「ぼくらは第一世代」88risingのセン・モリモトが語るアジアと日本、アメリカの新しい繋がり

ーあなたはサックス奏者として長いキャリアがあるわけですが、サックス・プレイヤーとしての道に進むことも考えたことはあるんですか?

モリモト:あるよ。10代の頃にね。「いつかバークリーに行っちゃったりして!」とか。サックスで大学に行って、ニューヨークに行ってジャズ・ガイになるんだとかさ。でも高校生のときにラップ・ミュージックやヒップホップの曲を作り始めて、卒業する頃には自然と、ジャズで成功してやろうみたいな気持ちじゃなくなってたかな。それで大学には行かなかったんだけど、自分でちゃんと音楽を作り始めて。そこからはプロデュースに専念していて、しばらくサックスには触れていなかったんだ。でもここ数年で急にまたやりたいって気持ちになって、もう一度はじめてみたら、おもしろいことに「帰ってきたぞ!」みたいな気分ですごく懐かしくて。自分のなかに自然とあったジャズってものが、そこでようやく腑に落ちたというか。

ーちなみに、憧れだったサックス・プレイヤーは?

モリモト:ネヴィル・ブラザーズのメンバー、チャールズ・ネヴィルがサックスの先生だったことがあるんだ。彼はぼくが育ったマサチューセッツに住んでて。一緒にサックスをやってたKaiって友達とふたりで、毎週土曜に彼の自宅に行って、ジャム・セッションをしたりして過ごしてた。彼はジャズの歴史とか、自分の経験について話をしてくれて、音楽についてたくさんのことを考えるきっかけをくれたんだ。いわゆる定義じゃなくて、もっとどう感じたらいいのかをコミュニケーションを通じて教えてくれたんだよね。彼は間違いなくぼくのヒーローだよ。ちょうど2018年に亡くなってしまったんだけど。

ーそうでしたか。

モリモト:ほかには、キャノンボール・アダレイがすごく好きだったね。ジャズに最初にハマったきっかけのソニー・ロリンズは自分にとって大きな存在だし、スムースなサウンドが好きだからスタン・ゲッツみたいなプレイヤーも好きで。ジョン・コルトレーンなんかは、ちょっと洗練されすぎていて幼い頃はピンとこなくて。今はいいと思えるけどね。だからもっとスムースなポップな感じの、ソニー・ロリンズとかソニー・スティットとかが好きだったよ。あとは大好きなバンドがいたんだけど、今信じられないことに名前が出てこなくて。ドラムとベースとピアノのジャズ・トリオなんだけど、ニルヴァーナとかのものすごいカヴァーをしてて……。

ーバッド・プラス?

モリモト:そう、バッド・プラス! CDは1枚しか持ってなかったけど、すごくよく聴いたんだ。


セン・モリモトがサックスを吹くパフォーマンス映像

ーマサチューセッツからシカゴに引っ越したのは、自分が行きたいと思ってのこと?

モリモト:そうだね。当時付き合っていたひとと一緒に引っ越したんだけど、彼女は学校に行ってて、自分はなにをしたらいいかもよくわかってなかったよ。とにかく働かなきゃーって。誰も知り合いがいなかったから辛くて、部屋にこもって音楽を作ってるしかなくて。落ち着くまでには少し時間が必要だった。でもそこから出会った人はみんな好きだよ。

ー数年前にロスコー・ミッチェルっていうシカゴのサックス・プレイヤーが書いた古い記事を読んだんですが、彼はそこでシカゴとニューヨークについての違いについて書いていて、建造物や街の風景がフリージャズのスタイルにも影響していると。ニューヨークは道路や空も狭いけど、シカゴはもっと開けていると。ぼくはシカゴに行ったことがないから実際にどんなふうかわからないんですが、彼はシカゴ・ジャズの自由さというかユニークさが、そういったオープンさにあると述べていて。

モリモト:わかるよ。

ーもしシカゴじゃなくてニューヨークを選んでいたら、今つくっているサウンドも違うものになっていたと思う?

モリモト:そう思うよ! ぼく自身こうやってシカゴにたどり着けたことをすごくラッキーだと思ってる。ニューヨークだったらもっと厳しかったんじゃないかな。

ーシカゴにはそういった特別なヴァイブというか雰囲気を感じる?

モリモト:その通りだよ、人々がとてもオープンなんだ。音楽に限ったことじゃなくて。ニューヨークの人たちは、外で他人に見られたり話しかけられたりするのをあまり心地よく思わないというか。なんだか怖い感じもするしね。それに比べるとシカゴの人はみんなフレンドリーだよ。

ー民族的な多様性もある?

モリモト:それは、地域とか街の成り立ち方によって異なるかな。ちゃんと公共機関が発達してていろんなとこにアクセスしやすいエリアはもちろんそうだけど、そうじゃない地区みたいなのもあって。でも、音楽コミュニティ内に限っていえば、すごく多様だよ。これまで一緒にやってきたパフォーマーはブラックにブラウンの人たち、ホワイトの人もいくらかいれば、ぼくみたいなのもいるしね。

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