アメリカを超えて世界中を変革しつつあるムーブメントはいかにして築かれたのか、そしてどこに向かうのか。米ローリングストーン誌のシニアライターを務める黒人ジャーナリスト、ジャミル・スミスが運動の内実に迫る。※本記事は米ローリングストーン誌2020年7月号のカバーストーリーを翻訳したものです(ウェブ版は2020年6月16日初出)。新たな発火点はミネアポリスミネアポリスの警察官がジョージ・フロイドを5月末に殺害した2日後、アメリカにおける新型コロナウイルスの犠牲者は10万人に達した。このうち2万2千人は黒人だが、私たちがアメリカの全人口中で占める割合はほんの13%だ。世界的なパンデミックがアメリカのほとんどすべての構造的な不平等をあらわにするなか、ミネアポリスのストリートを覆った動揺はふくれあがり、ここ数世代で最大かつ最多の抗議行動に至った。多様な文化的背景を持つ、幾万に及ぶ非暴力的なプロテスターたちは、さまざまな都市で「ブラック・ライヴズ・マター[=黒人の命は大切だ、以下BLM]」の声を上げた。このフレーズは、現代の公民権運動のマントラであり、私たちの死に対する人々の無関心な態度に対するスローガンである。
ブラック・ライヴズ・マターの創立者たち、2016年撮影。左からパトリス・カラーズ、アリシア・ガーザ、オパール・トメティ。(Photo by This Page: Jeff Vespa/Getty Images for Glamour)公民権運動に関わるオーガナイザーであるアリシア・ガーザ、パトリス・カラーズ、オパール・トメティがこの3語を私たちの精神と心に埋め込んだのは7年前のことで、当時彼女たちはこの国を変えようと動き出していた。今日私たちが目にしている、変化を求める広範な呼びかけは突然始まったものではなく、彼女たちのようなアクティヴィストたちの仕事が結実したものだ。彼女たちの成果は私たちにより多くを求める余地を与えてくれた。というのも、単に口に出すだけでは、黒人の命が本当に大切に扱われるようになどならないからだ。今年に入って、ジョージア州ブランズウィック付近で、ある白人の父子が25歳のアマド・オーブリーを現代版のリンチにかけた。もし今に至るまで黒人の命が大切に扱われてきたというのなら、私たちはブリオナ・テイラーの名前を口に出す必要はなかっただろう。彼女はこの3月、ルイビルの自宅で警察の放った銃弾の雨によって命を落とした。あるいはフロイドの名を唱える必要だってなかっただろう。彼は街角の食料雑貨店で偽の20ドルを使った疑いで殺されたのだ。
●白人警官による黒人男性暴行死、「息ができない」デモが過激化(写真ギャラリー)プロテスターたちは素早く、大きな怒りと共に結集した。標的の範囲は有り余るほどだ。過度に軍事化された警察活動、不適切な医療サービス。大量収監、仕事場における偏見。食料不足に住宅問題、南部連合軍を記念するモニュメント、エンタメ業界におけるレイシズム。「黒人の命は大切だ」という声がプロテスターたちや企業の口から響き渡っているなか、この3語が「生存をかけた闘い」ではなく「事実の表明」とされるアメリカを築くためには、何が必要だろうか?