米退役軍人、レジスタンスの心得と戦術をウクライナ市民に伝授

Photo by Mac William Bishop

ロシアによるウクライナ侵攻の3日後、アメリカ人のハンニバル氏はウクライナのために戦う国際義勇軍の結成を計画していると語った。

【写真を見る】戦闘訓練には女性も参加する

ハンニバル氏(安全上の理由から偽名を使用)は、米陸軍第173空挺旅団所属の歩兵将校だった。2005年にアメリカの名門私立大学のひとつであるイェール大学を卒業してから陸軍に入隊し、アフガニスタンで複数の任務を遂行した。軍を辞めたあとは、仕事を転々とした。

彼は軍事ライター兼アナリストとして、2015年6月から2017年8月にかけてウクライナ東部ドンバス地方の最前線を10回ほど訪れたこともある。ハンニバル氏は、ウクライナとウクライナの人々との絆を感じている。理由のひとつは、同国の事情に精通したウクライナ人女性と結婚し、アメリカに帰国したからだ。

国際義勇軍計画について語った2日後、ハンニバル氏は従軍経験者からなる少数精鋭部隊を結成した。さらにその2日後、私(訳注:フリーランス記者のマック・ウィリアム・ビショップ)は彼のチームとともにウクライナ西部のリヴィウという街の郊外に建つ旧ソ連時代の工場の内部にいた。がらんとした空間に彼らの足跡が響く。ゲリラ戦法に関する集中講座を企画する彼らの服は埃だらけだ。

「防衛者には、戦う場所を選べるという利点があります」と、ハンニバルは彼の前に集まった40名そこそこの男女に向けて講義した。彼らはひどく緊張していて、忍び寄る戦争の足音に怯えていた。ダウンジャケット、迷彩柄のミリタリージャケット、古い軍服、ニューヨークのストリートファッションなど、さまざまな服装に身を包んだ彼らは、欧米寄りのウクライナの中産階級出身の人々だ。間に合わせの教室へと姿を変えた陰鬱な工場の一室で、寒さから身を守るため体を寄せ合いながら座っていた。外では雪が降りはじめた。

ハンニバル氏は、少し間を置いてからふたたび口を開いた。彼の言葉を訳し終えた通訳者は、次を待っている。「殺す場所を選ぶのは、あなたです」

2月の終わりに何万人ものロシア人兵士がウクライナになだれ込む中、ハンニバルと彼のチームはウクライナ政府当局者たちと連携して一般市民を有能なゲリラ部隊へと育て上げる支援活動を行なった。新たな「リンカーン大隊」を組織する時が来た、とハンニバル氏は冗談まじりに語った。リンカーン大隊とは、スペイン内戦で戦ったアメリカ人義勇兵によって結成された部隊だ。この部隊に憧れているアメリカ人は多いものの、取り立てて言うほどの功績はあげていない。「不運にもあなたが歴史の重要な瞬間を生きていて」とハンニバル氏は言った。「ことの成り行きにより、この悪しき戦争において正義の側として貢献できるとしましょう。選択肢はひとつです——それを終わらせるために努力すること」

本当にそうだろうか? 私は懐疑的だった。外人部隊、武器、トレーナーなどが大量に投入されたもっとも最近の例がシリア内戦だ。だが、これらは同国の平和に何も寄与していない。むしろ内戦は激化した。過激派は野放しにされ、諜報機関は訓練や武器を提供し、外貨という後ろ盾を得た武装集団同士が戦いを繰り広げた。その間、おびただしい数の市民が命を落としたではないか。

どのような結果になるかはわからないとハンニバル氏は即座に認めた。だが彼は、ウクライナの人々を助けるために自分たちの経験を活かし、彼らを訓練することが使命であると信じている。

「あなたと私がキエフ行きの列車に一緒に乗り、あなたがキエフに到着したとしましょう」とハンニバル氏は私に言った。「そこでは、あなたのためにAK-47(カラシニコフ・アサルト銃)またはモロトフ爆弾(火炎瓶)が用意されているはずです」

私がウクライナにたどり着いた時点では、独立して行動する外国人部隊を結成するためにウクライナ政府がどれだけ尽力し、どれくらいの進展があったのか、あるいはハンニバル氏のチームがこうした構想に含まれているのかはわからなかった。実際、政府は義勇兵を募り、世界中から応募者が殺到した。政府によると、志願者の数は数千人にのぼる。だが、ハンニバル氏はこうした取り組みに関与しているのだろうか? それとも彼は、フリーランスとして戦争に加わろうとしているのだろうか?

Translated by Shoko Natori

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