My Hair is Bad、はじまりの場所・上越で魅せた「無観客」の必然

この町にはいい思い出も悪い思い出もいっぱいあること、野球をやっていたのは小学生の頃からで、My Hair is Badを組んでから13年後にこうしてここでライブをやっていることを、椎木が言葉にし、「誰がなんと言おうと、My Hair is Badの始まりの場所、上越で、この歌を歌います」と、16曲目「最近のこと」が始まる。曲中、椎木に目線を送りながら、オフマイクで歌詞を口ずさむ山本。この曲あたりからさらに日が落ちて、照明が効き始める。

「ほんとに夢の中にいるみたいな2020年になったような気がして。ずっと部屋の中にいて、目の前のことを書いた曲です」と始まった新曲「白春夢」が、この日のライブのハイライトのひとつだった。2020年という特殊すぎた年とその渦中の自分、自分を取り巻く世界と部屋にこもった己の脳内を、生々しい筆致の歌詞と語るようなメロディで描いたこの曲は、これまでのMy Hair is Badにはなかった新鮮さを携えている。この曲が終わる頃には、高田城址公園野球場はすっかり闇に包まれ、3人の姿が照明の中に浮かび上がっていた。


Photo by 藤川正典

20曲目の「惜春」で、演奏と歌をこの日何度目かのトップギアに入れ、そのまま駆け抜けるようにラストの「夏が過ぎてく」へ。椎木が得意とする「帰り道」をモチーフにした曲のひとつだ。「夏が過ぎてく 忘れないように、忘れないように、(夏が)過ぎてく」という最後のラインを歌いながら、2020年10月6日の椎木はどんな気持ちなのだろう。渾身の力でこの曲を歌い終えた椎木の「My Hair is Badでした。また会えますように」という言葉は、最後の挨拶としてはごく普通だが、おそらく今だからこそ、とても切実に、こちらに届いた。

Rolling Stone Japan 編集部

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