エネルギー超大国、ロシアの「暗い未来」

プーチン大統領(Photo by Maxim Shemetov/POOL/AFP/Getty Images)

ロシアのウクライナ侵攻の財源は、石油と天然ガスという同国の豊富な天然資源だ。だが「この紛争は、エネルギー超大国としてのロシアの終わりを意味します」と、ある専門家は指摘する。

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何十年にもわたり、大手石油会社の最高経営責任者たちはロシアのウラジーミル・プーチン大統領の独裁的な言動や一大帝国を築くという幻想に目をつぶってきた。彼らは国のパイプラインや掘削リグの建設を支援し、プーチン氏が売りさばく石油とガスを次から次へと購入した。化石燃料がもたらしたキャッシュは、プーチン氏の底知れない野心に火をつけた。それは、プーチン氏がウクライナに送り込んだ軍事力を築く手助けとなっただけでなく、オフショア銀行に大金を溜め込むことを可能にした。プーチン氏は、こうした大金によって紛争にともなう経済的低迷を切り抜けることができると信じていたのだ。

石油とガスは、長年石油国家のギャングたちによって支配されてきた。彼らは、グローバル経済の成長にブレーキをかけたり、CO2排出量を削減するという国際条約を妨害したり、あらゆる悪しき方法で金と権力を行使してきた(サウジアラビア政府に批判的だったジャーナリストのジャマル・カショギ氏のように、詮索しすぎる者は骨のこぎりでバラバラに切り刻まれる)。かたや欧米の首脳たちは、「エネルギー自給」という空虚な目標を掲げて化石燃料依存からの脱却を宣言するのに対し、イラクをはじめとする中東諸国に攻め込んで石油の供給を確保することに何の懸念も示さない。ここアメリカでも、「石油をどんどん掘れ!」というスローガンは大手石油会社の懐をますます肥やし、私たちの化石燃料への依存度を強めている。

だが、プーチン氏がウクライナをミサイルで攻撃しはじめたときから状況は一変した。それは、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の勇気に依るところが大きいのかもしれない。あるいは、何百万ものスマホで撮影され、世界中に発信されたウクライナ国民のリアルな苦しみが効果をもたらしたのかもしれない。米エクソンモービル、英シェル、英BPといった石油大手は、企業名が血塗られる前にロシアでの全事業を停止した。大手3社の中で最後に行動を起こしたのはエクソンモービルだった。同社はロシアにおける石油・ガス開発事業からの撤退を表明し、今後は同国に一切投資しないことを誓った。

それに加えて、プーチン氏は世界の変化のスピードを見誤った。先進国は、化石燃料からクリーンエネルギーにシフトする、エネルギーオタクたちが言うところの「偉大なる転換」の最中にあるのだ。こうした動きは、豊かな欧米諸国が化石燃料を従来通りのペースで今後も燃やしつづけると、文字通り地球全体が温室化し、生命が住めなくなる星になるという単純かつリアルな事実に由来する。この恐ろしい紛争が引き起こした大虐殺が何か良い知らせをもたらすとしたら、それは、クリーンエネルギーへのシフトを鈍化させる代わりに、ウクライナ侵攻はこの動きをさらに加速させるかもしれないということだ。この紛争がいかなる方法で収束したとしても、プーチン氏は代償を払うことになる。ロシアの石油と天然ガスは、いまとなっては独裁主義、戦争犯罪、大虐殺と永遠に結びつけられてしまったのだから。「この紛争は、エネルギー超大国としてのロシアの終わりを意味します」と戦略国際問題研究所(CSIS)のニコス・ツァフォス氏は語る。

Translated by Shoko Natori

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