規格外の大型新人ブラック・カントリー・ニュー・ロード、ポストジャンル世代のバンド哲学を語る

アルバムは「声明」ではなく「録音時の記録」

―1stアルバムが完成し、これまで変化してきた歌詞も歌詞カードに印刷され、内容を細かく分析されると思います。これらの楽曲は固定したとも言えますが、収録された6曲はいずれ変化したり、バンドとして再訪して別の形に変わっていくと思いますか? それとも「とりあえず現時点での自分たちはこういう姿」という記録を残した、そういうアルバムに近い?

メイ:うん、間違いなくそういうもの。自分たちの現在地点を記すドキュメントだと思う。でも、と同時に、ここから自分たちはまた音楽家として絶対に変化していくだろうと思っているし、「Athen’s, France」と「Sunglasses」の2曲(アルバムの前に発表されたシングル)をアルバム向けに再録した理由のひとつもそれだった。というのも、あの2曲はライブでさんざん演奏してきたからずいぶんと、丸ごと変化したし。それに私たちも初期ヴァージョンには少々飽きてしまって(笑)。古びて生気に欠けるものにしたくはないし、新鮮さを保ちたいわけで。だからちょっと変化させることにもなるし、たぶん今後の私たちの進み方もこんな風になっていくんじゃないかな?



―ライブが基本のバンドだけに、音楽も流動的で常に進化しています。そんなあなたたちのアルバム制作へのアプローチはどんなものでしたか? ライブと録音音源とはまた別物だと思いますし、自分たちを盤に固定してしまうことに不安はなかったでしょうか? あなたたちを生で体験できない日本や世界各地のファンの多くにとって、このアルバムは一種の動かしがたい教典みたいなものになるわけです。

ルイス:アルバムを作るとして、それが純然たる「アルバム」的なアルバムだったとするよね。何もかもが作品そのものに貢献し、収録されたどの曲にも必然性がある、そういうアルバム。「アルバム」として書かれ、アルバムを作ることを目指してレコーディングされたものであり、それはバンドの最初の声明としては実に大きいものだ。で、それはとある時間の中に完全に固定された何かになっていく、と。そうやって作ったアルバムをライブで別のやり方で演奏すると、観客の反応は「アルバムの音と同じじゃないから気に入らない」か「アルバムとは違うけど良いヴァージョンだから気に入る」、そのどっちかだと思う。でも、僕たちは可能な限りライブ・パフォーマンスをやっているつもりでこのアルバムを録ろうとしたんだ。

だからこのアルバムにはさっき言ったような「バンドとしてのでかい第一声」的なフィーリングが伴っていないし、とにかく、この作品の録音時に自分たちはどんな場所にいたか、その姿を反映したものに過ぎない。それは本当に重要なんだ、ということはアルバムに収録された楽曲にもまだ育つ余地があるってことだし、アルバムに入れたものはあれらのトラックの「決定版」ではない。というか、今後も生まれないと思うし、おそらく自分たちのどの楽曲も「これで決まり、何も変えない」という決定的なヴァージョンは出てこないんじゃないかな? 

僕たちはとても飽きっぽいし、すぐ退屈になるから常にあれこれ変化させざるを得なくなる。実際、僕たちはこの1stをあまりにも「いかにもアルバムらしいアルバム」にはしないようにしたんだよ。それって妙な話だと思われるだろうけど、このアルバムは何もご大層な声明ではなくて。これらの楽曲は純粋に、最初の1年半の間に僕たちが書いたものであって、収録曲の間にもそれほど大した繫がりはない。それこそ、リハーサルをやっている現場に誰かがマイクを一本立てて一週間録音し、その中から自分たちにやれたベストなヴァージョンを選んだ、それがこのアルバムだ、みたいな。

―他にも候補曲はあったと思うのですが、この6曲だけに絞ったのはなぜでしょうか?

タイラー:しばらく前にライブで演奏していた歌は、たしかに他に2、3曲あった。ただし、結局ボツにしたんだよね、ライブで演っている段階ですら良い曲ではないのが分かったから。で、もうちょっと後で、割と最近になって書いた曲が2曲くらいあるんだけど、そっちは逆に、2枚目のアルバムのサウンドを示唆し過ぎるというか。その2曲は、私たちがこれから向かいつつある方向、その始まりを記している。私たちが次に乗り出す旅路にとってとても重要な楽曲だってことだし、だから1stに含めて発表してしまうのはもったいない、と。それに、1stに「Track X」って歌があって、あれは私たちのサウンドがこれからどうなっていくか、それを知るちょっとした手がかりになる曲というか。あれに留めておくことにしたんだ、他の曲も入れてしまったら今後を明かし過ぎることになってしまうし。

―その「Track X」は、私もアルバムの中で一番好きです。

タイラー:良かった、ありがとう! きっと、あなたは2枚目も気に入るはず。



―エレクトロニック・ミュージックが主体のニンジャ・チューンは生楽器を弾く若手のインディ・バンドを送り出すことで有名なレーベルではありませんが、彼らと契約したのはなぜでしょう。

メイ&ルイス:えーと……(と同時に答え始めて譲り合う)

メイ:(笑)答えたい?

ルイス:(笑)いやいいよ、メイ、どうぞ答えて。

メイ:ん、いくつかのレーベルと会って話をしたんだけど、中でもニンジャ・チューンの人たちは本当にこちらをサポートしてくれる感じだった。それに、彼らは私たちに近いタイプのバンドと仕事したことのないレーベルだし、そのぶんこちらにエキサイトしている感覚があって。だからたぶん彼らの側も私たちに全力投球してくれるんじゃないか、そんな気がした。そんなところだと思うけど、(他のふたりに対して)どう思う?

タイラー:うん、今話に出た、彼らの所属アクトに私たちのようなバンドが他にいない点だけど、そのおかげで私たちは同じレーベル内で競合する必要がないんじゃないかな。たぶんリリース日程も被らないだろうし、何をいつ発表するかの面をコントロールする自由がこちらにもっとあると思う。でもとにかく、彼らは他のレーベルの誰よりも私たちに対してすごく熱心な人たちだった、というか。初めて対面した時から、彼らとは繫がりを感じてすごく意気投合した。自分たちがこれまで仕事してきたあらゆる人々に関してそうなんだけど、そうやって結びつきを感じるのは私たちにはとても大切なことで。BC,NRが成り立っている、その核になっているのがそこだから。

で、彼らは手紙を書いてくれたんだよね。私たちのためにどういうことをやりたいと思っているか、それらの要望・提案をまとめたものだったんだけど、あれはものすごく熱いエモな内容の手紙で、すごく良くて(笑)。契約しようとしているバンドを夕食会に招くとか、どこかに連れ出してもてなすとか、そういったところは一切なくて、彼らは私たちとコネクトした。あれはほんと、素敵だった。

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