田中宗一郎とChilli Beans.が語りつくす、「今」のレッド・ホット・チリ・ペッパーズが最高な理由

左からChilli Beans.のMaika(Ba&Vo)、音楽批評家の田中宗一郎、Chilli Beans.のLily(Gt&Vo)、Moto(Vo)(Photo by Mitsuru Nishimura)

1991年に『Blood Sugar Sex Magik』で大ブレイクを果たして以来、ほぼ全てのアルバムが全米トップ3入り。レッド・ホット・チリ・ペッパーズは激しい時代の荒波に揉まれながらも、常に世界的なトップバンドの座を守り続けている。

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今年2022年4月に送り出された『Unlimited Love』は全米1位、そしてそれから半年も待たずに届けられた最新作『Return of the Dream Canteen』も全米3位と、その求心力は全く衰えを知らない。では、チリ・ペッパーズが人々を魅了し続ける理由はどこにあるのか? そもそも彼らはどのような時代背景から出てきたバンドなのか? そして、双子のような作品と言える最新二作『Unlimited Love』と『Return of the Dream Canteen』のすごさはどこにあるのか? こうした疑問に応えるべく、チリ・ペッパーズをひとつのロールモデルとし、敬意を込めて自らのバンド名に「チリ」という言葉を冠したミレニアル世代の3ピースバンドChilli Beans.のMoto(Vo)、Maika(Ba&Vo)、Lily(Gt&Vo)、そしてチリ・ペッパーズのブレイク時から彼らをリアルタイムで追いかけ、最新二作で「久しぶりにチリ・ペッパーズに興奮した」という音楽批評家の田中宗一郎に語り合ってもらった。2023年2月に開催される実に16年ぶりの単独来日公演には、是非この対話に目を通してから足を運んでもらいたい。

ー田中さんはRolling Japan Stone本誌の連載「POP RULES THE WORLD」で、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの前作『Unlimited Love』からの先行シングル「Black Summer」と「Poster Child」を絶賛していましたよね?

田中:久しぶりにチリ・ペッパーズで盛り上がりました。日本国内はJ-ROCKという特殊なジャンルがあるので別ですが、ここ10年くらい、ロックは全世界的に元気がなかったじゃないですか。商業的に成功した例は少ないし、文化的に意味のあるジャンルとして取り上げられることも少なくなりました。そうした過程で、いろんなバンドが他ジャンルのサウンドプロダクションやソングライティングに最適化することで、ラップに寄せてみる、ポップに寄せてみる、というケースが増えていた。でも、それもあんまり面白くない。実際、作家たちも「じゃあ、ロックをベースにしたバンドは何をやればいいのか?」と悩んでいたと思うんです。そんな中で、チリ・ペッパーズのあの2曲のシングルは、言ってしまえば何も新しくない(笑)。ファンクベースで、ロックの要素があって、「とにかくスタジオで一緒に演奏してみよう、その喜びをキャプチャーすることが大事だよね」っていうところに立ち返っている。ただそれだけのことなんですけど、「いやでも、これでよくない?」って感じたんですよ。





ーなるほど。

田中:Chilli Beans.の皆さんはどうでした? 今年前半にリリースされた、『Unlimited Love』から2枚のシングルは。僕は60年代生まれで、91年から音楽評論家をやっているお爺ちゃんですが、皆さんは全員90年代生まれ。ジェネレーションギャップもあるので、捉え方がまた違うと思うんですけど。

Maika:自分たちが音楽を聴き始めた頃は、さっき田中さんがおっしゃられた「ロックが元気のない10年間」に既に入ってたと思うんです。だから逆に、あのシングルは新しく感じるところがありました。音数の少なさとか、「あっ、これでいいんだ?」みたいな。

Lily:そうだね。

Maika:自分たちも、どうしてもいろんな楽器を加えたくなってしまうことがあるので、新鮮でしたね。

田中:なるほど、なるほど。ただ、それまでもチリ・ペッパーズはずっと聴いてたんですよね?

Maika:Chilli Beans.を結成したのが2019年7月なんですけど、そのときからですね。元々は3人とも、ソロでシンガーソングライターを目指してたんです。その頃はバンドをたくさん聴いてたわけではなかったので、Chilli Beans.を結成するにあたって「バンド音楽をもっと掘っていこう」ってなって。そのときにレッチリのライヴ映像作品『Live at Slane Castle』(2003年)を一緒に観たんです。それがもう衝撃で。「なんだ、この人たちは?!」ってなって、バンド名に「chilli」ってつけました。だから、意外と出会ったのは最近なんです。そこから、どんどん掘っていって、「こういう世界があるんだ」って発見しているところです。

田中:チリ・ペッパーズのディスコグラフィはもはや膨大な数にのぼるわけですけど、じゃあ、皆さんの場合、そんな風にカタログがほぼ出揃っている状態で彼らの音楽に出会い、いろんな時代のアルバムを聴いていった?

Maika:そうですね。好きになってから初めて出た新作が『Unlimited Love』だったので、「うわーっ!」って興奮しました(笑)

田中:そうかー。じゃあ、既存のアルバムの中では、どれが一番好きですか?

Lily:えー、どうしよう?(笑)

Maika:悩むよね? 私は『Blood Sugar Sex Magik』(1991年)が好きで。結構ファンクっぽいのが好きなんですよ。『By The Way』(2002年)も好きなんですけど。フリーのスラップとか、ファンキーな感じが一番かっこいいなと思ったのは『Blood Sugar Sex Magik』ですね。



田中:僕も『Blood Sugar Sex Magik』が一番好きなんです。

Maika:えっ、嬉しい(笑)

Lily:私は『Californication』(1999年)が好きで。



田中:それは二番目に好きなアルバム(笑)。

Lily:(笑)(ジョン・)フルシアンテのギターはすごくシンプルなんですけど、全部がかっこよくて、すごく響いてきて。そのシンプルさが好きです。

Moto:ジョン・フルシアンテの時代ではないですけど、私は『The Getaway』(2016年)の「Dark Necessities」が好きです。



田中:今聴き返すと、『The Getaway』が一番生演奏っぽくないレコードじゃないですか。リリースは2016年なので、ロックやバンド音楽をヒップホップが完全に追い抜かしたタイミング。あのアルバムのプロデューサーだったデンジャー・マウスは、ヒップホップの大名盤であるジェイ・Z『The Black Album』(2003年)とビートルズの通称『White Album(正式タイトル:The Beatles)』(1967年)をマッシュアップした『Grey Album』をアンオフィシャルな形で発表して一躍名を挙げた人です。つまり、ヒップホップをはじめとするブラックミュージックと白人のロックの両方に精通した人。だから、ロックがヒップホップに追い抜かされようとする時期に「誰をプロデューサーにすればいいのか?」と考えてデンジャー・マウスを起用したのは、とてもリーズナブルなんですよね。『The Getaway』は、チリ・ペッパーズが自分たちも何か新しいことをやらなきゃ時代の濁流に飲み込まれてしまう、という危機感を抱いて作ったレコードだったっていう。



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