UKを制したソウル新世代、セレステが語る「自分の声」を見つけるまでの過程

セレステ
(Photo by Elizaveta Porodina)


パンデミックとBLM運動に思うこと、社会との向き合い方

―新型コロナウイルスのパンデミック、ブラック・ライヴズ・マター運動の世界的な拡大、アメリカ大統領選挙など、2020年から現在に至る混乱した世界情勢は、アルバムの内容にどのような影響を及ぼしていますか?

セレステ:これらに対する自分のフィーリングについてはアルバムでも歌っていますし、そういった出来事が起こる前から、コミュニティの分断は存在していたと思います。ロンドンでは労働者階級の問題がずっと存在していて、ブラック・コミュニティの問題も世界中に存在していました。その動揺の全てが2020年に表に現れ、みんながそれに対する新しい答えを探し始めた。それが大きな変化を生み出したのだと思います。

みんなの抗議は前向きな結果をもたらしていますよね。今イギリスでは、EU離脱が私たちにとって何を意味するかに直面しているところですが、離脱を決定づけた選挙の結果は、特定のコミュニティにおける不穏や、きちんとした教育が行き届いていないとういう現実が引き起こしたもの。教育や人々の理解が揺らいでいるせいで、怒りだけで決断を下してしまった結果だと感じます。



―現在の音楽シーンで、あなたが最も刺激を受けているアーティストやムーブメント、作品を挙げていただけますか?

セレステ:これから起こることに、より刺激を受けると思います。全ての人々が関わって一つになり、みんなのために改善できることを政府に伝え続けていくことなど。ブラック・ライヴズ・マター運動に関しては、私自身も私の周りの人も、問題をより深く理解することができた上、変化がありました。そしてあの運動は、疎外感を感じている様々な人にとって刺激になりましたよね。

私がそれを踏まえて特に感じたのは、トランスジェンダーのコミュニティに対する声がもっと必要だということ。社会の中でもこのコミュニティの規模は小さくて、見落とされがち。去年もより規模の大きな他の出来事の中に埋もれてしまい、過小評価されてしまっていました。彼らの声にもっと耳を傾ける必要があると感じています。私にとって、それはとても重要なことなのです。

―アルバムのオープニングを飾る「アイディール・ウーマン」は、楽曲的にも歌詞的にもデビュー・アルバムの1曲目として良い意味で意表をつかれる内容でした。この曲であなたが訴えたかったことはなんでしょう?

セレステ:「アイディール・ウーマン」の中で、私は自分自身も脆くて不安があることを認めています。でも同時に、その不安の中にパワーを見つけようとしている。社会の期待に応える必要はない。社会が求める格好をして、社会が求める行動をする生き方はしない、ということを歌っています。これは私が自然に考えていたことで、「よし! このことについての曲を書こう!」と思って書き始めたのではなく、自分の中から自然にでてきました。自分自身もあとになってから曲の内容に気づいたくらい。

―16歳のときに制作したという「サイレンス」、そして2019年リリースのシングル「ファーザーズ・ソン」など、父親を題材にした曲を歌われていますが、お父様の存在はあなたの人生観にどんな影響を与えているのでしょう?

セレステ:「ファーザーズ・ソン」を書いたのは今から4年前くらい。私の父は、私が10代の時に亡くなってしまったのですが、あの曲を書いた目的は、父のこと、そして自分のことをもっと理解するためでした。父が亡くなってから、彼のことをもっと知りたいと思って色々と探っていたのですが、私たちの性格はよく似ていることもあって、彼について知ろうとすることで、自分自身をより理解していくことに気がついたのです。

それでこの曲では、父のことを知ろうとすることで、自分についての疑問への答えを見つけたいと思っていました。「I’m my father’s son」と断言する代わりに「Maybe I’m father’s son」と歌詞にためらいが入っているのは、私自身が自分のアイデンティティについて理解していなかったから。自分のアイデンティティは母よりなのか、父よりなのか。今となっては、私は自分自身であって他の誰とも違う、という結論にたどり着きましたけどね。曲を書いた当時は、自分が誰なのか、ということをもっと理解したかったのです。



―『ノット・ユア・ミューズ』を作り上げたことによって得た、最大の収穫はなんでしょう?

セレステ:一番大きかったのは、アルバムをどうやって作っていくかというプロセスを学べたこと。当初は、アルバムをどうやって作ったらいいのかあまり理解していなかったのです。アルバムを作ったことがある人の話を聞いたり、インタビューを沢山読んだりはしていましたが、やっぱり自分でやってみないと完全に理解することはできなくて。

この経験することによって、私がなぜ音楽を作りたいかに改めて気付くことができました。注目や名誉、お金のためではなく、自分自身のために音楽を作ることの大切さを再認識したのです。アルバムを作り終えたあとに感じた充実感も、本当に大きかった。今回、曲作りの楽しさに気づくことができたので、次に作品を作る際には恐れよりも興奮の方が勝ると思います。

―今日はありがとうございました! 日本でショーが見られる日を楽しみにしています。

セレステ:こちらこそありがとうございました。早く来日できますように!


デビュー・アルバムの制作を通して、自分自身のアイデンティティを深く掘り下げたと語ったセレステ。社会問題にも言及するなど、自らの声を最大限に投影した『ノット・ユア・ミューズ』は、収録曲「ヒア・マイ・ヴォイス」が第78回ゴールデン・グローブ賞の歌曲賞にノミネートされ、早くも話題となっている。受賞の行方に注目しつつ、2月26日に控えた国内盤CDの発売を心待ちにしたい。


アーロン・ソーキン監督によるNetflix映画『シカゴ7裁判』のために制作されたエンディング・ソング「ヒア・マイ・ヴォイス」




セレステ
『ノット・ユア・ミューズ』
配信中
国内盤CD:2021年2月26日発売
https://umj.lnk.to/Celeste_Album

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