ウイルス感染の危険を覚悟で働く「買い物代行者」の悲しい現実

経営者と現場との間のプロ意識の差

「僕は配達用に大きなワゴン車を運転していますが、仕事というのはプロとして、お客様の衛生や安全を配慮しなければいけません」と言うテレスさんも、Gig Workers Collectiveに参加している。「残念ながら、Instacartのビジネスモデルはそこまでのレベルのサービスを提供できるようにはできていません。今のような状況でこそ、そうあるべきなのに。でないと、多くの人々や家族を文字通り殺してしまいかねません」

一方Instacartはパンデミックを業績拡大のチャンスと捉え、高まる需要に対応するべく、さらに30万人の「フルサービス・ショッパー」を新規雇用すると公言した――こうした会社側の行動を「無謀だ」とテレスさんは言う。

「研修も受けず、身を守ることもできず、仕事に溢れて困っている30万人をショッパーとして投入するんですか? あまりに無謀です」と、テレスさんは語った。「しかも5万人をニューヨークへ、3万人をカリフォルニアへ派遣するですって? どちらもCOVID-19感染の中心地じゃないですか。僕も含め、我々1人1人がウイルスを媒介するかもしれない。無症状(感染者)かもしれないんです。可能性はあります。そんなことは許されません」

事実、そうした可能性が現実に一歩近づいた。ボストン郊外で働く1人のInstacartの従業員がシェアした会社からのメールには、地元の店舗でCOVID-19の感染者が出た、と書かれていた。これぞまさに、ギグエコノミーに身を投じた人々の多くが直面している極限状態だ。増大する需要に対応するべく働けば働くほど、結果として自分たちの健康や生活が危険にさらされる。そしてInstacartのような企業の経営体制上、契約スタッフは重宝されながらも、十把一絡げの消耗品のような扱いをされている。

「Kroger社やGiant Food社や他の企業はInstacartの従業員と同じようなサービスを提供している上に、InstacartやAmazonがやりすぎだと言っている保障もしています」と、アメリカ労働総同盟・産業別労働組合会議(AFL-CIO)の書記兼会計、リズ・シュラー氏が電話取材に応えた。「同業社はみんなしています」

Translated by Akiko Kato

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