ブルーノ・マーズ「完璧主義者の新たなる挑戦」

彼は現在、キャバンと愛犬のロットワイラーのジェロニモと一緒に、2014年に650万ドルで購入したとされている豪邸に住んでいる。水着ブランドJ. Marieのデザイナーであるキャバンとマーズは、彼のデビューアルバムがリリースされる前に出会い、6年間寄り添い続けている。結婚の予定はあるかという質問に、彼は思わず声をあげた。「ジーザス!」マーズは笑ってこう続ける。「彼女は俺の親友で、俺のハートさ。それだけのことだよ。俺たちは今のままで幸せなんだ」一瞬の沈黙を挟んで、彼はこう続けた。「少なくとも彼女がこの記事を目にするまではね」機会は多くないものの、外出する際にはできるだけ人目につかないようにしていると彼は話す。「俺はパーティの様子をインスタグラムに上げたりしないんだ」彼はそう話す。「携帯を持ってかないようにしてるしね。俺はすぐ物を失くすからさ」スキャンダルを好むスターがいる一方で、マーズは平穏な生活を求める。「スキャンダルだって?」バカバカしいと言わんばかりに、マーズはこう返す。「俺は成功を収めた時から、自分の行動や発言にはいつも注意してる。俺にスキャンダルは無用さ。失言でキャリアを台無しにするなんてごめんだからね」

とは言え、そういった事態に巻き込まれるのはスターの常だ。数年前、『ロックド・アウト・オブ・ヘヴン』がMTV Video Music Awardで最優秀男性アーティスト・ビデオ賞を受賞した際、カニエ・ウエストはブルックリンで行われた自身のショーで不満を露わにした。「俺はあの場にいた。ドレイクやブルーノ・マーズが演奏するのを客席から観てた」ウエストはこうまくし立てた。「信じられないことに、ブルーノ・マーズが賞を総なめにしたんだ!MTVは視聴者を洗脳して、あのキュートなマザーファッカーのグッズやら何やらで金儲けしようとしてやがる!」

マーズは自身のポリシーを守ろうと、最初はその件について語ろうとしなかった(「彼はいつもパパラッチに囲まれてて大変だろうね。俺の周りには誰もいないのに!」)しかしやはり抑えられないといった様子で、こう話した。「俺が獲ったのは1つだけだ!」(実際にはその夜に2つの賞を獲得している)彼は笑ってこう続ける。「でもキュートって部分は間違ってないな。カニエはやっぱりカニエらしくないと世間が喜ばないからさ。彼が言ったことは別に気にしてないよ。俺はどんな批判にもちゃんと耳を傾ける。でも、俺はどんな批評家よりも自分の作品を厳しい目で見てると自負してるんだ。俺のことをディスるやつは、ただセンスがないだけさ」

「彼とは仲直りしたよ」マーズはそう話す。「あの後謝罪の電話をもらったんだ」(ウエスト側はノーコメントとしている)「カニエだって俺のことは好きさ。そうじゃないはずがないだろ?俺はブルーノ・マーズなんだぜ!」

10月最初の週、それが最後になると信じつつ、マーズは再びスタジオに足を運んだ。アルバムは正式に完成しており、当日はアートワークのフォントの最終調整を行うことになっていた。翌日にはニューヨークに飛び、『サタデー・ナイト・ライブ』に出演する予定だ。また当日はファーストシングルの『24K・マジック』が公開されることになっていた。マーズは自身の誕生日の10月31日の発表を希望していたが、アップルの都合で前日の金曜日に前倒しされたのだった。

「時々さ、俺って現代の音楽業界の基準から10年くらい遅れてるのかもって思うんだ」マーズはそう話す。「プラットフォームが乱立してて、誰の金が誰に払われてるのかもよく分からない。変な話だよな。Netflixみたいなサブスクリプション式のストリーミングが主流の今じゃ、もう誰も曲を買おうとしない。そんな状況でどうやって金を生むかって業界が試行錯誤してる時に、俺は相も変わらずアルバムを作ってるんだよ」

現在の音楽業界の基準に沿って、彼の作品もCD発売に先駆けて先行配信される。「参加したいやつは誰でも参加できる、それがパーティの基本だ」彼はそう話す。「自分の音楽を特定の人にだけ聴いてほしいなんて思ってるアーティストはいないよ。でも今はそういう時代なんだ。レコードからカセットに、カセットからCDに、CDからMP3に移行した時も同じことが起きてた。『音楽はレコードでしか聴かない!』なんて偏屈になるのもどうかと思うしね。でもこないだ新作のCDのパッケージをチェックした時は、ちょっと悲しい気分になったよ。そういう作業をすることは、きっと今回が最後だろうからね。残念だけど、消えゆく運命なんだよ。3年後にはもうすっかり姿を消してるはずさ」

そう遠くない未来にヴァーチャルリアリティが定着すれば、至るところで彼のホログラムが映し出されることだろう。郷に入っては郷に従う、彼はそういうプロ意識の持ち主だ。

こういう時代だからこそ、肝に命じている教訓があると彼は話す。それはドイツでコンサートを開いていたライオネル・リッチーが、バックステージで口にした言葉だ。マーズが演奏した会場で翌日コンサートを開いたリッチーが、彼をショーに招待したのだった。

「あのイカした髪型も含めて、彼は最高にクールだったよ」彼はリッチーと会った時のことをそう振り返る。「彼にこう言われたんだ。『ブルーノ、君はトップじゃないと気がすまないタチだろう?レストランで席が空くのを待つなんてまっぴら、君はそういう人間のはずだ。わかるよ、私もそうだからね。その座を譲りたくないなら、決して立ち止まらないことだ』

かつて世界の頂点に立ったリッチーのアドバイスは説得力に満ちていた。同時に、それはこの世界のシビアさも示唆していた。「彼の言わんとしていることはよくわかったよ」マーズはそう話す。「彼はこの世界で酸いも甘いも経験しているからね。『立ち止まった瞬間、君は追い越される。一瞬のうちにだ。だから決して立ち止まるんじゃない』それが彼のメッセージだったんだ」マーズは笑顔でそう話す。「何があっても進み続けろ、そういうことさ」


Translation by Masaaki Yoshida

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