一時期はエクストリームな入り方にハマっていて、とにかく水風呂の冷たいスーパー銭湯が好きでした。水風呂って冷たくても15℃ぐらいで、だいたい普通だと17℃ぐらいなんですけど、そこは5℃なんです。むちゃくちゃなんですよ。冷たいっていうか痛いんです。だから入って10秒ぐらいするとすぐ出なきゃいけない感じで。めちゃくちゃ冷えてからまた常温に戻るとき、とてつもないトランス状態になって、ウオー!みたいな。
でも、サウナ、水風呂、休憩ってやっているうちにバッドトリップ状態に入ったときがあって。トランスしてたら昔あった嫌なことの記憶が逆流してきて“うわヤバい”みたいな。それはすぐに温かいお湯に入って取り戻したんですけど。“なんで俺はサウナでこんなことにならなきゃいけないんだ”と思って。その後、湯船に浸かってサウナにさくっと入って、商店街をトコトコ歩いたときに“これやな”って思い出したんです。気持ちいいことばっか考えてたけどこっちだったんだなと。原点回帰して、最近はゆるい感じで楽しんでます」
偏愛と先鋭は切っても切り離せない。
サウナの話をする彼からはその日一番の笑顔が出た。日常をぐるぐると過ごす中で面白いものを見つけるのは楽しい。
わたしも電線を愛でるのが大好きだ。
深夜0時からの電線架替え工事をめまいがするまで眺め続けたり、電線を礼讃する文章を書いたりしたあげく、瞼の裏でも電線がチカチカしたこともあった。食品まつりは好きなものと向き合い続け、自家中毒になって溺れてしまうことはないのだろうか。
「音楽でも生活でも、まず自分なりにいってみて引き戻すことは多いです。音楽だと、エクストリームなダンス・ミュージックとか、ノイズとか激しいものを聴いてる人が最終的にまったりとしたハウス・ミュージックに戻ってくるみたいなこともあるような気がしてて。
僕がエクストリームな入り方してたサウナから、銭湯に普通に入るようになったこととも結構似てんじゃねぇかなって、だからどうってことはないんですけど。
正直というか、自分に嘘つけない。思ったことをそのままやっちゃうみたいなとこはあるかもしれないですね。興味あることだとワーッといくんですけど、そうじゃないと単純に体が動かなくなっちゃう。
ただ音を出すことが楽しいっていうのが根本にあるので、そこを変えちゃったら何のためにやってるのかわかんなくなるので。やっぱり自分のためにやることがいいんじゃないかなと、そのほうが楽しいですよね。
ライブだと今日はダンス・ミュージックだなとか、その日の環境に合わせてどういう感じにしようかとか考えるんですけど、作品に関しては好きなようにやるからこそ、自分を出せるんじゃないですかね」
Photo by Takuro Ueno右:食品まつり a.k.a foodman
2018年に発表したアルバム『ARU OTOKO NO DENSETSU』とEP『Moriyama』が海外でも高く評価されている名古屋出身のトラックメイカー/絵描き。シカゴ発のダンス・ミュージック、ジューク/フットワークを独自に解釈した音楽でNYのOrange Milkよりデビュー。七尾旅人、あっこゴリラなどとのコラボレーションのほか、Unsound、Boiler Room、Low End Theory出演、ディプロ主宰のMad Decentからのリリース、英国の人気ラジオ局NTSで番組を持つなど国内外で活躍。2月にはアップリンク渋谷で個展「ARU OTOKO NO TENJI」を開催した。
左:石山蓮華
埼玉県出身。「石山蓮華の電線礼讃オリジナルDVD」発売中。主な出演作は、映画「思い出のマーニー」、舞台「遠野物語-奇ッ怪 其ノ参-」、ラジオ「アフター6ジャンクション」、テレビ「ナカイの窓」など。趣味は電線、配線の写真を撮ること。