ジャイルス・ピーターソンが語る、ブリット・ファンクとUK音楽史のミッシングリンク

ブリット・ファンクと関係していた日本のジャズ

―ブリット・ファンクの中にはジャズやフュージョンの要素もある曲があると思いますが、そういった曲はクラブでどういったレコードと一緒にプレイされていたのでしょうか?

ジャイルス:実は5〜6年前、ブルーイに日本で一緒にアルバムを作ろうと誘ったことがあったんだ。70~80年代の、日本のジャズ・ファンクやフュージョンを賞賛するためのアルバムを作りたくてね。なぜかというと、イギリスでブリット・ファンクが流行っていた頃、クラブ・シーンでは日本のジャズがかなりプレイされていたんだ。

ジャイルスが所有する和ジャズのレコードコレクション

ジャイルス:World Wide FMの僕の番組でも「Japanese Jazz 20」というのをやったんだけど、福村博(※1)や向井滋春(※2)、日野皓正(※3)なんかもピックアップして、ピュアなジャズとフュージョンをかけ合わせたプログラムにしたんだ。イギリスのクラブでは、日本のジャズの輸入盤がかけられていて、沢井原兒&ベーコン・エッグ『スキップ・ジャック』(※4)や、土岐英史とサンバ・フレンズ『ブラジル』(※5)、それからパシフィック・ジャム『パシフィック・ジャム』(※6)のような作品が人気だった。日本のレコードはイギリスではレアだったから、それを持っているというだけで特別なDJ扱いされたんだよ。毎月たった100枚ずつぐらい輸入されて、ロンドンのレコードショップに並ぶんだけど、ものすごく高かったね。でも、パッケージも綺麗だし、ワオ!って感じだった。

※1:トロンボーン奏者。向井滋春との2管クインテットなどで知られる。
※2:トロンボーン奏者。ブラジル音楽にも取り組んだ『Hip Cruiser』がDJから人気が高い。
※3:イギリスでは『Double Rainbow』『Hip Seagull』『City Connection』が人気。特に『Double Rainbow』収録の「Merry Go Round」は聖典的名曲とされている。
※4:金子マリ参加のジャズ・ファンク~フュージョン系アルバム。
※5:松岡直也、和田アキラらが参加したブラジリアン・フュージョン・アルバム。サックス奏者の土岐英史は山下達郎のバッキング・メンバーとしても有名。
※6:松岡直也と土岐英史がデビッド・T・ウォーカーやフローラ・プリムらとLA録音で作ったフュージョン・アルバム。ピアニストの松岡直也は門あさ美のプロデュースに携わり、永井博が自作のジャケットを手掛けるなどシティポップ方面でも知られる。




ジャイルス:イギリスのDJは、A.B.’s(※1)の『Déjà vu』や、阿川泰子の「L.A. Night」(※2)のレコードをかけていたよ。「L.A. Night」はLOTWの「London Town」をもとにして作られた曲なんだ(筆者注:LOTWの『Round Trip』のプロデューサーが、サイド・エフェクトのオージー・ジョンソンであることを受けての発言と思われる)。イギリスのシーンと日本のシーンはそんな感じで関係していて、本多俊之(※3)や中村照夫(※4)がプレイされることにも繋がっていく。そして、名盤といえば福村博の『Hunt Up Wind』だよ。(棚から取り出して)そうだ! 益田幹夫の『Trace』も最高のレコードだ。僕の家には日本のレコードのコレクションがあるからね。

だから、次は日本のミュージシャンたちとSTR4TAのアルバムを作りたいんだ。プロデュースはもちろんブルーイで、録音は日本でやるべきだね。だとしたら、そのサウンドを“ダーティー”にするために、僕も日本に行かなきゃいけないってことだ(笑)。

※1:SHOGUN、PARACHUTE、スペクトラムのメンバーらによる日本のフュージョン・バンド。
※2:イギリスでは『Sunglow』に収録されたヴィヴァ・ブラジル「Skindo-Le-Le」のカバーが人気。「L.A. Night」は『GRAVY』収録。サイド・エフェクト、デヴィッド・T・ウォーカー、ヴィクター・フェルドマン参加のLA録音。
※3:サックス奏者。フュージョン系の『バーニング・ウェイブス』がDJの定番。
※4:アメリカで活動していたベーシスト。『ユニコーン』がレアグルーヴの名盤として知られる。

【関連記事】インコグニートのブルーイが語る、ブリット・ファンクとアシッド・ジャズの真実







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Translated by Aoi Nameraishi

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