トレント・レズナーが断言「リサーチはマーケティングの仕事、作り手は気にしない方がいい」

ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナー(Photo by Brandon Bowen)



ーその内容は?

(『バッド・ウィッチ』は)頭の中が悲観的思考に支配されてしまった状態を示してる。「自分がかけがえのない存在だなんていうのは錯覚に過ぎない。俺たちは皆、自分自身のデバイスが生み出したアクシデントなんだ。俺たちがたどり着いたこの世界では、あらゆる希望はすべて幻影でしかない。破滅への道を自ら突き進む俺たちは、この世界の支配者なんかじゃない。自らを神のような存在と信じる、盲目の動物だ」。そのコンセプトを最も強く反映しているのが「Ahead Of Ourselves」だ。

ー『バッド・ウィッチ』の「Shit Mirror」では、あなたとアッティカスが砂利を踏み鳴らす音が使われていますが、その理由は?

曲のコンセプトに通じるところがあると感じたんだ。世界のリーダーが人種差別を容認し、不都合な問題から目を逸らし、人々は世間の目を気にしつつ、隠していた秘密を曝そうとしている。そういう今の状況って限りなくグロテスクだと思うんだよ。そういう恐怖感を体現する何かを、レトリックのような形で曲に盛り込みたかった。地面を踏み鳴らす音っていうローテクな演出は、ふんぞり返った傲慢なリーダーたちを揶揄してもいる。



ーサックスを使おうと思った理由は?

特にないよ、たまたま手元にあったんだ。高校を卒業してからもずっと、いつかサックスの腕を磨きたいと思ってたし、レッスンを再開することも考えてた。何となく手に取ってみて練習してるうちに、「まぁいいや、録ってみよう」ってことになったんだ。「God Break Down the Door」のセッションでは、俺が1時間くらい吹いたやつをアッティカスがアレンジしたんだけど、その時点で手応えを感じてた。サイケデリック・ファーズの最初のアルバムって、各メンバーがそれぞれ好きな楽器を手に取って気の向くままに演奏するっていう、言わば音のコラージュみたいな作品なんだけど、見事なミックスも手伝って、カオティックかつクールな唯一無二の世界観を作り上げてる。それをふと思い出して、俺もああいうのをやりたいって思ったんだ。


「アイム・アフレイド・オブ・アメリカンズ」のビデオ撮影現場でのトレント・レズナーとデヴィッド・ボウイ(Photo by Rolling Stone)

ーあの曲では他とは異なるヴォーカルスタイルを披露していますね。

ボウイっぽい囁くようなあのヴォーカルは思いつきで、当初は差し替えるつもりだったんだ。でもアッティカスが「これはそのままにしておくべきだ」って言ったんだ。

ーサックスといえば、ボウイの『ブラックスター』でも使われていました。

言われるだろうとは思ってたよ。俺にとって、彼は今でも大きな存在だからね。

ー彼について、今はどのような思いを抱いていますか?

まずアンソニー・ボーデイン(6月に自殺で亡くなった人気シェフ)について話そう。俺は会ったことはないんだけど、彼がいなくなってこの世界はまた少し魅力を失ったと感じてる。特に今のようなご時世には、彼のような存在が必要なんだよ。俺たちはまた1人、偉大な人物を失ってしまった。

ボウイとは多少なりとも交流があった。彼の作品からは多くを学んでいるし、それはこれからも変わらないと思う。幕を降ろすには早すぎたし、もっと彼の音楽を聴いていたかった。俺は彼のことを家族のように感じていたんだ。必ずしも側にいなくとも、いつも心の支えになってくれている存在っているだろ。現代のような不穏な時代には、そういう人物が同じ世界を生きていると考えるだけで、少しだけ勇気をもらった気分になれる。彼は俺にとってそういう存在だったんだ。

Translated by Masaaki Yoshida

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