新型コロナ、米ポルノ業界に迫る危機

「個人事業者」のリスクも

そのうえ、大半のパフォーマーが個人事業者であるという事実が絡んでくる。つまり保険に加入していない、あるいは病気になってもなんの保障も受けられないパフォーマーが大勢いるのだ。パーマー氏の周りにも、こうした理由で、軽い病気――たとえば風邪や皮膚病――程度ならそのまま仕事場に現れるパフォーマーが大勢いるそうだ。「自営業の場合、生活のためにはどうしても自分を優先させなきゃいけないのよ」とパーマー氏。「現場に行ったら、共演者が具合悪そうにしていたり、口の周りにヘルペスがあったり。そんなのは決して珍しくもなんともないわ」

ポルノ業界全般も、すでにプライバシーの問題や業界改編の重圧にあえいでいるが、さらに甚大な経済的ダメージを受けることになるだろう。自宅からモデルやWEBカム、カスタマイズ映像制作といったコンテンツ中心の個人営業スタイルにシフトしているパフォーマーは大勢いるものの、従来のカラミ中心の撮影は収入の面だけでなく、他の収入源の宣伝戦略という意味でも必要不可欠だ。新型コロナウイルスの影響による撮影の一時停止は、制作会社にも「大きな被害をもたらす」だろうとミルズ氏は言う。「オーディエンスに新作を絶えずリリースすることが、我々の主要業務です」と彼女は言う。「Netflixが、現在制作中の新作をひとつのこらずお蔵入りにするとしたらどうなるか。想像してみてください」

だがポルノ業界には、他の業界にはない利点がひとつある――すでに何度も、公衆衛生危機を経験している点だ。例えば2013年、4人の男優が検査でHIV陽性だと判明した。ただちにポルノ制作は全面停止され、新たな検査手順が導入された。パフォーマーも、以前は28日おきに性感染症の検査を受けていたのが、現在は14日おきに受けている。

こうした恐怖を経て、確かにポルノ業界は他業界よりも健康への意識が高くなった。万が一、ウイルスの危険に直面しても、これが功を奏するだろう、とアダルトパフォーマー兼監督のレナ・ポール氏は言う。「私たちの仕事は身体が資本です。ですから業界の統括団体(PASS検査制度を統括するFree Speech Coalition、通称FSC)は、白癬(水虫・たむしなど)のような比較的軽症の感染症が流行した場合でも、検疫を敷くことで知られています」と彼女は言う。「ですから自信をもって言えますが、パフォーマーの1人がコロナウイルスにかかったら直ちに制作停止が下されるでしょう」

FSCもWEBサイトでこれを認めている。同団体は現在ロサンゼルス・カウンティも含め、パフォーマーが撮影および/または渡航するエリアを監視しており、これらエリアの1カ所でも、ウイルス感染の拡大によって一般市民への感染リスクが高まったと保健当局が判断した場合は、直ちに制作停止を呼びかけるという。パフォーマーに対しても、制作停止の場合に備えてコンテンツを備蓄しておくよう推奨し、もし具合が悪くなった場合は、「給料の必要性に迫られれば、このような決断をするのは容易ではないでしょうが」、撮影現場に行かないよう呼びかけている――他業界の個人事業者が現在抱えているのと、まったく同じ問題だ。

ウイルスの検査キットが不足している現状を考えれば、検査がすぐにでもポルノ業界の標準検査手順やPASS検査に組み込まれることは、まずないだろう。それでもポルノ業界内には、いまだ根強い期待が残っている。比較的狭い業界で、かつ撮影セットで身体を密着させるとはいえ、仮に新型コロナウイルス感染の疑いが浮上しても「公共衛生危機への対応に関しては、ポルノ業界は間違いなく十分な備えができています」と、ヴァァンデラ氏も言う。

Translated by Akiko Kato

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