ラップの新時代を築いたフューチャー、その背景にあるコデインの存在と自身の葛藤

フューチャーという男は複雑だ。彼はいくつもの顔を持つアーティストであり、自前のベースとオートチューンからスーパーヒーロー集団を作り上げた。この8年、彼が名乗ってきた名義を順に挙げていくと、途中から彼が口を挟んできた。「Astronaut Kid、Pluto、Future Hndrxx」。一つでも言い漏らしてしまうと気持ち悪いようだ。それぞれがフューチャーのために、壮大な目標を担っている。その目標とは、フューチャーの痛みや心の傷、トラウマを、新たなポップ・ミュージックに変換すること。数々の名義が一斉にアルバム・チャートに殴り込みをかけ、フューチャーを地球上でもっとも人気のあるラッパーに押し上げあた。そして有能なラッパーやプロデューサーたちに代わって道を切り拓き、彼らをチャートの上位に押し上げた(ジュース・ワールド、Lil Baby、Gunna、他多数)。アウトキャストのアンドレ3000の言葉を借りれば、「フューチャーは、今まででもっとも負のエネルギーに満ちた音楽を作っている」

1月18日金曜日、フューチャーは新作『The Wizrd』のリリースを控えている。本人曰く、現在所属するエピック・レコーズとの契約最後のアルバムになるそうだ。彼はご満悦気味にこう言った。「これでオサラバだぜ」。しかも、このアルバムで新しい人物像を世に送り出すという。「Wizrdってヤツは常に時代の先を読んで、次の一手を心得ているんだ。ここまで長かった。長い道のりを歩んで、やっとどう立ち回ればいいかが分かったよ。今までのようなことを、どうすれば繰り返さないで済むかとかね。それがWizrdなんだ」。まるで仙人のような人物像だが、フューチャーはこの手のキャラクターを10年近くも演じてきた。



ラップファンにとって、かつてMeatheadの名で知られた男はサラブレッドだった――。Dungeon Familyのメンバーであり、アウトキャストとも仕事したことのある従兄弟のRico Wadeとスタジオにこもって幼少時代を過ごした。だが、生い立ちを語る時、彼はいつも口数が少なかった。Apple Musicで公開中の最新ドキュメンタリーの中で、ジャーナリストのエリオット・ウィルソンは、いかにしてここまで成り上がったのかと尋ねた。フューチャーの返事はただ一言、「クラックを売ってたのさ」。こう言って彼は豪快に笑った。

今回のインタビューで彼は、故郷アトランタのカークウッド地区が懐かしいと言った。今なおここで暮らす住人たちを魅了する、彼の神がかり的な魅力があふれた地域だ。「おとぎ話みたいなもんさ」と彼は言う。「神話と言ってもいい。みんなそれを夢見るのさ。そう、夢。だからみんな夢見るんだよ。でも現実にはそんなこと起こりゃしない。みんなただ夢を見て終わるのさ」

「だけど、イマドキの若いヤツらは、夢が現実になるのを目の当たりにできるんだ」と、彼は続けた。「俺はできる。俺は昨日頭の中で描いていた夢を、現実にすることができる。欲しいと思っていた車、憧れていたライフスタイル、全部現実にしてやるのさ。なりたい自分に、憧れのマイホーム。俺の従兄弟もそうだった。彼は夢見たことを全部現実にしたばかりか、夢見た以上のものを手に入れた。それが人々に希望を与えるのさ。多くのエンターテイナーがアトランタに希望を与えているんだ」

Translated by Akiko Kato

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