしている人たちでも、「俺たちは歳を取りました」って言うんだと思って。でも、そこがむしろかっこよくて。


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