吉田拓郎の1970年代中盤、賞賛と中傷の両方を背に生きた20代後半を辿る





1973年のアルバム『伽草子』の中から「ビートルズが教えてくれた」、そして「制服」をお聴きいただきました。片やロックバンド、片や弾き語り。拓郎さんの弾き語りはこんなに説得力があるのに、彼はやりたがりませんね。拓郎さんの弾き語りの曲の中で僕、これが一番好きかもしれない。この歌のニュアンス。重くなくて、軽くない。乾いているんだけど、情感がたっぷり込められてる。しかも言葉の放り投げ方、この曲はボブ・ディランに聴いてほしいと思ったりしておりました。

共に作詞が、岡本おさみさんですね。1942年生まれの放送作家。鳥取県の出身。名コンビでたくさんいい曲があるにもかかわらず、拓郎さんとは水と油。暇があれば旅をしていた岡本さん、旅の嫌いな拓郎さんという2人だからできた曲なのかもしれませんね。1970年代前半はディスカバー・ジャパンという電通が仕組んだキャンペーンで、都会を捨てて旅に出ることが若者たちの一つの憧れのライフスタイルになりました。放浪願望というのも若者たちの中に広がっていた。みんな大学に幻滅していたから行く場所がなかったんでしょう。岡本さんの多くの歌が、都市に馴染めなかった若者の歌ですね。この「ビートルズが教えてくれた」も「制服」も、これぞ岡本おさみという2曲ですね。70年代前半、いろんな形で世の中に翻弄された拓郎さんが、同じ73年に出したもう1枚のアルバムが『Live ’73』だった。その中から、岡本さんの作詞の曲をお聞きいただきます。



これも岡本さんの実話ですね。苫小牧発仙台行きフェリーが、この曲で一躍有名になりましたね。ご多分に漏れず私も乗りました(笑)。 拓郎さんは、死んでもこういう旅はしないでしょうからね。岡本さんが旅先で出会った人、旅先のエピソードを、こういう形で歌にしました。『LIVE ’73』は、岡本さんともう1人、瀬尾一三さんの存在が欠かせませんね。瀬尾さんがプロデュースして、こういうアルバムになりました。今のギターは高中正義さんです。

Rolling Stone Japan 編集部

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