中島みゆきは進化し続ける「天才」 プロデューサー瀬尾一三が語る

中島みゆき(Courtesy of Miyuki Nakajima)



中島みゆきの「場所感覚」とは?

田家:このトイピアノって言うんでしょうかね、これはどういうイメージだったんでしょう?

瀬尾:先ほど仰ってた童歌風っていうのもあって、ちょっと僕のイメージではオルゴール風な感じがあります。少し昔話風な感じ、蓋を開けると記憶も戻ってくるみたいな感じで。旧いアルバムの写真を見ているような感じにしたかったんです。

田家:時間の流れもちょっと変わってくるような。「橋を渡らない こちらの異人のままでいる」っていう歌詞に表れる中島みゆきさんの場所感覚といいましょうか。

瀬尾:僕の個人的な感情ですが、幼少期の頃に、父親の仕事の関係で何度も引っ越しや転校を繰り返しておりまして。転校してその地域に慣れるっていうこととか、そういうことが重なって、歌の中の歌詞にもあるように、どこかその見えない結界があってそこに入ることの覚悟とか、馴染む馴染まないっていうこと、相手がどういう迎え方をしてくれるかっていうのは子供の頃からすごく感じていました。なので、とてもこの心情はよくわかる気がします。何か見えない線がありますよね。

田家:これは日本中どこでもあることでしょうからね。そういう人たちに届けばいいなという曲です。中島みゆきさんで「観音(かんのん)橋(ばし)」でした。

・「自画像」
中島みゆきアルバム『CONTRALTO』全曲トレーラー


田家:続いて、アルバム7曲目の「自画像」です。改めて聴くと、アルバムの10曲の中でも一番バラエティを感じさせる曲ですね。

瀬尾:これを初めて聴いたときは、「いろいろなものに手を出してくるな、趣向を凝らしてくるな」と思ったんですけどね。

田家:これは自画像というだけあって、ご自身のことを重ねたくなりますが。

瀬尾:まあ彼女はクリエイターなのでね。100%彼女のことである必要はないけど、この物語のどこかに彼女が投影されている部分があるかもしれません。

田家:そしてこういうジャジーな曲調。

瀬尾:基本の形はあるけど、あまり形に捉われないようにっていう感じがしますよね。これは言い過ぎかもしれませんが、僕的にはフランク・ザッパ的なことをやりたかった。撮るときには「もうコードとか全部無視して」って言ってたんです(笑)。

田家:それで皆も承知しておもしろがってる感じで?

瀬尾:それはもうツーカーなので、すごい楽です。

田家:さっきの「観音(かんのん)橋(ばし)」との落差がいいですね。それでは、自由で前衛的な「自画像」を聴いてもらいましょう。

瀬尾:最後のあれはね、僕の個人的アイデアで入れてしまったんです。なんていうか独白的です。「このまま行くか行かないか」っていう救われないで終わるよりかは、自分の映っていた鏡を割って次のステップに行って欲しいと思って割ったんです。

田家:なるほど。このデリカシーに欠ける女性が、デリカシーが欠けていることに苛立って。

瀬尾:そうですね、このままの状態でいるというのでなくて。一旦バシャーンって壊してしまいました。

田家:自分に気が付いたんでしょうね。お聴きいただいたのは「自画像」でした。これはあなたかもしれません。

・「タグ・ボート(Tug・Boat)」
中島みゆきアルバム『CONTRALTO』全曲トレーラー


田家:お聴きいただいてるのは8曲目「タグ・ボート(Tug・Boat)」ですね。こういうのが聞きたかったという人が多いだろうなあっていう曲ですよね。

瀬尾:ある意味ショートフィルムになるようなストーリーなので、それを表現できればと思って作ってるんです。

田家:イントロは、霧に煙ってる夜の港っていうのが見えてきますもんね。で、物の見方がみゆきさんらしい。

瀬尾:これは彼女のよく題材にする、”日の当たらない人に日を当てる”っていう。豪華客船とそれを引っ張るタグボートとの比較を寓話的にやっているだけなんですけどね。これは僕の中ではアニメーションなんですよ。擬人化されたタグボートの。曲のリズムも船のエンジンの音とかを意識して作っています。それと、外用に出ていく船と湾内で仕事がないタグボートとの対比がうまく出ればいいなと思っています。

田家:この曲って歌も優しいですもんね。地声っていうか、演技的ではない。

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