米退役軍人、レジスタンスの心得と戦術をウクライナ市民に伝授

外国人部隊の顔ぶれ

ハンニバルの大義のもとに集まったアメリカ人の少数精鋭部隊をどのようにとらえるべきか、私は迷った。安全上の理由から、彼らを偽名で呼ぶことにする。誰も助けてくれない時に救いの手を差し伸べてくれる人々と聞いて私たちの世代が真っ先に思い浮かべるのが、1980年代に放送された大人気テレビドラマ『特攻野郎Aチーム』だ。よって、ここでは『特攻野郎Aチーム』の登場人物たちの名前を使用する(訳注:ハンニバルという名前はAチームのリーダー、ジョン・スミス大佐の通称)。

フェイスマンは2度のイラク派遣を経て、ミュージシャン兼俳優として第2のキャリアを確立した。人気テレビドラマに出演し、出番は多くないものの、記憶に残る役柄を演じた。初対面の印象としては、歩兵連隊の戦術よりもソファにだらりと寝そべる燃え尽き症候群に詳しそうだ。功績をあげた海兵隊将校と聞いて、私は驚いた。現在は、ミシガン州の田舎にある農場でロックアルバムのレコーディングに取り組んでいる。ちなみに、マリファナはやったことがないそうだ。

元騎兵隊将校のB.A.もイラク派遣の経験者で、反乱軍を標的とした情報収集活動に従事していた。現在は小説家で、いくつかの書籍を出版している。B.A.という偽名をつけたものの、本物の彼はミスター・Tにそっくりで、その思慮深くゆったりとした物腰は強面のB.A.とはかけ離れている。

一流マラソンランナーの肉体と何事にも動じない禅僧のオーラを併せもつマードックは、スパイさながらの風貌をしている。フランスで暮らしたことがあると言っていたので、ひょっとしたらフランス外人部隊に所属していたのだろうか? そうではない。軍隊での経験はなく、パリで複数のレストラン事業を立ち上げ、成功させた起業家だ。ハンニバルのチームに参加する前は、瞑想法を学ぶためにネパールに滞在していた。瞑想によってクリアになった彼の頭脳は、ロジスティクスのコーディネート業務を任されている。

要するに、シェフ、小説家、俳優、イェールOBの4人組というわけだ。

中年のはみ出し者4人組と行動をともにしているのがハンニバル氏の妻、ターニャだ。雑務担当の彼女は、ウクライナ政府に接触するための窓口となっただけでなく、チームのスケジュール管理もこなす。夫の計画をサポートするためにウクライナの官僚組織のナビゲーター役を務めながらも、高齢の両親をキエフから避難させようとしていた。

ハンニバル氏のチームが借りたアパートメントの一室に身を寄せ合いながら、私はターニャに避難の進捗を訊ねた。空襲警報が石畳の通りに響く中、ここが私たちの避難所だ。

兄弟が車で両親をキエフから退避させようとしていると彼女は言った。「まもなく到着するはずです。2日後かしら? わからないわ。至るところで道路が遮断されています」

「ご両親が到着したら、『よくも娘を戦闘地帯に連れてきたな』とお義父さんに激怒される」とハンニバル氏は言い添えた。

ウクライナ紛争の前から、私はリヴィウの街を知っている。この街はいま、異常事態の最中にある。街への入り口には検問所が設けられ、兵士、警察、市民の安全を守るために組織された雑多な集団が銃を携え、黄色い腕章をつけて街をパトロールしている。公共の場は、支援物資を集める場へと姿を変えた。営業している飲食店や商店は数えるほどだ。ロシアの破壊者あるいはパラシュート部隊が急に空から襲ってくるのではないかという恐怖に人々は苛まれていた。

ハンニバル氏のチームは、大学の前で地元の連絡係と落ち合った。「タラス・ワンです」と通訳者のひとりが自己紹介をした。

「私はタラス・スリー」ともうひとりが言った。「ウクライナの詩人(タラス・シェフチェンコ)の名前を拝借しました」。「タラス・ツーはポーランドにいます」と、タラス・ワンは申し訳なさそうに言った。「(ロシアによるウクライナ)侵攻の直前にCTCが移動した場所です」

CTCこと戦闘訓練センターは、ウクライナ侵攻以前は西部リヴィウ近郊を拠点としていた。そこでは、北大西洋条約機構(NATO)と同盟国がウクライナ軍と合同で軍事訓練を行なっていたのだ。タラス・ワンとタラス・スリーの両者は、ローテーションを組みながら移動するアメリカ軍の分隊と緊密に働き、多国籍軍に戦術を教えたり、ウクライナ軍の近代化計画を支援したりしてきた。その背景には、2014年にロシアがクリミアを併合した際にウクライナ軍の弱さが露呈したことがある。

「プーチンは、風車を追いかけ回しています」と、タラス・ワンは言った(訳注:スペインの小説家セルバンテスの『ドン・キホーテ』では、主人公が風車を化け物と勘違いして襲撃するエピソードがある)。「ウクライナを『非ナチ化』したいとプーチンは言いますが、本当はウクライナを崩壊させたいと思っていることを国民は知っています」
 

Translated by Shoko Natori

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