ウクライナの人気ロックスターが、母国防衛に協力する理由「今は戦士になるしかない」

「俺はロックスターであると同時に、陸軍中尉でもある」

「俺の家族は全てが始まる直前にウクライナ西部に移っていたので、家には俺と2匹の猫だけだった。スマホでインターネットを立ち上げると、安全保障会議の中継をやっていたので、それを見た。すると途中で、プーチンが演説をするという速報が入った。午前4時だったので、宣戦布告だろうとうすうす感じていた。演説が始まって10分ぐらいだろうか、爆発の衝撃を感じた。この戦争で最初のミサイル攻撃のひとつだった。俺たちはチームの女性たちと子どもたちを集めた。俺が運転手を務めて、彼らを比較的安全なウクライナ西部まで連れて行き、また引き返して、すぐに今の活動を始めた――人々を移動させ、ウクライナ各地を回り、他の人々と活動したり、士気をあげたりした。

最初は親戚や友人と始めたが、やがて初めて会う人たちも何人か加わった。人口の90%以上が顔見知りという状況なら、人生もいくらか単純明快になる――ただし、怪しい顔つきでない限りは。今じゃウクライナの男はみな怪しげな顔つきだから、誰も敵だとは疑わないが。それが戦争だ。IDがなく、自分の素性を証明できないと、自動的に怪しい奴ということになる。俺の場合は楽勝だった、検問所でも前線でも、姿を見せれば誰もが喜んで迎えてくれるし、手を貸してくれる。国を出ようと思ったことは一度もない。むしろ俺にとっては、ここに留まって祖国を守れることが一番の栄誉だ。俺と友人、それに一緒に活動している弟も正式に軍に志願した。国中を移動して活動できるよう書類を申請したが、重要な活動だと思ったんだろう、いきなり許可が下りた。だから今じゃ俺はロックスターであると同時に、陸軍中尉でもある。

俺の友人もみな同じことをした。この国では、大学卒業後に軍隊訓練を受ける場合がある。俺たちもそうだった。最終的には予備軍中尉になる。一度も活用せずに終わることもあるが、戦争中は駆り出される。俺の友人も、ミュージシャン仲間も、ウクライナの有名ミュージシャンもみんな銃を取り、防衛軍として活動している。ある意味両極端だ。はた目には、俺はアーティスティックな人間なんだから――音楽が大好きで、音楽に夢中な人間だよ。俺自身、自分は生粋のミュージシャンだと思ってきた。常々こういう人々は、いってみれば平和主義なんだ。戦うことよりも、愛や善行を重んじる。彼らが戦(いくさ)をおっぱじめるなんて誰も思わない。戦争前は、ジョン・レノンの『イマジン』が俺の信条だった。わかるだろ? それは今でも俺の胸に、骨の髄に刻まれている。だが、子どもたちや女性を殺そうとする奴が現れたら話は別だ。これまでの人生で自分たちが築き上げてきたもの、自分たちの街やなにやらを全て破壊しようとする奴が現れたことで変わった。頭の中に、魂に、胸の奥に、なにやら憎しみが生まれる。この手の憎しみはとても質が悪い。俺はそんなのを抱えていたくない。自分の中にあるのも嫌だ。だが、それを取り除くにはこの戦争に勝つしか方法はない。だから、アーティスティックな人間が戦士になるという両極端が起こる。今は戦士になるしかない」

Translated by Akiko Kato

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