スクエアプッシャーの超ベーシスト論 ジャコからメタリカまで影響源も大いに語る

ロック、メタル、レゲエがベースに与えた影響

―ジャコ以外でコピーした人はいますか。

トム:イギリスにセンスレス・シングス(Senseless Things)というインディー・バンドがいた。90年代初頭に出てきて、すぐに消えてしまったバンドなんだけど、彼らに「Easy to Smile」という曲があった。いわゆるインディー・ロックの「ドドダド・ドドダド・ドドダド」という、感受性のかけらもない、一辺倒の畳みかける騒がしだけの、でも楽しい、「ワーーーッ」て10代が酔っ払って踊り狂う感じの音。でも、そこのベーシストが凄くてね。疾走感が半端ないんだ。確か「Top Of The Pops」で観たんだと思う。UKのチャート音楽を観せるポップ番組で、そこで観た時に、そのベーシストがスラッピングというのか、攻める弾き方をしていて、ただ闇雲に弾いてるんじゃなくて、とにかく歯切れがよかった。だから、早速そのレコードを買って弾いてみようと思った。最高に楽しかったから、よく覚えている。



トム:あとは…ザ・ジャムのベーシスト、ブルース・フォクストンも好きだった。ザ・ジャムを聴きながら弾くのも結構やった。いわゆる凄腕ベーシストと言われる人ではないけど、彼にしか出せない音があったと思うし、ベースへのアプローチにしても、ザ・ジャムの音楽には欠かせない存在だったと思う。ザ・フーのジョン・エントウィッスルもそう。昔ながらのベーシストだけど疾走感がある。直球で、骨太で、説得力がある。

あとはスタンリー・クラークかな。さっき話した、バンドを一緒にやっていたドラマーにアルバム『School Days』を教えてもらったんだ。




トム:特にこだわりはなくて、いろいろ聴いてる中で「これは面白い」と思ったものを真似していたんだ。例えば、メタリカのクリフ・バートンもそう。彼らの音楽を教えてもらって聴くようになって、今でも自分の中でアイコニックな曲の一つになっているのが、メタリカの1stアルバム『Kill ’em All』収録の「Anesthesia」における彼のソロ。超技巧派というわけではなく、けっこう単純なことをやっているんだけど、曲の雰囲気が物凄くいい。ある種、凄くエモーショナルでもある。彼は本当にクールなベーシストだった。『Master of puppets』の最後の曲「Damage Inc.」の前にインスト曲「Orion」があって、もしかしたら俺の勝手な思い込みかもしれないけど、おそらくクリフ・バートンがほぼ一人でやっている曲なんだと思う。「Damage Inc.」自体はめちゃくちゃ激しいんだけど、そのインストの部分は本当に美しいくて、思慮深く、瞑想的。シンプルなコード進行で構成されていて、そこに音を重ねている。ああいう音楽でベースが前に出る機会というのはなかなかないわけだけど、出た時は本当にクールだった。若くして他界してしまったのは途轍もない悲劇だ。あのまま続けていたら、素晴らしいソロ奏者になっていたと思う。



―『Feed Me Weird Things』では「The Swifty」などにレゲエの要素があり、ベースラインにもレゲエの影響があると思います。レゲエのベーシストにかんしてはどうですか?

トム:もちろん。というのも、ギターを手にする前、子供の頃に一番聴いていた音楽がダブやレゲエだった。オーガスタス・パブロやキング・タビー、もちろんボブ・マーリーも。ボブ・マーリーが例えいなかったとしても、彼のバンドであるザ・ウェイラーズは信じられないくらい最高だった。当然、レゲエにおけるベースというのは、ある程度制御されたものではありつつ、サウンドの中軸を担う存在でもある。しかもグルーヴがある。ウェイラーズのベーシストはファミリーマン・バレットだったっけ?

―アストン・バレットですね(ファミリーマンは彼の愛称)。

トム:そうそう。最高のグルーヴだよね。ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズのライヴ・アルバム『Babylon by Bus』収録の「Exodus」のベースを弾くのが大好きだった。座って弾いてるだけでトランス状態になれる。今でも、フリーフロウや反復のない音楽が好きな一方で、ああいう反復を繰り返すことで没入できる音楽も大好きなんだ。何時間でも弾いてられる。めちゃくちゃ楽しい。だから、レゲエも、名前を知らない人も含めて、たくさん影響を受けているのは間違いないよね。



Translated by Yuriko Banno

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