米大統領選、選挙から撤退表明のアンドリュー・ヤンが残した爪痕

「派閥政治とは大きくかけ離れた新たなムーブメント」

彼が最も重視した政策理念は、自由の配当(Freedom Dividend)と名付けた最低所得保障制度で、希望する米国の全ての成人に月1000ドル(約11万円)の収入を保障する政策案だった。最低所得を保障することで、オートメーション化やAIの導入によって仕事を奪われた人々に新たなキャリアへの道を開き、職業の再トレーニングの受講を可能とし、彼らのクリエイティブな側面を引き出し、居住する地域により多くのお金を落とすことにつながるだろう。ヤンはよく、行く先々で地元の成人人口に1000ドルを掛けて地域に新たに落ちる金額を算出し、最低所得保障政策による相乗効果をアピールして回った。

アイオワとニューハンプシャーにおけるヤンのパフォーマンスが迫力不足だったことを考えれば、彼の提唱する自由の分配政策が選挙戦のキーとなる両州の民主党員から共感を得られなかったのもうなずける。しかし彼の選挙事務所が独自に実施した調査によると、ヤンに投票したかどうかは別として、彼の集会の参加者やSNSのフォロワーの間では、間もなくやって来るテクノロジーの変革の大きな波に備えて今から準備を始めるべきだという認識が広まっているという。「テクノロジーに自分の仕事を奪われるかもしれない、などという主張は大胆不敵です。明日は我が身かもしれません。ヤンのように警告する候補者は他にいません」と、ニューハンプシャー州在住で無党派層の有権者キートン・ロックが昨年夏(2019年)に語ってくれた。

元キャンペーンスタッフのディラン・エンライトによると、2020年のヤンの選挙キャンペーンが終了するまでに、全米で約350のヤン・ギャングのグループが立ち上がったという。エンライトは後に非営利団体インカム・ムーブメントを設立し、最低所得保障制度の実現を訴えている。ヤン・ギャング・グループのメンバーは、電話やメールや戸別訪問でヤンへの支援を呼びかけた。また、ヤンの「ヒューマニティ第一主義」に基づく地域ボランティア活動も展開した。

「アンドリューにとっては、口火を切って問題提起することが大切なのです。派閥政治とは大きくかけ離れた新たなムーブメントです」と、ヤンの選挙キャンペーンチーフを務めるニック・ライアンは言う。

あらゆる点から考えて、ヤンはスポットライトから遠のく気は無いようだ。ローリングストーン誌が最初に伝えた通り、ヤンは既に2024年の選挙戦を目指している。ニューハンプシャー州での予備選を数日後に控えたある日、ヤンは電話会議でキャンペーンスタッフに語りかけた。「火曜日(予備選の日)に我々が多くの票を獲得し、4年後にもまたこの場に戻ってくる姿を想像してみてください。ニューハンプシャーで土台を築き、次の機会に我々が得る全てのものを加えれば、より良いポジションからゴールを目指せるでしょう。貧困をなくして人々の生活を改善し、我々が愛するこの国を正しい方向へと導けるのです。」

NPO団体インカム・ムーブメントは、ヤン・ギャングのメンバーやその他の支援者と共に、最低所得保障制度の実現に向けて活動を続けたいと考えている。「米国の有権者と国民は、ひとつのソリューションとして最低所得保障制度への理解を深めつつあります」とキャンペーンチーフのニック・ライアンは言う。

ライアンは、ヤンがこれからどのような活動を展開していくかについて詳しく語らなかったが、間もなく明らかになるだろう。「来週また確認してください」とライアンは言った。


Translated by Smokva Tokyo

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