「原盤」をめぐる音楽業界の動きとApple Musicの「パトロン」戦略

仏パリで行われたラップデュオPNLのApple Musicローンチパーティーにて PNLの2人とルイ・ヴィトンのヴァージル・アブロー、2019年6月23日撮影(Photo by Anthony Ghnassia / Apple)

テイラー・スウィフトが声を上げたことをきっかけに、現在音楽業界では「原盤」の扱いと、アーティストがそれをレコード会社に引き渡すことのリスクが取りざたされている。

背景を知らない読者のために説明しておくと、テイラー・スウィフトはデビュー作から数えて6枚分のアルバムの原盤権を、ナッシュビルに拠点を置くレーベルBig Machineに引き渡すことを余儀なくされていた。現在同レーベルはその原盤権を、ジャスティン・ビーバーのマネージャーであるスクーター・ブラウンが指揮をとる会社に売却しようとしている。ニュースを受け、スウィフトはブラウンに対する敵意をむき出しにした。

そのメッセージがソーシャルメディア(スウィフトは自身のTumblrを用いた)上で発されたことで、事態は現代ならではのリアルタイムで進行するソープオペラのような様相を呈した。だがこういったストーリーは、実際には音楽業界の黎明期から存在した。若きアーティストがレコード契約を交わし、契約金やレコーディング費用の負担、そして大掛かりな作品プロモーションの約束と引き換えに、作品の著作権をレーベル側に譲渡する。そして大人になったアーティストが大きな成功を収めた作品群の権利を放棄してしまったことを後悔するのだ。

2006年に当時15歳だったテイラー・スウィフトがBig Machineと交わしたこういった契約内容は、今日では非一般的になりつつある。彼女はTumblr上で、Big Machineに引き渡した自身の音楽の著作権は「永遠に私の元には戻ってこない」と述べた。

SpotifyやApple Music等のストリーミングサービスの浸透、そしてInstagramやFacebookを通じてファンに直接働きかけるマーケティング手法が確立されたことで、最近ではアーティストとレーベルの関係は大きく変化した。結果として、レーベルは既にキャリアを確立したアーティストを求めるようになり、新人とは限定的なライセンス契約を結ぶ傾向にある。こういった契約においては、一定の期間(10年程度)が過ぎた後、作品の原盤権はアーティストの元に返される。

アーティストたちはストリーミングやソーシャルメディアといったツールを手にしたにもかかわらず、なぜ現在でもレコード契約を結ぼうとするのだろうか? それは単純に、今でもそれが成功への最も確かなルートだからだ。現在のRolling Stone Artists 500チャートは、その事実を明快に示している。本記事を執筆している時点で、上位10アーティストのうち9組はメジャーレーベルと契約している。唯一の例外、それはチャンス・ザ・ラッパーだ。

著作権を自身で保有しつつメジャー級の成功を収めることは、全インディーアーティストの長年の夢だ。チャンス・ザ・ラッパーは、もはやそれが夢ではないことを証明してみせた。

Translated by Masaaki Yoshida

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