ヒット曲を次々と世に送り出す米音楽出版社CEOが語る、ダイヤの原石を探すコツ|音楽ビジネスストーリー

ローリングストーン誌ビジネス連載「AT WORK」: 「人が音楽というキャリアを選択する理由を明らかにしたい」と語るヴィンテン氏。(Photo by Lily Chan)


ー外出禁止期間中の典型的な1日のスケジュールを教えてください。

自宅で仕事をしているので、どうにかしてスケジュールを守ろうと努力しています。そうすることで、みんながもう少しだけ正気でいられるから。そのおかげで、私自身ももう少し正気でいられるんです。朝は6時に起床し、少し遅れて息子と娘が目を覚まします。コーヒーを淹れて、朝食を作って、そのあとに1日のうちにこなさなければいけない色んなことについて考えます。6時半には「ママー」と呼ばれるので、音楽が大好きな子どもたちと踊ります。娘の部屋に昔ながらの小型CDプレーヤーがあるので、CDを再生するんです。

たいてい8時半か9時ごろには母親を“退勤”し、Facet Records、Facet Publishing、Black Diamond Artist Managementという音楽の世界の仕事に取り掛かります。外出禁止期間中ですが、私たちは少しずつやっていくことにしました。というのも、歯車を止めることはできないと気づいたから。別の歯車になっただけなんです。

1日を通して、ソングライターたちと連絡を取り合います。何か新しいことはない? とショートメッセージを送ります。ランチ休憩を取って、午後1時きっかりに娘がお昼寝をします。かならず1時に寝てくれるので、ここで少し休憩が取れるんです。そんなときはたいていペロトンのトレッドミルで少しランニングをしてからシャワーを浴び、普段は別のZoomミーティングに参加します。ミーティングがないときは、午後は音楽を聴いたり、メールをチェックしたりとキャッチアップ業務をこなします。絶え間なくコミュニケーションを取っていますね。

昨年末に父が心臓病で他界し、その2カ月後に1歳の娘が1型糖尿病と診断されました。こうしたことをきっかけに、健康について何かと考えるようになりました。そのため、外出禁止令と在宅ワークによるカオス的状況のなか、私は「恩送りをして、音楽業界で働く母親たちを助けたい。彼女たちは、私のようにあまりに長いこと健康と心身の幸福を後回しにしてきたのだから」と思いました。おかげで、たくさんの恩恵を受けています。コーチングという形で子持ちの幹部社員やソングライターをサポートしているのですが、こうしたことはぜひとも必要だと感じていました。これは他者に奉仕することであり、みんなのことを自分の息子や娘として扱うことです。私は、こうした人々のキャリアを決して軽く見ていません。

ー仕事を切り上げるのは何時ごろでしょうか?

5時半にはノートパソコンを閉じられるよう、全力で努力します。ほんの少しだけスマホを置いて夕飯をとり、入浴し、子どもたちと本を読みます。夫とふたりきりで過ごす時間も多少はあります。そのあとは、翌日やらなければいけないことの計画を立てたり、誰に連絡を取ろうかと考えたりします。

ー音楽業界で多種多彩な業務を経験されましたね。どのようにしてワーナーや大手音楽会社での経験が新しい事業へのアプローチ方法を形作ったのでしょうか?

Facet(Facet RecordsとFacet Publishing)はジャスティン・トランターとの共同事業であり、私たちはそれぞれのダイナミクスを持っています。昔の私は音楽出版社の一社員で、ジャスティンはソングライターでした。いまでは共同所有者であり、ビジネスパートナーでもあります。これはとても大きな変化ですね。会社員時代は、いくつかのことを学んだと思います。たとえば、みんなが生産的で効率良く仕事をするには、どこに組織が必要だということもわかるようになりました。その一方、役割を担う人に課せられた制約や制限は会社員生活とともに置いてきました。こうしたものが大事だとは、とても思えないんです。

ジャスティンと私は、世界をより良い場所にするためにこの事業に取り組んでいます。そのためには確かな立場で仕事をし、ありのままの自分でいる方法しかないと思っています。会社という世界のなかではこうしたことは不可能ですし、文化を育むこともできません。

マネジメントに関して言えば、モチベーションのある人と働きたいです。それに私は、自分をもう少し掘り下げて、自分にとっての次のレベルを見つけるよういつもチームのメンバーの背中を押しています。なぜなら、それは誰もが持っているものだからです。誰かがやり方を教えてくれる必要はありますが、そこには恐怖にもとづいたテクニックではなく、モチベーションと前向きな補強が必要だと思います。私は、アーティストやソングライターたちの舵取りを助けているかもしれませんが、私自身は船長ではありません。彼らのストーリーの一部なんです。

私は、ジョン・プラットのもとで10年近く働きました。彼はいつも私に「いいものは金がかかる」と言いました。クライアントに報酬を与え、ポテンシャルに投資するのが好きです。雇用主のちょっとした信頼が人々のモチベーションをアップさせるんです。

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 ー音楽業界で得た、もっとも大切なアドバイスは何ですか?

