Spotifyが撤回した5つのコンテンツ戦略

Barclays Centerで開催された製品発表イベントで、Samsungとのパートナーシップについて語るSpotifyの最高経営責任者ダニエル・エク。2018年8月9日、ブルックリンにて。(Photo by Drew Angerer/Getty Images)



「インタラクティブ・ミュージック」のコンセプトも頓挫

5) Spotify Running (2015年ー2018年)
ウォール街の実力者たちを振り向かせることは、ダニエル・エクにとって長年の悲願だった。そして2015年5月、SpotifyはニューヨークでAppleを思わせるプレゼンテーションを行い、その様子は全世界にストリーミング配信された。それはSpotifyのスマートさと、同社をIT業界をリードするグローバル企業にしようとするエクの野心を世間に知らしめるためのステートメントだった。

当日のプレゼンテーションの目玉のひとつは、前述したVice MediaやMaker Studios、Comedy Central等と組んだショートフォームのビデオコンテンツだった。だがカンファレンス出席者たちを大いに驚かせ、各レコード会社の反感を買ったのは、もうひとつの重大発表のほうだった。登壇したSpotifyのチーフ・プロダクト・オフィサーGustav Söderströmは、ランナーの心拍数に合わせて楽曲が変化するアプリ内蔵プラットフォーム、Spotify Runningをお披露目した。「私たちの目的は、単なるビート・ストレッチ(楽曲のテンポを早めたり遅めたりする編集テクニックのこと)を改良することではありません」Söderströmは誇らしげにそう語った。「これはユーザーのペースに合わせて楽曲が生き物のように変化するという、まったく新しいコンセプトなのです」

「インタラクティブ・ミュージック」というこのコンセプトは新鮮だった。SpotifyはDJ界のスーパースターTiëstoが同プロジェクトのために手がけた「Burn」を含む、ランナーのペースに合わせてテンポが変化する6曲を発表した。この経緯について、業界ではSpotifyがアーティストのレコード契約を無視し、Tiëstoに直接報酬を支払ったのではないかという憶測が飛び交った。

Söderströmは「一流のDJや作曲家、フル編成のオーケストラや映画音楽のプロデューサー」等が手がけたこれらの楽曲の制作費は、Spotifyが全額負担したと説明した。また彼は以下のように語っている。「ランニング目的に特化した音楽を作ること、それが私たちのチャレンジです。ランナーのペースを上げるだけでなく、ランナーズ・ハイを持続させる音楽を生み出そうとしているのです」

「しかし、そこには大きな課題が存在しました。異なる速度で走る無数のランナー、そのすべてにフィットする曲など存在しうるのだろうか?ランナー1人とっても、ペースは常に変化し続けているというのに。その課題に対する私たちの回答、それはランナーのペースによってテンポが変化するという、まったく新しい楽曲フォーマットです」

さらに同社はNikeとタッグを組み、Spotify RunningがNike+プラットフォームで利用可能となることを発表した。しかし2018年2月の時点で、Spotify Runningの靴底はすっかりすり減ってしまったようだった。同社はSpotify Runningが「リタイアする」ことをひっそりと公表したが、その理由についてはまるで触れていなかった。「Spotifyにおける機能の廃止について、私たちは常に極めて慎重に判断しています」同社はそうコメントしている。「ユーザーの満足度を向上させる方法を、私たちは絶えず模索し続けています」

・著者のTim Inghamは、Music Business Worldwideの創設者兼出版人。2015年より、世界中の音楽業界に最新情報、データ分析、求人情報を提供している。毎週ローリングストーン誌でコラムを連載中。

Translated by Masaaki Yoshida

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