クレイジーな世界で予測不可能な音楽を生み出す、UKロック新世代「スクイッド」の方法論

「過去のリピート」よりも「新しいサプライズ」

―ECMレーベルからの影響について語っているのも見かけました。ロックバンドからはなかなか挙がらない名前だと思います。

オリー:僕はそこまで影響は受けてないんだ。アントンは?

アントン:エスビョルン・スヴェンソンがいたレーベル?(※)それを語ったのはおそらくルイス(・ボアレス:Gt,Vo)じゃないかな。僕がルイスに最初に会った時、彼はエスビョルン・スヴェンソン・トリオ(e.s.t.)の『301』っていうアルバムをエンドレスで聴いていたから。

※e.s.t.はジャズに先鋭的な要素を盛り込んだスウェーデンのトリオ。在籍したレーベルはACT、Superstudio GulなどでECMには未所属。

―ジャズで他に影響を受けたアーティストは?

オリー:これはどちらかといえば最近だけど、サン・ラ。彼の作品はたくさんあるけど、最近ずっと聴いてるのは『Lanquidity』。あの作品はかなりエクスペリメンタルだよね。リイシューのサウンドが特に素晴らしい。あと、ローリー(・ナンカイヴェル:Ba,Brass)は最近、奇妙な感じのフリージャズにハマってる(笑)。僕にとって親しみやすいサウンドとは言い難いけど、面白いなとは思う(笑)。




―ブラック・カントリー・ニュー・ロードのルイス・エヴァンスなど共に、エマ・ジーン・サックレイがアルバムにゲスト参加していたのも気になりました。マルチ奏者でDJやプロデュースもこなす越境的なミュージシャンですが、一般的にはUKジャズ・シーンの人として紹介されている印象だったので。

アントン:彼女は本当に素晴らしいミュージシャンだし、すごくスムーズに作業ができる。作業を依頼するとあっという間にこなしてくれるんだ。彼女と共演した理由はそれだったけど、UKのモダン・ジャズ・シーンに興味はあるよ。活気に満ちているし、特にサウスロンドンのジャズ・シーンは今熱いと思う。僕らがジャズに影響を受けたバンドとして扱われるようになったのは、最初に出演したフェスがBrainchild Festivalだったから。サセックスで毎年開催されるフェスなんだけど、出演者のリストを見たら、他はサウスロンドンのジャズバンドばかりだった。僕らの音楽性は明らかに他の出演者たちと違うし、オーディエンスは逆にそれを楽しんでくれてよかったけど、あれは場違いな感じがしたな(笑)。

―今日のイギリスでは、ロックとジャズのシーンが繋がってきているのでしょうか?

オリー:クロスオーバーは結構あると思う。コロナの前は新しいジャズバンドがフェスにたくさん出ていたしね。さっきアントンが話したフェスで、コメット・イズ・カミングは2番目に大きなステージのヘッドライナーを務めていた。つまり、ジャズがメインストリームになってきてるんだと思う。それってすごくいいことじゃないかな。コメット・イズ・カミングはものすごく実験的だし、僕らよりもずっとクラウトロックっぽさがあると思う。そういうバンドが出てくるのは嬉しいよね。


エマ・ジーン・サックレイはブルーノートの名曲カバーコンピ『Blue Note Re:imagined』にも参加。デビューアルバム『Yellow』を7月2日にリリース予定。

―スクイッドの音楽はミニマルな反復とともに、予測不可能な展開も多く見られますよね。多くのポップソングがストリーミングやTikTokに最適化するために、短くてキャッチーなフックを盛り込もうとしているのと正反対の発想みたいにも映ります。

アントン:僕たちがTikTok用に曲を書くのが下手なだけかも(笑)。それは冗談だけど、僕らにとって一番重要なのは自分たち自身が楽しむこと。だから、そういう音楽になるんだと思う。面白くて突飛なアイディアを探っていくのが大好きだし、曲の尺を気にして曲を書くことはない。それに、あえて短くてキャッチーな曲を書くことを拒否して、長い曲を作ろうと意識しているわけでもないんだ。2分間の曲を作る時もあれば、20分間の曲を作る時もある。自分たちがその曲にとって最適だと思う長さのスペースを与えているだけなんだよ。

―「予測不可能」という点についてはどうですか?

オリー:一般的な曲構成にハマりたくないというのはあるね。ヴァース、コーラス、ヴァース、ヴァース……っていう形の音楽を作ることにはあまり魅力を感じない。僕らにとっても新しい構成の曲を書くことで、自分たち自身を楽しませてる部分はあると思う。その変わったセクションが集まって曲が出来ているから、予測不可能な仕上がりになるのかもしれないね。



―ここまで話してきたような非メインストリームな音楽への興味、そういった音楽を作ろうとする好奇心はどこから生まれるのでしょう? トラディショナルなロック・バンドが退屈だったから?

アントン:別にそういうロック・バンドが退屈だとは思わない(笑)。素晴らしいバンドは大勢いると思うけど、そのバンドたちが既に成し遂げてきた偉業を、自分たちが受け継いでリピートする必要性を感じないんだ。だから僕たちは、彼らから要素を借りて、自分たちが作りたいものを作っている。それが何であっても、僕たちにとっては構わないんだ。音楽を聴いてサプライズを経験するのが好きな人って多いと思うし、僕らのレコードからもそれを経験してもらえたら嬉しいね。

Translated by Miho Haraguchi

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