tricotが語る、両極の持ち味活かした「暴露」「いない」の制作舞台裏

「モノ」が欲しいわけではなくなってきている

─歌詞の中では、“自分に褒美をやろうにも 欲しいものなど何もない”というフレーズがすごく刺さりました。

イッキュウ:あははは。この歳になってくると、だんだんそうなってきますよね。「今日も1日頑張ったなあ」と思って自分で自分に褒美をあげたくても、特になんもないなあって。しかも毎回そうなってくる。自分が「頑張ったなあ」と思うことって、結局はモノづくりに関することがほとんどなんですけど、作ったものが認められたり、友人に「この曲、いいね!」と言ってもらえたりすることが何よりのご褒美で、何か「モノ」が欲しいわけではなくなってきている自分を嬉しく感じているというか。

─ああ、なるほど。物欲がなくなってきている自分を虚しく感じている歌ではないのですね(笑)。

イッキュウ:ああ、それとは違いますね(笑)。

─他のメンバーの皆さんは、この曲に対してどんなアプローチをしましたか?

キダ モティフォ( Gt, Cho):私は去年、コロナ禍のステイホームで自分の中のモチベーションが下がってしまったのもあり、ちょっと自分のギターサウンドに飽きていたんです。自分の中の「マンネリ」を打破したいというか、「ヘンな音を出したい」「ギターに聴こえないような音にしよう」と思って、新しく購入したマルチエフェクターなどで途中のギターフレーズの音作りを試していました。

ヒロミ・ヒロヒロ(Ba, Cho):曲調的には結構爽やかな感じだけど、今言ったみたいにキダさんのギターが結構面白い音を使っていたり、メロディもアップダウン激しめな感じだったので、ベースは割とシンプルな感じで低音を支えることに徹しましたね。

吉田雄介(Dr):ドラムはあえて「型に嵌める」というか、「自分がこう叩きたい」というよりは、みんなの「好き」を詰め込んだドラムパターンにしようと思いました。「みんな、こういうドラムが好きだよね?」っていう……それは嫌らしい意味じゃなくて、なんていうか、フレーズそのものをややこしくするはもういいかなと。それよりは、「普通のことしてんやねんけど、よくよく聴いてみると不思議な感じやなあ」みたいなところを狙いたかったんですよ。そうやって叩いた方が自分としても、tricotとしても面白くなりそうな気がするので、今後1年くらいはその方向性でドラムはいこうかなと思っています。

─そして今回リリースされる新曲「いない」は、テレビ東京のドラマ『春の呪い』の主題歌として書き下ろされたものです。ドラマの世界観を、楽曲にどう落とし込んでいきましたか?

イッキュウ:作品自体が結構衝撃的な展開と聞いていたので、それに合うような曲というか。そこは楽曲を作る時から意識していました。ただ、ドラマの原作を読むと「呪い」といってもそんなにおどろおどろしいイメージとは少し違うのかなと感じたので、そこまで歌詞も怖くないよう気をつけましたね。いわゆるホラーやオカルトの「呪い」ではなくて、あくまでも自分自身が囚われている「何か」を「呪い」として描き、それがパーンと解けて次に進んでいけるような、そんな曲になったらいいなと思って書いていきました。



─なるほど。曲自体は「暴露」に比べて変態度が高い仕上がりですよね、「これぞtricot!」という感じがします。

イッキュウ:ドラマ自体の迫力を、曲で後押しできたらいいなと思いました。しかも、よく聴くと「いい曲」なんですよ(笑)。ドラマに関わっている人、元々のファンの方たち、両方に喜んでもらえるような曲にしたいとは思っていましたね。

─ギターもこの曲は暴れまくっていますよね。イントロもアンプのノイズから始まるし。

キダ:そうですね。『春の呪い』というタイトルを聞いて、その内容も把握した上で、歌詞とは逆に「おどろおどろしさ」と「不穏な感じ」をギターで出したいなと思いました。サウンド的にはガツーンとした「衝撃」を表現したかったので、ハムピックアップのギターを使って今まで演奏した中で一番ゴリゴリに歪ませて弾きました。おかげで自分のギターの音を見直すきっかけになったというか。むしろ今まではクリーンな方だったんやな、もっと歪ませてもいいんや! とか思ったりして。


キダ モティフォ

イッキュウ:あのイントロのギター、先輩めちゃくちゃいろんなパターンを録りましたよね。6、7パターンくらい? 「まだ他にパターンあります?」「今のいいね!」なんて言いながらワイワイやって、オーディションを勝ち抜いたのが本番で使われました。

─サビのメロディもトリッキーですよね。しかもそこから始まるという。

イッキュウ:その辺は意識しました。サビでパーンと解き放たれるというか。他のところはすごく難しいメロディなんですけど、サビだけでも歌いたくなるような気持ちになってもらえたらなと。

─リズム隊は、この曲はどんなアプローチをしていますか?

ヒロミ:「おどろおどろしさ」を出したいと思いつつ、ただ重くて暗い感じで終わるのではなく絶妙なところへ行けたらいいなと思いながらフレーズを考えましたね。ドラマの衝撃的な展開は意識したところでもあるので、サビは突き抜けているぶんCメロでは遊んでいるというか。でもちょっと不穏な空気感は残したいというのもあって、そこはかなり試行錯誤しました。最初デモに入っていたフレーズとは全然違う、ちょっと攻めたアプローチをしています。


ヒロミ・ヒロヒロ

吉田:ドラムに関しては、「みんなの『好き』を詰め込みました」第二弾です(笑)。普段、やらないことを沢山やっていたりするんですけど、ドラマーが聞いたら「ああ、好きだよねこういうの」って、ちょっと笑われるくらいベタなことをやっていますね(笑)。


吉田雄介

─吉田さんは今、そういうモードなのですね。

吉田:今まではそういうベタなことはなるべくやらないようにしてきたんですよ。「みんなが好きじゃないことをあえてやろう」と思っていたのですが、それもちょっと飽きてきて。「みんなが好き」というと語弊があるんですけど、どうせそれをなぞったとて僕が叩けば「普通」にならないのは分かっているし、絶対にどこかヘンな感じになるのがtricotなので(笑)。そういう意味では「勝負する場所」が徐々に変わってきているのかもしれないです。

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