スクエアプッシャーの超ベーシスト論 ジャコからメタリカまで影響源も大いに語る

スクエアプッシャー、1994年撮影


ジャコ・パストリアスとの出会い

―その頃、ロックバンドを組んだりしていましたか?

トム:最初に入ったバンドはスラッシュ・メタルのバンドだった。12才の時だ。バンドをやるにはまだ若いよね。学校の上級生たちに誘われたんだ。14、5歳くらいの生徒たちでバンドを組んでいて、先にベーシストがいたんだけど、彼はグルーヴ感が全くなくて……言ってしまえば下手でさ(笑)。で、俺に目をつけたってわけだ。昼休みにいつもベースを弾いてたから。というのも、運動がてんで駄目だったんだ。学校では、男子生徒は休み時間になるとみんなサッカーばかりやっていたけど、その輪には入れなかった。サッカーがとにかく下手だったんだ。子供の頃から背が高くて、無駄に手足が長くて、どう動かせばいいのかが全然わからなった。真っ直ぐボールが蹴れなくて、使い物にならなかった。だからベースを学校に持っていって弾いていた。他にも音楽好きが学校にはいて、もっぱら彼らとつるんでいた。

そんなわけで、メタル・バンドをやっていた上級生と知り合いになった。それまでメタルとか全然聴いたことがなかったのに。せいぜいアイアン・メイデンとか名前を聞いたことがある程度だ。で、メタリカの『Master of Puppets』だったり、メガデスの『Peace Sells...But Who’s Buying』とか、アンスラックスといった80年代スラッシュ・メタルのCDを渡されて、「俺たちはこういうのをやってるんだ」って言われた。そこで短期集中コースでメタルを聴くようになったんだ。


1997年、MTV Japanで放送されたライブ&インタビュー映像。トムはアンスラックスのTシャツを着ている。

―そこからどういう流れでジャズを聴くようになるんですか?

トム:メタル・バンドには入ったけど、他の音楽ももちろん聴いたよ。いろいろ掘り起こしてね。Woolworth(訳註:イトーヨーカドーみたいな食料品以外も扱っている店)というスーパーが当時近所にあって、確か14歳だったと思うけど、そこでカセットを眺めていたらウェザー・リポートの『Heavy Weather』を見つけてね。その裏にジャコ・パストリアスの名前を見つけたんだ。彼の音楽はまだ聴いたことがなかったけど、評判は聞いていたから名前は知っていた。ちょうど僕がベースを弾き始める頃に亡くなったんだ。確か亡くなったのは1987年だったよね。イギリスの音楽誌でもたくさん取り上げられていた。だから名前を覚えていて、凄腕のベーシストだってのは知ってたけど、それ以外のことは何も知らなかった。インターネットのまだない時代だったから、「ちょっと検索してみるか」ってわけにはいかない。彼のレコードを持っている人も周りにいなかったし、お金もそんなに無かったから、聴きたいレコードを片っ端から買える身分じゃなかった。で、見つけたカセットが確か2ポンドとかだったんで、「買っちゃえ」と思った。それがジャコを知ったきっかけだ。

15歳の時には、それなりにちゃんとしたバンドに入った。ポップ・ロックのバンドだったけど、ドラマーが上手かった。後々、ドラムのプログラミングをするようになってからは、彼の影響は大きかったと思う。彼はジャズに詳しくて、彼を通して聴いたものも多いね。



―特にプレイを研究したジャズ・ベーシストはいますか?

トム:いたけど、“研究した”って言われると、ちょっと違うんだよな。いろんな音楽を聴いて気に入ったものがあれば、それをコピーした。それだけなんだ。というのも、真剣にミュージシャンを目指していたわけじゃないからね。上手くなろうっていうより、楽しい趣味としてやっていた。サウンドが気に入った曲があれば弾いてみるって感じ。サウンドが好きじゃなかったら、どんなにいい曲だったとしても、どうでもよかった。サウンドが気に入ったものを自分なりに理解することに興味があったってだけで、系統立てたり、鍛錬を積んだり、真剣に取り組む感じじゃなかったんだ。一つのことをとことん研究したというより、「今の面白いフレーズだ」と思ったら、それを弾いてみるという感じ。後にジャコのソロをたくさん弾いてみたりもしたけど、「あれが弾けたら楽しいだろうな」と思ってやってみて、実際に弾けると楽しいっていうだけ(笑)。

「将来、音楽で食っていくんだ」なんて考えてなかった。普通に大学に通って、将来は学者になりたいと思っていた。学術的な分野での勉強に興味があったし、そっちの道に進むと思っていた。普通の仕事には就きたくなかったからね。大学に進んで、研究室に入るつもりで、音楽はあくまで趣味としてやるつもりだった。その考えがネックにもなったよ。15〜17歳の頃にやっていたバンドの他のメンバーは、みんなバンドで成功したいと思っていたからね。レコード契約やマネージメント契約を手に入れようと、ロンドンでライヴをブッキングして上を目指していた。自分だけ違ったんだ。音楽のために学校を辞めるなんてありえないと思ってた。

―では、さっきも名前が出たジャコのどんな曲をコピーしたんですか?

トム:最初に弾いたのは、ジャコ本人の曲ではないんだけど、彼の最初のソロ・アルバムの1曲目の「Donna Lee」。チャーリー・パーカーの曲だ。流れるようなメロディーで、とにかく魅力的な曲だと思った。チャーリー・パーカーのバージョンを知らなかったから、しばらくはハーモニー付きで聴いたことがなかったんだ。ジャコのソロ・アルバムの演奏を聴くと、メロディーだけでコードも何もない。「なんだこれは?」と思った。凄く美しいんだけど予測不可能。しかも伴奏がパーカッションだけで、コードも何もないから、まるで未来から送信されてきたみたいだった。異次元のもののように思えた。最初に「Donna Lee」の旋律を弾いて、そこからソロが展開されていく。これは自分でも弾いてみたくなった。しかも、サックス用のキーでG#か何かで演奏されていた。ギターで書かれた音楽というのは、EとかAとかBといったキーだけど、この曲はG#。イカしたキーだ。そんなわけで、この曲を最初に覚えた。楽しかったよ。

選ぶ曲によっては、それを弾くことで演奏者の弾き癖を直してくれることがある。どんな楽器にも言えることだけど、弾いていくなかで筋肉の記憶によって無意識に条件反射的に弾いてしまう指の動きというのがどうしても出てくる。でも、「Donna Lee」はいつもと違う、慣れない指の動きを強いられた。だからジャコ本人もやろうと思ったんだと思う。他には、ハーモニクスを使った「Portrait of Tracy」も。あの曲も凄く美しい曲だし、楽器へのアプローチも興味深かったね。



Translated by Yuriko Banno

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