アレサ・フランクリン伝記映画『リスペクト』事実検証

映画『リスペクト』のジェニファー・ハドソンとメアリー・J・ブライジ (Photo by Quantrell D. Colbert/MGM Pictures)


2.フランクリンのデビューレコードは、コロムビア・レコードから出されたものではない

映画『リスペクト』は、1960年にフランクリンがコロムビア・レコードと交わした契約を彼女の人生とキャリアの重要な転機として正当に扱っている。だが興味深いことに、当時18歳だったフランクリンは、コロムビア・レコードと契約する前からすでにレコードを出していたのだ。1956年、父親が牧師を務めていたデトロイトのニュー・べセル・バプテスト教会で当時14歳だったフランクリンが生歌を披露したときの音源が地元のインディーズレーベル、J-V-Bレコードによって収録されている。

デビューシングルは、フランクリン本人がピアノを弾く圧巻の「Never Grow Old」(カップリングは「You Grow Closer」)だった。その後もキャリアを通してこの楽曲を何度も披露しているが、そのなかでも1972年の歴史的なライブアルバム『アメイジング・グレイス(Live at New Temple Missionary Baptist Church)』の最後を飾ったことは有名だ。



J-V-Bレコードは、教会でのライブレコーディングから2枚目のシングル「プレシャス・ロード(パート1&2)」を1959年にリリースした。1956年にJ-V-Bレコードからリリースされたコンピレーションレコード『スピリチュアルズ』には、これらの4曲に加えてフランクリンが歌う「There Is a Fountain Filled with Blood」も収録された。劇中では、ジェニファー・ハドソン扮するフランクリンが父の説教壇のとなりでこの楽曲を披露している——この時代の彼女のキャリアに対する慎ましやかな賛同のしるしとして。

3.ダイナ・ワシントンがテーブルを蹴り倒したのは、フランクリンがナイトクラブでワシントンの十八番を披露したからではない。

歌手ダイナ・ワシントンを演じたメアリー・J・ブライジは、その見事な存在感で観客の記憶に残る。ワシントンは、1950年代に一連のジャズヒットナンバーによって当時もっとも人気のアフリカ系アメリカ人のレコーディングアーティストとしての地位を確立していた。ワシントンとフランクリンの関係は、デトロイトでの少女時代にミス・Dことワシントンが父のホームパーティーの常連だった頃にさかのぼる。家族の古い友人がニューヨーク・シティのナイトクラブの観客席にいることを知ったフランクリンは、ワシントンの十八番「アンフォゲッタブル」を披露して敬意の念を表そうとする。しかし、残念なことに彼女の試みは派手に失敗する。ワシントンは若手歌手が実力を見せびらかそうとしていると思い込み、テーブルを蹴り倒したのだ。そして「ビッチ、女王が目の前にいるときは、女王の歌を二度と歌わないで!」と、傷ついたフランクリンを叱責した。

ドラマチックなこのシーンは、ほぼ真実にもとづいている。だが、ワシントンの怒りの矛先はフランクリンに向けられてはいなかった。この事件が起きたのは、ワシントンが別の新進気鋭の歌手、エタ・ジェイムズのコンサートを訪れたときのことだ。大胆にもジェイムズは、ワシントンの前で彼女の楽曲を披露したのだ。フランクリンとワシントンの関係はこれより若干友好的ではあったものの、常におおらかなものだったとは限らない。デヴィッド・リッツは著書『アレサ・フランクリン リスペクト』のなかで、デトロイトで行われた駆け出し時代のフランクリンのコンサートについて詳しく述べている。そのとき、ワシントンはバックステージを訪れてフランクリンの楽屋が散らかっていることに苦言を呈した。「アレサはその発言にひどく腹を立て、ダイナが歌姫風を吹かせていると思いました」とリッツは記す。

Translated by Shoko Natori

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