エレファントカシマシ、表と裏の世界をくぐり抜けてきた宮本浩次の「今」

3月17日に、さいたまスーパーアリーナにて行われたエレカシデビュー30周年記念ツアー『30th ANNIVERSARY TOUR "THE FIGHTING MAN" FINAL』(Photo by Katsumi Omori)


続いて宮本が15歳のときに書いたという「星の砂」を演奏。記憶が正しければ、プロになるためのオーディションでも演奏していた曲で、これもバンドにとっては大切な曲であり、この曲も4人で演奏した。そして次の「i am hungry」演奏後のMCでは、宮本から6月6日にリリースするニューアルバムの制作を進めていることが語られ会場は大いに沸いた。

本編中盤のヤマは14曲目に演奏された「桜の花、舞い上がる道を」だったと思う。この曲で大量の桜の花びらが会場を舞い、その中で宮本はこの歌を歌った。その景色が温かく美しかったのは想像に難くないと思うが、その次に演奏された「ズレてる方がいい」への流れが素晴らしかった。この曲は孤独や虚無をも賛美するかのような歌だ。エレカシの世界は単に温かく優しく美しい世界ではない。そのすぐ後ろには孤独、狂気、虚無、怒り、不条理が手の届くところに横たわっている。でも、そうした世界をなんとかくぐり抜けてきた宮本が希望や夢を歌うから、エレカシの歌は格別に美しく、優しく、温かく、そしてリアルなんだと思う。「ズレてる方がいい」を歌う宮本の足もとには舞い落ちた無数の桜の花びら。その世界はまるで、坂口安吾の『桜の森の満開の下』の世界に思えた。そして、こうした安吾的な世界が横たわる故にエレカシが歌う希望はリアルなのだ。



本編の後半は“化けの皮を剥ぎに行こうぜ さあ勝ちにいこうぜ”とオーディエンスを挑発する歌、「ガストロンジャー」、 “さぁ頑張ろうぜ”という歌詞で始まるエレカシ史上最強の応援ソング「俺たちの明日」の連奏で締めた。「俺たちの明日」では会場センター付近までせり出した花道で宮本と石君の2人が飛び出し、圧倒的な演奏を聴かせてくれた。そして、この「ガストロンジャー」での挑発と「俺たちの明日」での応援が並列しているのもリアルだ。私たちはみな、応援や希望といった温かい世界に浸かり生きているわけではなく、不安、怒り、虚無の中にいながら、ギリギリのところで前向きに生きているのだ。こうした曲を全身で歌う宮本だから、ライブ中に何度も言う「エブリバデー、ドーンと前に行こうぜ」という言葉が響く。

休憩を挟んで2部へ。
2部は全部で6曲。

2部のハイライトは、5曲目の「今宵の月のように」。去年末の紅白でも歌われたエレカシの代表曲。アリーナという大きな空間で、特別な演出もないシンプルな演奏だったが、宮本の歌は隅々まで届いていた。そういえば、今年の初めに宮本と会ったときに、「紅白で上手く歌えたことがすごくうれしかった」と言っていたが、今や「今宵の月のように」に限らず、宮本が歌うと、その歌はどんな曲でもエレカシの歌になり、聴く者の心に入ってくる。「今宵~」に続いて2部の締めに「Easy Go」という今回のツアー中に出来た新曲が歌われたが、初めて聴いた曲にもかかわらず、歌が心に飛び込んできた。

デビュー当時のエレカシも歌、演奏ともに圧倒的にすごく、筆者も夢中になった。だが、その歌がお茶の間までは入り込めなかった。今の宮本の歌はどんな曲でもお茶の間で入り込む何かがある。それがデビュー30年の大きな収穫の一つなのかもしれない。

短い休憩を挟み3部=アンコールへ。

「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」からスタート。この曲でホーン隊、ストリングスチーム、サポートメンバーのヒラマミキオ(Gt)、村山潤(Key)全員のメンバー紹介を行う。



アンコールは全5曲でどれも素晴らしかった。中でも3曲目に演奏された「友達がいるのさ」はシングル曲ではないが、30周年ベストにも収録された名曲の一つで素晴らしい演奏だった。30周年ベスト盤の取材で宮本も「この曲、何故か人気あるんです。うれしいです」と言っていたが、この曲は“東京中の電気を消して夜空を見上げてぇな”という歌詞から始まり、曲の中盤で“おい、あいつまたでっかいことをやろうとしてるぜ” という宮本のセリフが入る。この歌を聴くと夢と大志を抱いていた青年時代を思い出す人も多く、それがこの曲の人気の理由なのではないか。確かに、みな青年時代、夢と大志を抱いていたが、いつしか生活の濁流にのみ込まれ、夢など抱いていられなくなってしまう。どこかで「俺はこんなもんじゃない」と思いながらも、「こんなもん」以下に落ちて行く日々。そんな日々を誰もが経験したことがあるような気がする。もちろん宮本もその一人だ。そんな宮本が「友達がいるのさ」の中で“出かけよう”と身を悶えさせながら歌いかけてくれる。この曲をライブで聴くと、そこはかとない元気と勇気と希望が湧いてくる。

「友達がいるのさ」の演奏を観ながらあらためて思ったのは、宮本の歌は全て「生活」が起点になっているということだ。天才ヴォーカリストだし、天才ミュージシャンだが、宮本はロックスターではない。そこには生活の匂いがする。そして、私たちはエレカシの歌を生活の中で聴きながら前へ歩いて行こうと思う。この日も会場は大きかったが、バンドと距離はとても近く感じた。

続いての「涙」ではパイプ椅子に腰かけ弾き語り、最後は圧倒的なパフォーマンスの「ファイティングマン」でアンコールを終了。

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