My Hair is Bad、はじまりの場所・上越で魅せた「無観客」の必然

ただの「お客がいないライブ」ではなく、無観客だからこそのライブをしたい──というのが、新型コロナ禍以降、無観客配信ライブをやるアーティストの、ひとつの目標になっている。観客が入っていたらカメラを置けないアングルから撮ることや、無人の客席に照明や特効を仕込んで効果的に使うことなどを、多くのアーティストが行っている。

しかし、このMy Hair is Badの「Youth baseball」は、そうした演出面での「無観客だからこそ」ではない、もっと根本的な意味で「無観客だからこそ」のライブとして企画されたものであることが、実際に観てわかった。僕はこれまで、ライブハウスなら新代田FEVERや下北沢シェルター、大会場なら東京ガーデンシアターや横浜アリーナ等で、無観客配信ライブの現場に立ち会ったことがあるが、どの会場でも、通常のライブと同じように、歌とそれぞれの演奏をバランスよくミックスしてオーディエンスに聴かせるために、ステージ両側のスピーカーから音が出ていた。


Photo by 藤川正典

しかし、この『Youth baseball』には、そのスピーカーが存在しなかった。オーディエンスがいないんだから必要ない、という判断でそうしたのでは、おそらくない。この高田城址公園野球場では、そうやって通常のライブどおりにスピーカーから音を鳴らすことが、そもそも不可能だからだ。住宅地や学校と隣接している(ことが作品中のドローンの映像でわかる)この場所で、爆音を出して演奏するには、自治体や近隣の住民との交渉が、下手をすると数年がかりで必要だし、その手続きを経ても許可が下りない可能性も大きい。

Rolling Stone Japan 編集部

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE