スクエアプッシャーの超ベーシスト論 ジャコからメタリカまで影響源も大いに語る

スクエアプッシャー、1994年撮影

スクエアプッシャーことトム・ジェンキンソンのデビュー作『Feed Me Weird Things』がリリース25周年を迎えた。1996年にエイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムスによるレーベル、Rephlexよりリリースされた本作は革新的だった。高速で複雑なドラムンベースのビートに耳を奪われるが、そこに生演奏のエレクトリック・ベースを併せたサウンドは今でも唯一無二だ。

ここでのトム・ジェンキンソン自身のベーシストとしての存在感はすさまじいものがある。単純にテクニックが尋常ではないのだ。それがビートとオーガニックに組み合わされている。スクエアプッシャーの作品を改めて聴き直してみると、ループのビートの上で即興演奏しているレイヤー的な作りではなく、それぞれの楽器が有機的に絡み合っていて、セッション的な作りになっている。恐ろしいことにそれはデビュー作の時点で完成されていた。今から25年も前からこの精度だったことには驚きを禁じ得ない。

デヴィッド・ボウイ『★』への参加でも知られるドラマーのマーク・ジュリアナに、名門ブルーノートに所属するゴーゴー・ペンギン。彼らはエレクトロニック・ミュージックのサウンドをジャズと融合させようとしてきたわけだが、その影響源として共に挙げていたのがスクエアプッシャーだった。それだけ偉大で、ここまで長いキャリアを積んできたはずなのに、彼のベースにまつわる情報は意外にも少ない。ほとんどの記事や資料で「ジャコ・パストリアスの影響」という一言で片づけられていて、ジャズの話に広げても1998年発表の『Music Is Rotted One Note』に関してマイルス・デイヴィスの影響と書かれているのみ、と言っても過言ではない状況だった。

彼の演奏を改めて聴き直すと、ジャコの影響は明白だが、ジャズのみに留まらないルーツが透けて見える。ロックからの影響は間違いないし、アルバムによってはレゲエも演奏していて、そのフィーリングも素晴らしい。2006年にはエレクトリック・ベースのみで作ったソロアルバム『Solo Electric Bass 1』で、この楽器がもつ可能性を追求するようなチャレンジも行っている。

そこで今回の25周年を機に、ベーシストとしての側面にフォーカスして話を聞いてみようと考えた。そして、語り尽くされた感もあったスクエアプッシャーの音楽を、もう一度フレッシュに聴き直すためのヒントをたくさん教えてもらえた。あの緻密さや繊細さ、そして暴力性のルーツはどこにあるのか。トム・ジェンキンソンに話を訊いた。


『Feed Me Weird Things』のオープニングを飾る「Squarepusher Theme」

―ベースを選んだきっかけは?

トム:音楽をいろいろ聞いていく中で、ギターという楽器や音色に興味を持つようになった。わかりやすい例で言うと、ジミ・ヘンドリックスなどは楽器を雄弁に弾くことでギターをサウンドの主役に仕立てていた。そういった音楽を聞いて、僕もギターを弾きたいと思ったんだ。でも、自分は音楽的な家庭で育ったわけではないから、家に楽器が転がっていて、好きに弾けるという環境ではなかった。学校にもギターは置いてなかったから、楽器を手にするには自分でお小遣いを貯めるしかなかった。そうして最初に自分で買った楽器は、安物のクラシック・ギターだった。10才の時だ。それを買った理由も、まずそこから始めるのが賢いやり方だと言われたからだ。最初からエレキ楽器を買うんじゃなくて、まずはアコースティック楽器から覚えて、エレキに進むのが鉄則だってね。それに倣っただけ。本心は、最初からエレキを買いたかったよ。弾きたかったのはそっちだからね。

ギターについて学んでいく過程で、他にもいろんな楽器があることを知り、ベース・ギターというものがあることを知ったんだ。それこそヘンドリックスのように、音楽の主役になるパートを奏でるギターが好きだったのと同じくらい、ベースへの興味も湧いてきた。ハイファイの低音を上げて音楽を聴くと、空気が振動するような、深い音が好きだった。それに加えて、謎めいたところも気に入った。当時の自分にとっては、ベースがギターほど明確に定義付けされていない、まだ謎の多い楽器に見えたんだ。ギタリストは音楽文化の中でどんな存在か、すでにイメージが出来上がっていた。見た目がどんなで、どんな動きをするとかも含めてね。でもベーシストはまだ謎めいていた。ステージでもいつも後方にいて目立たない。ストーンズのビル・ワイマンみたいに微動だにせず、無表情で弾いている。サウンドの要でもあるのに、誰にも注目も評価もされない。だからこそもっと知りたいと思った。手にした時に、どんなことができる楽器なのかって。固定概念で各楽器の役回りは知っているけど、その中でもベースには、可能性の余地がまだまだあるように思えた。

ということで、最初に買った楽器はクラシック・ギターで、次に買ったのが、スティール弦アコースティック・ギターで、その次に買ったのが、地元の新聞で安売りしていたベースだった。アンプ付きで70ポンド。そこがポイントだった。アンプ無しで普通に弾いたんじゃ、何も音が出ないよね。ベースにアンプが付いてくるっていうんで、「これだ」って思っ頃て、なんとか金をかき集めて買った。Kという会社が作った安物のギブソンEB-0のコピーのような代物だ。ネックが30インチしかない、小ぶりのベースでね。でも、初めて弾くには十分だったよ。

―おいくつの時ですか。

トム:11才だね。

―では、まず10代の頃のベース・ヒーローを教えてください。

トム:その頃に自分が知っていたベーシストと言えば、レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズだった。ある意味、『Led Zeppelin II』でベースの弾き方を独学で覚えたと言える。それまで音楽に関する知識もなければ、正式に教わったこともなかった。キーが何かも知らなかったし、音符は知ってたけど、それを組み合わせるとどうなるのかという構造もわかっていなかった。だから音を聴いて、そのままコピーしようとした。「ダ・ダ・ダ」って聴いたら、「じゃあ、こう、こう、こう押さえればいいのか」(フレットを抑える動作をする)ってね。(笑)。めちゃくちゃ単純なやり方だ。アルバムを聴いて、その中からフレーズを見つけて、それを自分なりに真似していた。あのアルバムを今聴いても、ジョン・ポール・ジョーンズは素晴らしいベーシストだと思う。流れるように滑らかでいて、明瞭でクールなサウンドだ。

ということで、『Led Zeppelin II』を聴いて、まずベースを覚えた。全部弾けるようになるまで、ひたすら弾いた。それも11とか12歳の頃の話だ。自分の部屋で立って、ロックスターになったような気持ちに浸りながら、「弾けた!」って喜んだもんだよ(笑)。


レッド・ツェッペリン「胸いっぱいの愛を」、ジョン・ポール・ジョーンズのベース・トラック

Translated by Yuriko Banno

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE