規格外の大型新人ブラック・カントリー・ニュー・ロード、ポストジャンル世代のバンド哲学を語る

めざしたのは「ポップ・アルバム」

―アルバムの話の前に、軽くこれまでを振り返らせてください。BC,NRの前身に当たるバンドの結成はケンブリッジでとのことですが、当時(2015〜2016)のケンブリッジの音楽シーンはどんなものでしたか?

タイラー:(苦笑)そうだなぁ……。

―あんまりイケてなかった?

ルイス:いや、かっこいいことをやってる人だって何人かいたよ。たとえばピート・アーム(Pete Um)って人がいて。

タイラー:ああ(うなずく)。

ルイス:彼はかなり……時代を先取りしてるっていうか。その意味ではたぶん、2050年くらいにならないと時代が彼に追いつかないんじゃないかな。未来から来た音楽をやっている人。

―それはどんな音楽なんでしょうか?

ルイス:いやぁ、どこから説明すればいいのやら、自分でも……(苦笑)。

タイラー:彼は、ちょっと(詩人の)アイヴォー・カトラーっぽい人というかな。



―あ、なるほど。良いですね。

タイラー:ああいうタイプの人。で、(フーッ!と息をついて言葉を選びながら)すごく短い歌をやってて、それを混ぜて奇妙な……うう〜んっ! 困ったな、説明できない!

ルイス:(笑)だからきっと、彼の音楽を形容する言葉は今後出てくるんだよ。でも僕は、彼は時間旅行者か何かに違いないと思ってる。時間を越えて過去に戻ってきて、今の時代の僕たちに未来の音楽を授けてくれているんだ、ってね。少なくとも僕たちにとって、ケンブリッジの音楽シーンにおける彼の存在は重要だった。必ずしも僕たちの作る音楽に直接影響したわけではないし、音にはっきり聴いて取れる影響ではないかもしれない。でも、僕たちに影響したと思う。彼の音楽はしばしば、本当に面白可笑しく、と同時にかなりダークなところも備えていてね。彼の音楽へのアプローチの仕方、音楽の中にあるコメディの要素とダークな要素、それに対する彼のアプローチは僕たちにも確実に霊感を与えてくれた。


BC,NR制作のプレイリスト。バンドの音楽性に直結していそうな実験的バンドから、最近のメインストリーム・ポップまで幅広くセレクトされている。

―お話を聞いていると、以前からアウトサイダー・ミュージックやちょっと毛色の違う非メインストリームな音楽に強い興味があったようです。その興味はどこから生まれたのでしょう? 巷のポピュラー音楽が退屈だったから?

全員:(考えている)

―あなたたちのアルバムにしても、7人それぞれの個性や異なる音楽性が融合したとてもユニークで型破りなものになっています。たとえばの話、BC,NRのシングルがチャートのトップ40に入ることはまずないだろう、と。

ルイス:いや、っていうか、思うに僕たちがやっているのは……全員、ポップ・ミュージックは大好きなんだ。だからあれは、自分たちとしてはポップ・アルバムを作ろうとしたつもりなんだけど、ただ、あんまり上手にやれなかったってだけのことじゃないかな(苦笑)。

―あれがあなたたちにとってのポップ・ミュージック?

ルイス:だから、あれを良いポップ・アルバムにするにはまだ自分たちの手腕が足りなくて、結果的にああいうサウンドになってしまった、と。

メイ:そういうこと。音楽を聴くのは全員大好きだけど、常に聴いているのはポップだし。いつも聴いているし、私たちみんな、ポップ・ミュージックは大好きで。

タイラー:全員に共通しているのが唯一それだ、みたいな。7人それぞれに興味や趣向はたくさんあって違うけど、そんな私たち全員が心の底から愛しているのはポップ・ミュージックだ、と。で、きっと、私たちが生み出したものって……全員がそれぞれハマっている、本当にバラバラな色んなことの累積なんじゃないかな。だから、狙って風変わりなことをやろうとしたとか、そういう面は一切ない。とにかく私たち全員が友人仲間としてひとつの空間に集い、そこで一緒に何かを作り上げていった、その産物に過ぎないっていう。

メイ:そういうこと!

タイラー:自分たちをハッピーにしてくれる、愉快で楽しくしてくれる、そういう何かをみんなで作ろうとした。ほんと、それに尽きるな。ある意味、個性的であろうとすらしていないっていう。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE