ハリウッドが生んだ変人、ジョン・マルコヴィッチの貴重なインタビュー

Netflixのオリジナルムービー『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー(原題:Velvet Buzzsaw)』に出演したジョン・マルコヴィッチ(Claudette Barius/Netflix)


どういう意味だろう。彼についての真実や嘘、或いは少なくとも思いがけないことだろうか。話が広すぎて、ややまごつくかもしれない。「私は専門家ではないが、かなりの人々が私のことを冷酷、知的、傲慢、そして妙な理由から変人だと思っているのだと思う。自分のことをよく知る人たちは、私が冷酷だとか知的だとは思わないだろう。たぶん傲慢だと感じていると思う。自分としては、全く変人ではないと思っている」とマルコヴィッチは相変わらず陽気に話す。吐き出したタバコの煙に一瞬隠れた彼は、周辺を舞う草木の綿毛のひとつになったようだった。そうして彼は再び口を開く。「私は極めて普通の少年時代を送ってきたと思う」と本音を語った。

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『コン・エアー』で共演したニコラス・ケイジと
Photo: Moviestore/REX/Shutterstock

最も知っておくべきは、マルコヴィッチの少年時代が“普通”とはかけ離れており、トニーという名の架空の人物になりたがっていたということ。彼は、イリノイ州にある小さな炭鉱の街ベントンで育った。父親は『イリノイ・アウトドアーズ』という自然保護雑誌を発行し、母親は主婦として椅子に座って本を読む生活だった。彼女は感謝祭用の七面鳥をオーブンに入れたままスイッチを入れ忘れるようなそそっかしい人で、ジョン、3人の姉妹、兄のダニーはよく怒り狂っていた。母親は、しわがれた声で話すところから“カエル”というあだ名で呼ばれていたという。「彼女はいわゆる普通の母親とは違っていた。彼女はまるで、同居する愉快で奇妙な友人のようだった。両親は完全な放任主義だった。“宿題をしなさい”とか“昨日の夜はどこにいたの?”などと言われたことがない」とマルコヴィッチは証言する。その代り家の中では食べ物が飛び交い、兄のダニーがマルコヴィッチの顔にオナラをして起こしたり、思うようにならないことに腹を立てたマルコヴィッチが、血が出て傷になるまで車の窓に頭を打ち付けたりといった感じだった。学校でのジョン・マルコヴィッチは、1年生の時に担任を“motherfucker”(或いは“cocksucker”だったかもしれないが本人はよく覚えていない)と罵り、イースターエッグ探し大会に負けると学校を飛び出したこともある。彼は気性が激しく、手に負えなくなった時は家から締め出され、二階の窓から「この狂人め!」と家族から罵声を浴びせられた。

時には、リベラルな知性派でかつて第82空挺師団に所属したマルコヴィッチの父親が、ベルトや鉄拳で制裁を加えることもあった。マルコヴィッチは言うことを聞かない子どもで、母方の祖父による無謀ないたずらに便乗したりしたため、よく怒られていた。祖父のスティーヴは炭鉱での作業中に片足を失っていたが、死の直前に糖尿病でもう片方も失った。「彼は競馬好きの似非アーティストで、作品は過大評価されていた。基本的に彼が教えてくれたのは“相手が誰であれ負けるな、皆の上を行け”ということだった。私は彼が大好きだった」とマルコヴィッチは言う。彼は微笑み、クスクス笑いながら思い出を語っている。子どもだからということで何でも許されたマルコヴィッチにとって、どれも苦い思い出だが。

ある時彼は、今乗っているのよりも格好良い3段変速ギア付き英国製レース用自転車に買い替えて欲しいと思った。彼は自動車の窓に頭を打ち付けて父親にせがんでいたが、ある日ついに祖父のスティーヴが堪忍袋の緒を切らした。「うるさい、いい加減にしろ。いいか、明日今の古い自転車をドライブウェイに倒しておけ。俺が車で轢いてやる。そうすればお前の父親は、3段変速ギア付きの英国製レース用自転車を買ってくれるだろう」と言う。孫を車に乗せたスティーヴは、実際に古い自転車を轢いたものの、策略を見破ったマルコヴィッチの父親は息子を車から引きずり下ろして彼を殴り始めた。「それ以来、私は自転車を持たせてもらえなかった」とマルコヴィッチは語る。

またある時マルコヴィッチは医者から、内反足を治すために矯正用の靴を履くように言われた。矯正靴を購入して家へ帰る途中、彼はひどく抵抗した。「大きな金属製矯正具の付いたずんぐりした靴だった。叫びながら狂ったように車の窓へ頭を打ち付けた。祖父が私の方を向き、“こんなものが気に入らなければ窓を開けて放り出してしまえ”と声を出さずに口の動きだけで伝えた」という。「投げ出した靴が地面に着くかつかないかのうちに車は急停止した。私は走って逃げ出したが無駄だった。父親は私を車へ引き戻し、靴で私を殴った。父親に関して間違った印象を与えたくないが、私自身の中には母親の占める割合が大きく、祖父のスティーヴの影響も少なからずある。私の中で父親の存在はそう大きくない。しかし父親はとても魅力的な人間で、彼には純粋に愛を感じる。精神的な葛藤は全くない。家族は皆、少しばかり粗雑なだけだ。私が不公平な扱いを受けたことは決して無かった。おそらく私は、本来得られるもの以下しか与えられていなかったのだ。」

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映画『マルコヴィッチの穴』(1999年)より
Photo Melissa Moseley/Universal/Kobal/REX/Shutterstock

Translated by Smokva Tokyo

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