クレイジーな世界で予測不可能な音楽を生み出す、UKロック新世代「スクイッド」の方法論

影響源は現実という名のディストピア

―『Bright Green Field』におけるテーマやコンセプトについて教えてください。

オリー:登場人物がいるストーリーというよりは、場所への関心がアルバムには反映されていると思う。全体を通して特定のコンセプトがあるわけではないけど、もしあるとすれば……アルバムを作っている時に出てきたディストピアのアイディアがあるんだけど、それがアルバム全体を通して表現されている。あとは、僕らの友人たちに彼らが話しているボイスメモを送ってもらったんだけど、その言葉がアルバム全体に散りばめられている。アルバム制作中、不意に起こったことがたまたまアルバムの曲どうしの共通点になり、それが曲と曲をつなげ、アルバムという一つの作品にしたんだ。

―オリーがニューアルバムに寄せたコメントに、「未来を偏重するディストピア」という表現があったのが気になりました。

オリー:そのアイディアは、マーク・フィッシャーという作家から拝借したもの。彼は憑在論について書いていて、未来というものは存在しないと説明している。その未来に対する捉え方が面白いと思ったんだ。このアルバムで表現されているディストピアは、今のこの世界のクレイジーさにインスピレーションを受けている。SFの本に出てくるようなことが、現実のニュースとあまり変わらなくなってきているよね。そこが興味深いと思ったし、そのアイディアがマーク・フィッシャーの失われた未来のアイディアと繋がっているような気がしたんだ。

―そういったディストピア感は、収録曲でいえば「Narrator」あたりからも伝わってきた気がします。

オリー:あの曲の歌詞は、僕が見に行った『ロングデイズ・ジャーニー この世の涯てへ』という映画を踏まえたもの。映画の最後で、主人公が映画館の席に座り3Dメガネをかけるんだけど、映画を見ている僕たちもそれと同時に3Dメガネを手渡される。すると、自分たちも3Dの夢のなかへ入っていくんだ。それが面白いと思ってさ。その内容は記憶なんだけど、映画はすごく複雑で、人々を惑わせる信頼できない語り手(=Narrator)というアイディアが面白かったから、それについての曲を書きたいと思ったんだ。




―『Bright Green Field』というタイトルには、イギリス的なシニカルさを感じました。日本人である僕からすると、スクイッドの音楽は非常にイギリスっぽさを感じるんですけど、自分たちではどう思いますか。

アントン:僕らはイギリス人だから、それが音楽にも自然に出てくるんだと思う。今回のアルバムにしたって、自分たちがこれまでに訪れたことのある場所、もしくは頭にイメージが残っている場所、イギリスに実在する場所からインスピレーションを受けているだろうしね。だから、イギリスっぽさを感じるというのは確実にそうだと思う。タイトルも、(詩人の)ウィリアム・ブレイクなんかのスタイルから影響を受けているんじゃないかと思うし。

―イギリスという国のことは好きですか?

アントン:それはかなり複雑だな。イギリスの風景はどこも綺麗だと思うし、素晴らしい人々もいる。素晴らしい音楽やそれ以外のカルチャーも存在している。最高の友達がいるのもイギリスだし、仕事をする環境としてもいい。でも同時に、嫌いな部分もたくさんある(笑)。自然環境への向き合い方とか、メディアのあり方とか。メディアは間違ったものを讃え、サポートしていると思うから。多くの国民の思いが無視されている。イギリスって本当に複雑なんだ。

オリー:同感。イギリスは大好きで大嫌い(笑)。でもきっと、どの国の人に同じ質問をしても似たような答えが返ってくるんじゃないかな。アイスランドだけは違うかもね。あそこは本当に美しいし、嫌な要素なんてないかもしれない(笑)。


アルバムのメイキング映像

自分たちが選曲しているプレイリストレイト・オブ・ザ・ピアを選んでましたよね。彼らもSFっぽい世界観を持つバンドだったから妙に納得したんです。共感を覚えるUKのバンドはいますか?

(二人ともしばらく考え込む)

アントン:あまり他のバンドとは同じことをしないようにしているから、難しい質問だな(笑)。

オリー:うーん……ブラック・ミディやブラック・カントリー・ニュー・ロードはそうだと思う。

アントン:たしかに。彼らも僕たちみたいに、どのバンドとも違うサウンドを持っていると思う。音を実験するのを楽しんでいるし、トラディショナルな音楽を書かないという点は共通しているんじゃないかな。


Photo by Holly Whitaker

―最近、UKチャートが日本の音楽ファンのあいだでも話題になっています。ブラック・カントリー・ニュー・ロードのデビュー作が全英4位、モグワイのようなバンドが全英1位。ロックバンドが勢いを取り戻しているのは世界的にも珍しい状況だと思います。こういった動きをどのように見ていますか?

オリー:ここ数年、毎年のようにイギリスのメディアでは「ギターミュージックは死んだ」と書かれていた。でも僕にとっては、新しいロックバンドは常に出てきていたし、ギターミュージックが勢いをなくしたことなんてなかった。最近は小規模なロックバンドがトップ40に戻ってきたよね。メインストリームから外れていたのが、また戻ってきたんだと思う。勢いを取り戻したという理由はそれだけで、実際にギターミュージックやロックバンドの質が落ちていたわけじゃないと思うよ。

―みなさんの場合はきっと、チャートで1位を獲ることが最終ゴールではないですよね。バンドの将来像についてはどんなヴィジョンを描いていますか?

アントン:これも難しい質問だな。コロナで状況がこれまでと違うから。活動を続けるためには、とにかくギグをやらなきゃ。音楽が仕事になってからは、自分たちが書きたい曲を書き続けること、演奏し続けることがゴールになってる。特にこれといった大志は今のところないね。今はとりあえずショーがやりたくてしょうがないけど、いつまた演奏できるようになるのやら。

オリー:それ以外は今年、色々達成できたと思う。ここまで知ってもらえるようになったのもそうだし、それを目指していたわけじゃないけど、自分が子供の時に読んでいた雑誌のカバーを飾ったのもそう。そこまで多くの人々に僕らの存在を認識してもらえるようになったのは、バンドにとってすごく大きし、嬉しいことだね。バンドとして真剣に向き合ってもらえるようになったんだなと実感できるようになったから。

アントン:日本にも行けるようになるといいな!




スクイッド
『Bright Green Field』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11690

Translated by Miho Haraguchi

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