アシスタントだったころ、夫(当時はボーイフレンドでした)が電話をかけては「おはよー。音楽出版社で2番目に有能な人材は元気かい?」と言ってくれました。彼は、私を信じてくれたんです。私は何度もこの言葉に救われました。何においても自分が「ナンバー1」だなんて思ったことはありません。でも、誰かがそれを口にし、ポテンシャルに気づかせてくれたことは、何にも変えられない貴重な経験でした。

活動家としてのジャスティンの行動からも多くを学びました。自分にとって大切なことは、声を大にして言わないといけないと。ときにはそれが誰かを怒らせてしまうこともあります。でも、それが自分にとって大切で、社会全体の利益のためになると信じているなら、そうする勇気を持ち、あれこれ批評する人々に立ち向かえばいいのです。

駆け出しのころはジョン(・プラット)の会合に同席し、そこで彼が決して相手を見下さないことに気づきました。力とか、そういうことではありません。ジョンは自身のトーンで話し合いを進め、自分の価値をわかったうえで自身のスタイルで交渉に挑んでいたのです。そうした自信は私にとってとても重要でした。とりわけ私は女性で、ふたりの子どもの母親で、何のコネクションもなく音楽業界でキャリアを積んできたのですから。ジョンがたたき上げの人物で、これほどの品位を持っていたのは私にとってとても意味のあることでした。人の信頼を心の拠り所にすることに話を戻すと、ジョンからの信頼を拠り所にし、それを何とかして自分に適応しようとしていた気がします。

ーまたゼロから音楽業界に飛び込むとしたら、別の方法をとりますか? 音楽業界で働こうと考えている21歳の若者に言いたいことは?

もっと自分自身を信じていたと思います——もう少し早く。だからと言って、弁解はしないと思います。当時は、女性として従属的でなければいけないという空気をなんとなく感じていました。自分には次のステップに進んだり、昇進したりする資格がないんだって。一人ひとりが最初の一歩から自分自身の価値に気づいていることが大切だと思います。

(ゼロからスタートできるとしたら)もう少し早く起業していたかもしれません。でも、会社ではあまりに多くのことを学び、それは私のいまの仕事に活かされています。当時学んだことはすべて、いまの私がいる立場にも応用できます。自分が正しい道を歩み、目的のために進んでいると思えるのです。それに、ありとあらゆる小さな選択がより大きな判断に変わり、正しいことに「イエス」と言えるようになるのです。あきらめず、前進あるのみ。みんなにはこう言いたいですね。

ーずっと前から音楽業界で働きたいと思っていたのですか?

どちらかというと、音楽業界が私を見つけてくれたんです。ニューヨーク大学の映画学科に進学し、ミュージック・ビデオを大量に製作しました。私以外のみんながスタンリー・キューブリックやフランシス・フォード・コッポラに夢中だったのに、私はアーヴィン・プラザ(訳注:ニューヨーク・シティにあるライブ会場)のライブや、ジョン・メイヤーが日本限定でリリースしたボーナストラックだか何だかのミュージック・ビデオを製作するにはどうしたらいいか? ということばかりに気を取られていました。

ー起業以来、仕事に対するアプローチはどのように変わりましたか? 在宅ワーク時代に学んだことはありますか?

たくさんのことを学びました。自分自身をマイクロマネジメントしているのではなく、業務を委託し、自分はもっと有意義な時間を過ごせることとか。大切なのは、チームが成長するためにも、超有能なメンバーに権力を明けわたすことです。これはいまの課題ですね。

勢いこそが鍵だと思っています。だからこそ、強い気持ちで1日を始められるよう努力しています。仕事をしていないときは、頭のなかをスッキリさせるためにも、ランニングから1日を始めます。でも私は常に変化・進化している人間で——これは私の仕事仲間や仕事相手にも言えます——そうであることを意識していたいのです。1日のどこかでただじっと考える時間を持つのも好きですね。




連載:AT WORK
音楽業界を牽引する人々の舞台裏に迫る、米ローリングストーン誌の連載「At Work(アット・ワーク)」
From Rolling Stone US

Translated by Shoko Natori

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