ハリウッドが生んだ変人、ジョン・マルコヴィッチの貴重なインタビュー

Netflixのオリジナルムービー『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー(原題:Velvet Buzzsaw)』に出演したジョン・マルコヴィッチ(Claudette Barius/Netflix)


フリーマーケットをぶらぶら歩きながら彼はついに気に入ったドアノブを見つけ、30ユーロ(約3700円)で購入した。「馬鹿みたいに高かった。模造品だったし」と彼は鼻を鳴らす。その後自分のアウディに乗って食料品店へ向かい、子どもたちのために惣菜を買い込んだ。途中立ち寄ったガソリンスタンドではポンプが壊れていた。彼の息子が自分の車を借りて出かける時は、ガソリンを補充しておくように何度も言っていたのだが、もう諦めた。「自分の子どもたちは『マルコヴィッチの穴』を観たかって? 俺は知らない。彼らに聞いたこともない」と言う。車寄せに入り駐車してから家の中へ入る。鏡の前で彼は不快で惨めな気分になった。

「自分の頭の形はどうだろう? 綺麗な丸型の頭蓋骨だ。私は好きだと思ったことはないが、嫌っている訳でもない。頭の形について考えたこともなかった」と彼は言う。

マルコヴィッチは振り返り、キッチンの方へ向かう。「鏡はほとんど見ないんだ。興味がない。作りものの鼻や何かを付けた時は別だけどね」と彼は続ける。「自分の存在を“こうあるべき、あのようにあるべき”と固定観念で捉える人が多いが、私はそうでない。あるオーディションで一緒になった女優が、監督がちょっと席を外した時に俺に言ったんだ。私の出演した『危険な関係』を見ながら3回トイレに行ったという。私は“何だそれ?”と思ったが、彼女はマスターベーションしに行っていたんだ。私はただ“教えてくれてありがとう”と思うしかなかった。演じた役柄通りの人間だと思われることも多い。自分としては『二十日鼠と人間(Of Mice and Men)』の役柄の方が近い」と言う。演じたレニーが精神薄弱の巨漢だったことを考えると、とても自虐的な選択だが。「しかし、どう思おうがその人の勝手だ。私は米中西部出身の人間だが、“自分はこういう人間だ”という考えは全く持っていない。もっとも自分自身が認識している訳ではないがね。」

ミシェル・ファイファーとの不倫の末にグレン・ヘドリーとの結婚生活が破綻した後の数年間、マルコヴィッチは自分の精神状態を落ち着かせるため精神分析に通った。彼曰く、有益な経験だったという。「私はくよくよする人間ではないので、最初の1年半は医者のオフィスへ行っても何も話さず、医者が“とても残念です”と言い私が“ありがとう。ではまた木曜に”という感じだった。自暴自棄になっていたかというと、自分ではわからない。とても落ち込んでいたのは事実で、彼は私の命の恩人だと思う」と語る。「私自身がテーマで、ハードだったように思う。私がどう感じようが、どうでもいいことだろ? それに対して私はとても中立的だ。ポパイのように“俺は俺”という感じ。つまり、自分のいかなる点も嫌いではないし、また好きになることもない。ニュートラルなんだ。そこに意味はない。」

マルコヴィッチは、ビジネスについても時間を割いて語っている。2002年から彼は、メンズウェアのデザインを始めた。Technobohemianから現在はJohn Malkovich Fashionと名称変更したブランドで、イタリアとスペインのクールな生地を使った(彼は「生地に目がない」と証言している)シャツ、パンツ、コートを提供している。しかし同時にフラストレーションが溜まり苛つく原因にもなっている。「思い通りの生地が手に入らなかったり、あれやこれやの法外な価格で私から搾取しようとする時、私は本当に叫び声を上げたくなる。ファッションビジネスを続けるのは、並大抵のことではない」と彼は言う。(彼はいつか女性向けジュエリーのデザインも始めるかもしれない。彼は「その他のいろいろな事と同じく、私には何の知識もない」と言う。さらに彼は、フランスに所有する土地でシャルドネの生産を手がける可能性もある。「上手くいくか、自分がまた間抜けになるかのどちらかだ。」)

淹れたてのコーヒーを彼は裏のベランダへ運び、人生におけるささいな事についても話してくれた。

お気に入りの歯磨き粉はトムズオブメインのプロポリス&メイラで、あまり好きでないのはアクアフレッシュ。「何色にも分かれている歯磨き粉なんて必要ない。イライラする。」

マルコヴィッチは“dude”という単語がお気に入りで、メールでもよく「Dude, WTF?(おい、なんてこった)」などと使っている。彼曰く「ただ便利だから」だそうだ。

恐怖症…「たぶん世界屈指のネズミ嫌いだろう。追いかけっこをしたことがあるかって? 追いかけっこと言えるかどうかわからないが、いつも結末がよろしくない。なぜかというと、野球のバットのせいだ。」

マルコヴィッチのリアルな趣味は、皿洗い。「皿を洗うのが大好きだ。アイロン掛けも好きだ。」

彼がおそらく唯一、時々摂取するドラッグがエクスタシーだ。「何だろうが気にしない。“いいね、試してみたいな”という類のもののひとつだ。しかし私は常に働いている。ドラッグで飛んでいる暇がどこにあると思う?」

マルコヴィッチの発言が新たな世界の不思議を示しているに違いない、と考える人も多いが、本人は否定する。「そんなことを聞くのは耐えられない。我慢ならないんだ。ゾッとする。」

彼は周囲の木々や空を流れる雲に目を向ける。「乾燥している。カラカラだ。ここ数日間は雨が降って欲しかったが、どうしていいかわからなかった。北から風が吹いている。たぶん横風も。木々が傾き始める様子が見えるだろう。風が全部の雲を吹き飛ばす。風が雲に負けることは滅多にないから、雨が降らないんだ」とマルコヴィッチは語る。20分後、彼はまた木々の観察を始めた。「横風かどうかを見極めようとしているんだ」という。彼は満足げに天気を予想している。一番満ち足りているように見える。サミュエル・ベケットの戯曲『エンドゲーム(Endgame)』に「You’re on Earth, there’s no cure for that」という台詞がある。マルコヴィッチのお気に入りのひとつだ。彼はベケットの言わんとするところをよく理解している。彼がボトル半分のワインでは満足できないと悟った夜のようだ。彼は頑張り続けている。

Translated by Smokva Tokyo

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