プレイボーイ・カルティが語る、ラップスターの孤独と沈黙

カルティがトレンドセッターである理由

『Whole Lotta Red』のリリースに伴って、彼はヴィジュアル面とイメージも一新した。現在はキャンディーレッドのドレッドヘアをトレードマークとし、時にはオルターエゴの吸血鬼に変身する(「Vamp Anthem」ではドラキュラのテーマソングとなっているバッハの「トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565」をサンプリングしている)。彼のエキセントリックさは、他にも様々な面に現れている。アルバムのアートワークは、70年代にロサンゼルスで発行されていたパンク同人誌Slashへのオマージュだ。彼の新たな名刺のひとつでは、彼の楽曲タイトルの多くで見られるように、大文字が不規則に用いられている。そのアイディアを思いついたきっかけは、文字変換予測テクノロジーT9を採用していた携帯電話でメールを打っていた頃の記憶だった。「リリックにも出てくるよ。『ヤツらに俺は理解できない 俺の会話手段は造形文字』っていうやつだ」。彼はキッド・カディを客演に迎えた「M3tamorphosis」についてそう話す。「くだらないことであっても、俺は自分にとってリアルなものについて語るようにしてる。人はそういうものに共感するんだよ」


Photo by Josiah Rundles for Rolling Stone

カルティが自身をトレンドセッターと捉えるのには根拠がある。彼が2018年にリリースした『Die Lit』が、以降のラップシーンに与えた影響の大きさは計り知れない。最近では「ベイビー・ボイス」と形容される高ピッチでアドリブを多用するスタイルを、甘美で幽玄なプロダクションと組み合わせるというやり方は常套手段となっているが、カルティのヴォーカルのユニークさは抜きん出ている。沈黙を守っていた数年間においても、彼のオンラインプレゼンスが衰えることはなかった。YouTubeでPlayboi Cartiを検索すると、ファンがアップロードした数々のリーク音源やスニペット、リミックス等をコンパイルしたページが数多くヒットする。過去数年間におけるカルティの勢いは、リスナー層の大部分を占める若く熱狂的なファンによって支えられていた。



実験性の強い野心作『Whole Lotta Red』によって、プレイボーイ・カルティは未来のスタンダードを確立しようとしている。「それが今俺がすべきことだからね。しばらく先の未来において主流になるようなサウンドを確立したいんだ」。彼は新曲についてそう語っている。「それは新しいものを生み出そうとするプロセスの一環に過ぎないんだ。誰もがすぐ理解できるようなものって、要するに他と一緒ってことだからね」。カルティは『Whole Lotta Red』のデラックス版の内容について多くを語ろうとせず、彼らしい曖昧な表現に終始している。「デラックス版はモンスターアルバムのパート2だ」。彼はそう話す。「すごい曲が収録されてる。いま言えるのはそれだけさ」

Translated by Masaaki Yoshida

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